「もっと早く来ると思うておったが」
「初対面の人間が怪我をしたばかりの女王と面会させてくれと言われても門前払いが関の山だろう」
通された部屋でヒミコに化けたおろちと対面を俺は、皮肉にたいしてそう切り返すと、とりあえずクシナタさんのことを説明する。
「ほう、あの娘を異国に送ったとな」
「見られているからな、ここに戻してはやりづらかろう?」
もちろん、生き返らせた他のお姉さん達のことは明かさない。俺に負けなければシャルロットが倒すまで村娘を食らっていただろうおろちを信用する理由などないのだから。
(強いて言うなら約束を守ったことだけど、この傷じゃあなぁ)
姿を変えるなら傷も隠せばいいと思うのだが、それが出来ないほどのダメージだったのか、姿を変える術自体に融通が利かないのか。
「ともあれ、ここからどうするかはお前次第だ」
「……それは脅しかえ?」
「さて、な?」
個人的には約束を守っておとなしくしてくれていた方がありがたい。シャルロットがバラモスを倒せるレベルに達するにはまだ時間がかかる。
(俺ならたぶんソロでも勝てるだろうけどなぁ)
それでは意味がない。
「どのみちこの傷ではじっとしている他、ないじゃろうに」
「わかっている。俺が聞いているのは、傷が癒えた後のことだ」
「ぬう……」
傷が癒えきっていない以上、おろちからすれば本心がどうあれ「約束を守り続ける」と言うしかない場面ではある。
(だから、想定内の返事ならどうでもいいんだけどね)
この場合、約束を違えぬように釘を刺して話は終わりだ。
(丁度いいモノもあるし)
俺は鞄に目を落とすと中を漁って筒状に丸められた書状を取り出す。
「希望がないなら、こちらで決めさせて貰おう。実はとある商人に異国との交易の橋渡しを頼まれていてな。当然だが、こういった取引には双方の国の許可が居る」
「何、どういうことじゃ?」
「このジパングの国主は一応お前だろう? これに署名して貰おうか」
おろちに差し出したのは、前にアリアハンで国王頼まれた交易網を拡張する為の書類である。
「異国に送ったとは言え故郷の食べ物というのは忘れがたいモノだ。だからその手配をな」
もちろん、これは大義名分で本音を言うなら「俺もほかほかのご飯食べたい」だ。
「この国に訪れる事になる商人達には俺の方から色々と話はしておこう」
「お前、まさか……」
プラスαで言外に商人達はお前の監視を兼ねている、とにおわせる。
「何か問題でもあるか? 即答出来ないようだったからこっちで決めてやったと言うのに」
もっとも、答えたところで、交易の協力は突きつけるつもりだったのだが。
(何にしても、これでこっちの目が常にあると誤解してくれる状況になれば、おろちは約束を破らないはず)
拒否しようものなら、退治するだけだという酷い恫喝であった。
「交易すれば美味い食い物が手にはいるかもしれんぞ? まあ、人間用のだがな」
一応フォローだって忘れない。
「うぐぐ、ええい、わらわの負けじゃ。しかし、その食い物とやらは本当に美味いのであろうな?」
「人にはな。そもそもお前が食うモノを一つしか知らんし、どんなものを好むかも聞いていない」
白旗をあげたおろちに俺が指摘すると、また唸りだしたおろちは暫くしてから料理名らしいモノを幾つか挙げ始めた。
「しかし、良く知っているな?」
「館の者達がわらわに食事だと供してきたのじゃ。食べねば怪しまれるじゃろ。もっとも、その程度の量ではわらわには全然足りぬがな」
おろちの巨体を考えれば無理もないが、ともあれ話は纏まった。
(これで俺もようやく休めそうだな)
ヒミコの屋敷を退出しつつ、俺は安堵からほぅとため息を洩らす。
「サマンオサへ」
残すはクシナタさん達とアリアハン、ポルトガ、サマンオサ各国王への報告のみ。交易品の見本用にと貰ってきたお米の重さが、キメラの翼で舞い上がる俺の腕に心地よかった。
短いですが、これにてジパング編、終了ッ。
そして主人公はご飯をゲット。
次回、番外編7「久しぶりの(勇者視点)」
さて、その頃の勇者はと言うと?