もしもテニプリに女子テニス部があったなら〜対決編〜 作:ハネ太郎
「起きろ! おい、越前リョーマ、目を覚ませこら!」
芝生で寝ているリョーマに呼びかける声。それは彼には聞き覚えのある声だった。
「ふえ? あ、真田さん、これはどうも」
その声で起き上がるリョーマの目の前にいたのは、真田弦一郎。数多くいるライバルの中でも最強クラスの一人で、立海大付属中学のテニス部の副部長だ。
「寝ぼけるな! 目の前の状況をよく見ろ!」
呑気な挨拶をするリョーマを一喝する真田。
見ると、先ほどまで自分のお供をしていたガールフレンドたち、竜崎桜乃と小坂田朋香が、なんと! それぞれ屈強な男たち(と言っても中学生)に拘束されているではないか! リョーマの寝ているあいだにトイレに行き、出てきたところを襲われたようだ。
男たちは丸井ブン太とジャッカル桑原。真田と同じテニス部のレギュラーで、各々がまた強者ぞろい。その鍛えられた腕で彼女たちの首と手をガッチリとホールドしている。とても逃げられそうにない。
「な・・・何やってんすか、あんたら!」
ようやく状況を理解したリョーマが叫ぶ!
「まあ、そういうことだ。我々としてもこんな手荒な真似はしたくなかったのだが・・・」
「はあ〜あ。王者立海大もそこまで堕ちたか、見損なったッスよ。まさか自分たちがモテないからって、ひとのデート邪魔するなんざ」
※あくまで個人的な見解です
「「「なっ・・・誰がモテないだコラぁ!?」」」
思わぬリョーマの暴言に、大いに立腹する三人。
「ええい、まだるっこしい! 要求はひとつだ、越前リョーマ、俺と戦え!」
真田がようやく本題に入り、リョーマにラケットを突きつける。
「戦えったって・・・。知らないの? 俺今、テニスプレイヤーとしては無期休業中なんすけど」
「なにが無期休業だ、ふざけるな! 俺を倒しておいて、勝ち逃げする気か! だいたい、その腑抜けた態度はなんだ!」
「終わりなき戦いから離れて幾星霜、すっかり丸くなっちゃったっす」
仲間たちはリョーマの休業宣言をあっさり受け入れたが、そうでないライバルたちもまた存在したのである。
「人間、一度口に出した決意は簡単には翻してはいけない。アンタもそうだろ」
「ふん・・・一理あるな」
「とにかく俺は、いまアンタと戦う気なんてないね。・・・って言ったらどうする?」
「女に暴力を振るうのは俺の本意ではないが・・・。おい! 少しばかり彼女たちの悲鳴を聞かせてやれ」
真田の合図で、ブン太は桜乃の、ジャッカルは朋香の腕をねじり上げる!
「うぐく・・・ああ!」
「ギャー、痛い痛い! やめてー!」
「や、やめろー! そいつらは関係ない、はなせ!」
流石のリョーマも、血相を変えて助命嘆願する。
「全ては貴様の返答次第だ」
真田は決然と言い放つ。
「うう・・・」
今までのリョーマなら、ここで静かな怒りと共に、戦いを決断したことだろう。しかし休業宣言と共にテニスから離れて平穏な生活を送っていた彼は、いつしか戦う心が抜けかけていた。大切なガールフレンドたちの危機を前にしても、彼は動けずにいる。
(確かに、こりゃ腑抜けと呼ばれても言い訳できねえな・・・)
リョーマは自嘲した。しかしそれだけでは状況が改善するわけもない。
「・・・リョーマくん、逃げて! 私達に構わず、逃げてー!」
痛みに耐えつつ、桜乃が叫ぶ!
「リョーマさまー! 助けてー!」
朋香はストレートに助けを求めた!
「うるさい、余計なこと言うな!」
「ぐえ・・・!」
慌てたブン太が、桜乃の首にまわした腕に力を込める。首を絞められ呻き悶える桜乃。その横では朋香もジャッカルに同じ目にあわされていた。
「・・・! なんでだよ・・・お前ら。俺なんて・・・今はただのヘタレだってのに・・・! それなのに、なんで・・・まだ・・・」
リョーマ自身、何もできない自分に焦り、苛立っていた。
痛みに苦しむ自分たちを前にして、なんら動くこともできないでいる『憧れの王子様』。それでも桜乃は彼を気遣い、彼を許し、彼の事情を最優先して、自分たちに構わず逃げろまで言う。朋香もまた、かつてと比べものにならないほど無力であるはずの王子様をなお慕い、他ならぬ彼に助けを乞う。彼女たちのその声が、いよいよリョーマの心を決めた。
「・・・ちっくしょう・・・! 真田・・・そんなにまた負けたいなら、望みどおりにしてやる・・・!」
リョーマは怒った。目の前のライバルの蛮行に。そして、それを前にして戦うことをためらい続ける、自分自身に。
いよいよ怒りが頂点に達しようとするリョーマが、挑戦を受けようと立ち上がる、その次の瞬間・・・!
