強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第七十七話「もう一度ジパングへ」

「まずはここを出よう。俺の周りに集まってくれ」

 

「「はい」」

 

 生け贄になった人達の蘇生が目的で留まっていたが、洞窟の中は快適とは言い難い。呼びかけに返ってくる返事は早かった。

 

(ナンバリングが違うけど、この呪文は馬車や船ごとの脱出も出来たはず。ならこの人数だって問だ)

 

 問題はない、と思われた。

 

「スー様っ、これでようございまするか?」

 

「いや、そんなに密着する必よ、ぷっ」

 

 だが、落とし穴は意外なところに空いていたのだ。柔らかな何かを押しつけられた俺は返事を返すことさえままならず。

 

「ちょっ、押さな」

 

「痛っ、ちょっと足踏まないでよっ」

 

「わ、私じゃありませぬ」

 

 プチ押しくらまんじゅう状態の中核にされた俺を取り巻くのは、もはや混沌だった。

 

(い、息が……)

 

 と言うか、おろちは圧倒したのに何でこんな所で殺されかけてるのだろうか。

 

(っ)

 

 押しのけれるにしても武器を持ったままの右手は使えず、左手は盾という面積の大きなモノをつけている為お姉さん達の間から引き抜けず。

 

「あんっ」

 

「ぷはっ、く、口を塞ぐな……リレ、ミトっ」

 

 顔を背けるようにして何とか柔らか凶器から口の自由を確保した俺は、即座に呪文を発動させた。至近距離から聞こえた艶っぽい声は、聞かなかったことにして。

 

(洞窟だ、洞窟さえ出れば)

 

 呪文で脱出する為に密集ったなら、外に出ればこの今日何度目か解らないピンチからも抜けられるはずである。移動呪文特有の浮遊感に呪文が正しく発動した確信を得ながら、身体は一瞬で洞窟の外にまで運ばれ。

 

「よしっ、そ」

 

 視界の端に空が見えたと思った直後だった。

 

「きゃ」

 

「ああっ」

 

「ぷっ」

 

 悲鳴が上がり、俺の視界が肌色で埋まる。洞窟の入り口に出現した瞬間、お姉さんや少女の何人かがバランスを崩したんだと思う。

 

「痛ぅ、お、重い」

 

「そ、そんな重いなんてあんまりでありまする」

 

「いいから退いてよ」

 

「空が、ああっ、また空が見れるなんて……」

 

 再びのパニックの中、一人感動してるっぽい外周部分のお姉さんの声が何故かはっきり聞き取れた。

 

(っ、感動に浸ってるところ悪いけど、助けて欲しいとか思っちゃったり)

 

 声が出せないどころか、息も出来ないのだ。

 

「み、皆様、スー様が」

 

 気づいて声を上げる人が出てくるまでたぶん一分もかかってないと思うのだが、その一分は長かった。

 

「……はぁはぁ、まさかこんな所で死にかけるとな」

 

「も、申し訳ありませぬ」

 

「ごめんなさいっ」

 

「いや、俺も説明不足だった……」

 

 助けたり生き返らせた少女達から逆に救助された俺は、草の上に座り込んだまま頭を振ると荷物を漁ってキメラの翼を取り出す。

 

「これは放り投げることで記憶にある遠く離れた町や城へ運んでくれる道具だ」

 

「このようなモノで飛べるのでありまするか?」

 

「最後に着地があるからそのつもりでな。さっきみたいに固まりすぎると惨事になりかねん」

 

 人によっては役得だとか羨ましいとか言うかもしれないが、苦しいモノは苦しい。

 

(だいたい、ただでさえ身体のスペックに助けられてるだけの人間だって明かした後なのに)

 

 この状況を楽しんで何て居たら、ゴミでも見るような目を向けられたって文句は言えない。

 

(そもそも、責任とれないんだから下手なこと出来ないよな)

 

 一度折ったフラグが立つような真似は避けるべきである。

 

「とにかく、今のままで居る訳にもいくまい、まずサマンオサに飛んで服を用立てる」

 

