フブキと並んで中央警察署の玄関をくぐると、警務主任のデスクの前に見覚えのない、小柄な制服婦警がいるのが目に留まった。深紅の髪を赤いリボンでツイン・テールに纏めている。
その婦警と話していたフライシャー警部補――表情からして、話していたというよりは絡まれてたって感じみたいだけど――がこっちを指すと、その婦警もぱっとこっちを振り向いた。
「フーブちゃーーーーん!!!」
「マリンちゃーん!」
フブキがマリンちゃんと呼んだ巡査は両腕を広げて、フブキに抱きつくようにして駆け寄った。フブキの方も腕を広げてそれを受け入れる、かと思いきや、寸前で素早く身を引いた。
マリンちゃんは空気を抱きしめると、署の板張りの廊下に思いっきりダイビングした。
「ぐへぇえ!......ちょっとフブちゃん、うちらの絆はどうしたの......!?」
「いやさー、今日は蒸し暑いしさ? 暑苦しいのはちょっと勘弁かなーって」
「ひどぉい!」
まだまだ続きそうな寸劇じみたやり取りを咳払いで遮って、ウチはフブキに訊く。
「あの、フブキ? この娘は......」
「あ、そうだ二人は初めてだね。紹介するよ、ミオ。こちら宝鐘マリンちゃん」
フブキがマリンちゃんに手を貸しながら紹介を始めた。
小柄だけどおっぺえでけーな、おい。埃を払うために制服を叩くたびに、シャツのボタンが今にもはじけ飛びそうになってるんだが......?
フブキの方は構わずに紹介を続けている。
「
「よろしくお願いします、ミオ先輩」
マリンちゃんはぺこっとお辞儀をすると、警察式に続けた。
「宝鐘巡査、サン・ペドロ
「大神刑事、
純粋な好奇心からの質問だった。フブキが自分の同期に、ウチのことをどういう風に話してたのか、ちょっと気になった。それだけだったのに......
「具体的にですか? お二人がくんずほぐれつ乳繰り合っちゃうような、良い仲だってこととかですかね?」
「おいちょっ、マリン!?」
ウチはマリンの、ではなく顔を真っ赤にして慌てるフブキの胸ぐらをつかむと、当直事務室のドアにその背中を叩きつけるようにして迫った。
「おいフブキ、おめー自分の同期にウチのことをどう説明してんだあ!」
「違うよ! 誤解だよ、ミオ!」
嘘偽りなく狼狽している声でフブキが弁明する。
「白上、まだ同棲始めたことくらいしか言ってないし!」
二人でそろってマリンの方に目をやると、当人は左右で色の違う目を細めて愉しそうな笑みを浮かべた。
「いやあ、フブちゃんの言い方から"ひょっとしてヤッてるかなー、これは"、なーんて思ってカマかけてみたんですけど。まさか大当たりとは......」
「おめー、この......!」
「わあ待った、ミオ! どうどうどう!」
同僚や外来の人が大勢いる前で赤っ恥を掻く羽目になった――実のところ、マリンちゃんは結構な小声で話してたから聞き取れた人はほとんどいないだろうってことには、後から気がついたんだけど――ウチは羞恥やらなんやらでないまぜになった頭で、瞬間的に、マリンちゃんに殴りかかろうとした。キレちまったぜ、久しぶりによう......。
それをフブキが後ろから羽交い締めにして止める。
「ほーらほらほら、落ち着けみおーん。ほら、ふーっ」
「ふひゃん!」
フブキがウチの耳に息を吹きかける。それだけでウチはあられもない声を上げて、そのまま床にくずおれてしまった。なんだこれ、全然足腰が立たねーんだが......?
「ごめんね、マリンちゃん。って、謝る筋合いはないような気もするけども」
「貰えるもんは貰っときますよ」
「で、中央署に何か用があったの?」
荒い息を吐いて座りこんだままのウチをほったらかしに、二人がお話を進めていく。
「あ、そうそう、いいもの見させてもらったおかげで忘れるところだったんだワ。ジェイムズ・ジェソップって美味しそうな......じゃない、若い水兵さんがウチの署に出頭してきたんだけど、担当がフブちゃんたちだって言うから護送してきたのよ。取調室......何番でしたっけ?」
「2番」
マリンちゃんからの問いかけには、自分のデスクから事の成り行きをうんざりした表情で見守っていたフライシャー警部補が答えた。その顔に早くどけって書いてある。
いやその、ウチも早くどきたいのはやまやまなんですけど、腰が抜けちゃって。
「そうそう、その取調室2に水兵クンを入れときましたよ」
「ありがとう、マリンちゃん。取調べに立ち会ってくかい?」
「いやあ、遠慮しとくんだワ。もう戻らないと、次の
「そっか」
「それじゃあフブちゃん、ミオ先輩。また今度、機会があったらお茶でもしましょう?」
「ああ、うん。そうだね」
さっきフブキを押し付けた当直事務室のドアに背を着けてなんとか立ち上がったウチは、切れ切れにそう返すのが精いっぱいだった。