強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第八十話「アリアハンの再会」

 

「さぁて、とは言えこのままじゃ風邪をひいてしまいかねん。お前さん達は一足先に宿屋にでも行っておってくれ」

 

 とりあえず、お姉さん達にそう言うと、俺はスレッジの演技をしたままシャルロットへ向き直る。

 

(はぁ……ひょっとしたらとは思ったけど、雨なのに外で待ってるとはなぁ)

 

 お姉さん達に囲まれた状態でシャルロットの前に降り立つ訳にも行かないので、スレッジに汚れ役をやって貰う格好になったが、アリアハンが雨なのは俺にとって想定外だった。

 

(そもそも、バニーさんとバハラタで別れた時も中途半端だったし)

 

 あの後、バニーさんがシャルロットに何と説明したか解らない。ただ、シャルロットを眠らせたのがスレッジなのはシャルロット自身に見られてしまっている。

 

(先にバニーさんと会って口裏合わせられればなぁ)

 

 こうなってしまっては是非もない。

 

(呪いのことはバラして無いと良いんだけど)

 

 シャルロットを目で確認してから地面に降り立つまでの短い間で俺が思いつけたのは「スレッジはやっぱりエロ爺で、バニーさんは俺を庇い適当なことを言っていた」という事にするなんて案ぐらいだった。

 

(バラしていたとしてもそうでなくても、スレッジを庇っての虚言と言うことにしておけば無かったことに出来るし、辻褄が合わなかったとしても「嘘だったんだから」で押し通せる)

 

 代償としてスレッジの株がだだ下がりするが、これは甘んじて受けるしかない。

 

(そもそも生け贄の人達を生き返らせた何てのも説明出来ないからなぁ)

 

 それに、バハラタのことを蒸し返されても困る。

 

「さてと、シャルロットちゃんじゃったか?」

 

「スレッジさん……」

 

 俺が声をかけると、ようやくシャルロットは我に返って口を開いた。

 

(あー、と言うか「雨の日は最高じゃのぅ」の辺りで気づいて欲しかったんだけど)

 

 とりあえず、我に返ってくれたのはいいことだ。ただ、お姉さん達同様、シャルロット自身も濡れた服が肌に貼り付き、所々透けていることにも気づいて欲しかった。

 

(目のやり場が、なぁ)

 

 とりあえず、着ているのがフード付きのローブで良かったと思う。

 

「あの男なら無事じゃ」

 

「っ」

 

 まず、一番欲しがって居るであろう情報を投げることで機先を制し、更に言葉を続ける。

 

「何でもまだやることがあるとかでのぅ。生け贄にされるところだったこともあってかの国に居づらくなったお嬢ちゃん達と空の旅という役得をさせて貰ったわい」

 

 この辺り、後でお姉さん達と口裏を合わせないといけないが、クシナタさんについてだけなら、俺の言ったことに嘘はない。

 

(生き返らせたお姉さん達の方は後で何か考えないとなぁ)

 

 シャルロットがジパングに行き、生け贄にされかかって生きていた人など居ないと知れば、矛盾が生じてしまう。

 

(もしくは怪談かな)

 

 生け贄にされかかったと言う部分で、暗い過去ととり、空気を読んで触れずにいてくれれば良いとも思うが、これは勝手なこっちの都合だ。

 

(とにかく、今はこの場をやり過ごして――)

 

 今度は勇者の師匠である盗賊としてこのアリアハンへ戻って来ないと行けない。

 

(それで居てバニーさんにはスレッジでもあって、情報交換しないと行けないのか)

 

 やることが、多い。

 

(まぁ、レムオルの呪文があるから撒こうとも思えば撒けるし、無理ゲーって訳でもないからなぁ)

 

 この場は退散してしまうべきだろう。

 

(やることもあるけど「お師匠様」が戻って来なきゃこのまま雨の中待っていかねないし)

 

 バニーさんとの打ち合わせをして居ない今、下手なことも言えない。

 

「詳しい話は本人から、じゃな。こんな場所では誰が聞き耳を立てているやら解ったものではないからのぅ」

 

「っ」

 

 弾かれたように周囲を見回すシャルロットへ、俺は「ではの」と続けて踵を返す。

 

(と言うか、タイミング悪いわ)

 

 背後ではシャルロットが、スレッジの名を呼んで呼び止めようとしていたが、その向こうにバニーさんが居たのだ。

 

(これじゃ打ち合わせも出来ない……)

 

 もう少し離れていたなら、レムオルをかけてバニーさんだけに声をかけることも可能だったのだが、実際俺に出来たのは、逃げ出すことだけだった。

 

(この町に出口が複数あったのが、せめてもの救いか)

 

 距離的に飛んで来ないと不自然でもあるので、一度アリアハンの外に出てからキメラの翼を使う。迂遠だが、疑われそうな要素は残せない。

 

「さてと……アリアハンへ」

 

 雨に逆らうように飛んでいったアイテムを追いかける様に俺の身体は浮き上がり、つい先程舞い降りた場所へと運ばれて行く。

 

(っ)

 

 距離が短く、何かを考える時間も殆どない。

 

「あ」

 

 ただ、街の入り口でこちらを見上げて口を開けたシャルロットの顔ははっきり見えて。

 

「こっちは、雨か」

 

 着地した俺は、濡れそぼった髪から滴を垂らしながら呟くと顔を上げ。

 

「まったく、雨の中濡」

 

「お師匠様ぁぁぁっ」

 

「っ」

 

 シャルロットに向けようとした言葉は、抱きつかれて中断を余儀なくされた。

 

「風邪をひくぞ、シャルロット」

 

「えへへ」

 

 嘆息混じりに言おうとした言葉を短く言い直すと、シャルロットは微笑んで。

 

「お帰りなさい、お師しょ、っくち」

 

 噛みはしなかったが、くしゃみをしたのだった。

 




今度はちゃんと再会出来た。

次回、第八十一話「ベタと言えばベタ」


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