 何というか今のままでは目の毒なのだ。

 

(アリアハンに飛んで職業訓練所に預けたほうが手っ取り早いんだけどね)

 

 全員が協力者なら、そちらでなにがしらの職に就き、ついでにルイーダの酒場で仲間として連れ出せる形にしておくと言うところまでは考えてみたのだが、その場合、この格好のお姉さん達と顔見知りの多いアリアハンへ飛ぶことになる訳で。

 

「おい、凄い格好したネーちゃん達が居るぞ?」

 

「ホントだ。あれ? 一緒にいるあれって勇者様の……」

 

 などと目撃される訳ですね、わかります。

 

(風評被害ってレベルじゃねーですよ?)

 

 もちろん服をまともなモノにしても言われるだろうが、あの格好と比べれば数倍マシである。

 

「ちゃんと一定の距離は取ったな? よし、サマンオサへ」

 

 早く何とかしないとと逸る気持ちを堪えきれず、俺は確認するなりキメラの翼をほうり投げた。

 

「うきゃあっ、飛、飛んで」

 

「浮、浮い」

 

「ああっ、心の準備がまっきゃあぁぁ」

 

 空の旅初体験のお姉さん達だ、悲鳴をあげるのも仕方ない。

 

(しかし、サイモンさんと話すのは後回しにした方がいいかもな)

 

 全員アリアハンに連れて行くなら、サマンオサへ立ち寄った理由はほぼ服の用意だけになる。

 

(着替えて貰った後は宿に一~二泊して貰って、その間に用事を済ませれば……)

 

 そもそも、おろちが大人しくこちらの言うことを聞いているなら、急いで解決しなければ行けない案件はもう無かったと思う。

 

(俺が忘れてる可能性もあるけど……)

 

 原作記憶が、うろ覚えであることが悔やまれた。

 

「スー様」

 

「ん?」

 

「何かお悩みでありまするか?」

 

「いや、物語の中で他に俺が行動することで救える者が居たか、とな」

 

 ただ、考え事をこうして隠さず明かせる人が出来たことは、大きなプラスだとも思う。

 

「……スー様」

 

「俺が何故今ここにいるのか、意味があるのか単なる事故なのかすらわからん。だがな、お前達を助けられたのも今俺がここにいるからだ。なら、他にも救える者が居るのではないかとな」

 

 内心を吐露し、着地に備えるようにとクシナタさんへ続けて言い、俺も軽く膝を曲げて衝撃に備える。

 

(まぁ、移動呪文だから着地に失敗したところで怪我何てしないけどね)

 

 ただ、お姉さん達が倒れ込んでくる事態は避けたかったのだ。

 

「っ、皆大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「スー様のおかげでございまする」

 

 わざわざ声をかけた成果か。見回して声をかけてみたが、お姉さん達が転倒している姿はなく。

 

「なら、俺は服を買ってこよう。人目につきにくい場所に隠れていてくれ」

 

 姿を消す呪文用のMPも残っていなかった俺は、お姉さん達を残し走り出した。

 

(何というか、本当にもう、目の毒だよな)

 

 せっかくフラグを折ったというのに、じろじろ見てしまって変な誤解をされるのは避けたい。とはいえ、あの格好を前に無関心でいられる木石で俺はなかった。

 

(きっと生き返った興奮とかで吊り橋効果みたいなモノが働いているだけだろうし)

 

 服を与えて暫くすればこの状況だってきっと落ち着く筈。

 

(だいたい、この身体がなければ俺のどこに女性を引きつける点があるのかも疑問だもんなぁ)

 

 ブレナンの家の前を右折し、服屋へ向かいながら密かに苦笑する。

 

(クシナタさん達には憑依のこともバラしてるし、ピンチはあれっきりで終了に決まってる)

 

 左手に見つけた道具屋をまずはスルーして、更に町の奥へ。

 

「武器防具屋か、あそこも後だな」

 