「ぎゃっ!」
「おあっ!?」
「ぐえ・・・!」
突如、うめき声をあげてブン太&ジャッカルが倒れた。下敷きになるサクトモコンビ。
「な、なんだ!?」
リョーマも真田も、予想外の事態に戸惑う。ふとリョーマの足元に転がって来たのは・・・。
「・・・テニスボールがふたつ?」
どうやらこれが二人の頭を直撃したらしい。完全に昏倒しており、動く気配がない。リョーマは慌ててサクトモを救出した。
「お、お前ら、大丈夫か!?」
「私は、平気・・・」
「えーん、リョーマさまー! 怖かったー!」
正反対のリアクションをするガールフレンドたちを、リョーマは優しく抱き締める。
一方、真田の方にも何かが高速で飛来した! 間一髪、ラケットで打ち払ったそれは、近くの木の幹を直撃、煙をあげてめり込んだ! やっぱりテニスボールだ!
「何者だ! 出てこい!」
真田の怒号を受けて、ゆっくりと歩いてくるのは、ジャージとスコートで着飾り、ラケットを携えた女子の集団。桜乃は彼女たちに見覚えがあった。
「あ・・・あれは・・・!」
「俺たちのジャージと同じデザイン。青の部分が赤になってる? 誰だ、あいつら?」
リョーマが桜乃に尋ねる。
「青春学園中等部、女子テニス部!」
桜乃が答えるより先に、彼女たちのリーダー格と思しき少女が答える。金髪ロングが風になびく。
「わたくし、部長の水島吉乃です。ごきげんよう」
「貴様か、こんなふざけた真似をしたのは!」
「女子を人質にとり、痛めつけるような卑劣な真似をするあなた方に、ふざけた真似などと言われたくありません」
「そーだそーだ!」
真田の問いに、毅然として答える吉乃。便乗するリョーマ。
「そんなに戦いたいなら、わたくしが相手になりますわ」
「な・・・何を世迷い言を!?」
吉乃の突拍子も無い提案を一蹴する真田。
「あなたたち、ケガはない?」
桜乃たちを心配して駆け寄る、銀髪ふわふわロングの少女。
「あ、ありがとうございます。リョーマくん、こちらは副部長の佐伯百合子さん」
「ど、どうも、はじめまして」
その不思議なオーラに、桜乃とリョーマも思わず動揺する。
「あの、おねーさんたち・・・。助けてくれるのはありがたいんですが・・・。あのお兄さん、誰だか知ってんの?」
思わず心配になって尋ねるリョーマに答えるように、
「真田弦一郎。男子と女子で試合する機会はなくとも、その勇名は聞き及んでおりますわ」
水島吉乃が言う。
「それは光栄だな・・・。しかし俺が限りなく全国最強に近い男だとは聞いてなかったようだな」
「関東大会を落としておいて、なおその言いざまですか。ある意味尊敬に値しますわね」
「・・・・・・!」
先に開催された中学テニス関東大会決勝で、立海大の真田は青学のリョーマに敗れた。ゆえに準優勝に終わった。その癒えぬ傷に塩を塗るがごとく、真田を煽る吉乃。ふたりの舌戦に、さらに青ざめるリョーマたち三人。
「あ、あの、お、おねーさん・・・(大汗)」
「大丈夫よ、リョーマちゃん。吉乃ちゃんはと〜っても強いんだから」
一切動揺せず、ふわふわした雰囲気を漂わせ、百合子が答える。
「一応これでも、わたくしたち青学女子は関東大会を制覇しましたの。二位のあなた方がそれだけ大きな顔をしていられるなら、わたくしたちも相応に威張らせて貰いますわ?」
吉乃のこの発言を受けて、
「へー、そりゃ凄いや。待てよ・・・てことは、関東大会は男子も女子も青学が制したってこと!?」
リョーマが感服する。
「桜乃、アンタなんでそんな凄いこと黙ってたのよ!」
「あ、いや〜、話題にするタイミングを逃したというか〜(汗)」
朋香に詰め寄られ、答えに窮する桜乃。彼女は末端とはいえ女子テニス部の一員であり、部の話題や情報を手に入れられる立場なのだ。確かにこれまで、彼女の口から女子テニス部の話題を聞いたことがなかった。事ここに至って、仲間たちはやっとその事に気がついたのだ。
「そういやそんなのいたな〜、ぐらいにしか思わなかったけど・・・。こりゃちょっと嵐の予感、ってヤツっすか?」
リョーマは、久々に胸の高鳴りを覚えていた。
つづく
突如として勃発する、真田弦一郎と水島吉乃のバトル! 関東大会を征したと言われる、青学女子テニス部の実力やいかに!? 次回「灯台下暗し」お楽しみに!