 生け贄だったお姉さん達が何を装備出来るのかが解らない以上、とりあえず誰でも装備出来る布の服を人数分買って戻るのが先だろう。

 

「女性用のゆったりした服を……これと同じモノはあるか? 数は――」

 

 飛び込んだ店で服のサイズという問題に行き当たり、大は小を兼ねるとばかりに大きめの服を人数分注文し。

 

「もちろんありますが……本当によろしいので?」

 

「何か問題があるのか?」

 

「これ、マタニティドレスですよ」

 

「な」

 

 何故かまごつく店主に訝しんで問い返した俺は、とんでもない地雷を踏んづけそうになったことを知って硬直する。

 

(うわぁ)

 

 着られない服を避けようと思っただけだったのに危うく自爆するところだった。

 

「す、すまん。なら、あっちの、あの服を。それとむこうのゆったりしたローブも」

 

 引きつった表情をミスリルヘルムが隠してくれたらいいなと願いつつ、大量の服を抱えた俺は来た道をダッシュで引き返す。人目を集めるのは必至なので、一緒に買ったローブを羽織ってだ。

 

「すまん、待たせた」

 

「えっ」

 

「スー様でございまするか?」

 

 結果として正体はごまかせたと思うが、再会したお姉さん達にまで「誰?」という目で見られたのは、反省点かも知れない。

 

「ああ、大量の服を持って町中を走れば人目を引くからな。とりあえず、大きめの服を選んでおいたから上から着てくれ」

 

 衣服もどきになってしまった布の切れ端は宿に部屋を取って客室で着替えればいい。そんな風に説明したと思う。

 

「いらっしゃいませ、旅の宿に」

 

「部屋は空いているか? この人数なのだが」

 

 かりの着替えを済ませたお姉さん達とその足で宿屋へ向かった俺は、宿のカウンターで後ろを示して切り出し。

 

「えっ、あ、はぁ……ひぃ、ふぅ、みぃ……」

 

「とりあえず、前金を払っておく。買い物の途中なのでな」

 

 目を白黒させる宿の主人の前にお金の入った袋を置くと、お姉さん達の元へと戻る。

 

「とりあえず、前金を払っておいたから、宿でちゃんと着替えるといい」

 

 出来れば下着も用意したかったのだが、男一人で女物の下着を買うのは難易度が高すぎた。

 

(せめてモシャスが使えたら……)

 

 サイズを調べる手間もかからないのだが、効果時間の問題が足を引っ張るし、そもそも今はMPが足りない。

 

「買い物に出かけてくる。クシナタ、後は頼むな」

 

「はい、行ってらっしゃいまし、スー様」

 

 クシナタさんに見送られて宿を出、武器防具屋でドラゴンシールド、それに毒蛾の粉を買い、キメラの翼を補充した俺が戻ったのは一時間ほどあとのこと。

 

「一応、サイモン宛の手紙を一筆したためておく。主人、一枚貰うぞ? これは宿泊費……紙の代金込みだ」

 

「は、はい」

 

「アクシデントで戻れなくなった場合もある。もし三日経っても戻ってこない場合は、それを使ってくれ」

 

 もちろん、必要とする事態は来ないのが一番だが。宿帳のページを失敬して手紙を書き上げると、クシナタさんへまだインクの乾いていないそれを渡し、宿屋の主人にも多めに宿代を払っておく。

 

(ふぅ、これでよしっと)

 

 これで、とりあえずだが、お姉さん達の居場所は確保した。

 

「では、後は頼むぞ」

 

「「はい、スー様も御武運を」」

 

 見送りに来たお姉さん達の視線を受けながら、宿を出た俺はキメラの翼を空高く放り投げる。

 

「ジパングへ」

 

 来た道を逆に辿る空の旅、選んだ選択の答えがそこに待っているはずだった。

 

 




時間の都合で、サマンオサ行動部分カットしたので、加筆。


次回、第七十八話「マルチエンディング」

結構好きなんですよね、そう言うゲーム。

ダークとかバッドなのはノーサンキューですが。
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