H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Studio Secretary Murder #2

 

 

「刑事、案内します。ついてきてください」

 

 サンタ・フェ通り沿いにあるパシフィック電鉄(PE)の操車場に乗り付けると、入り口に立っていたウォーウィック巡査がそう言って、脇に駐めてあるパトカーの方に駆けて行った。

 巡査の運転するパトカーの後ろについて、線路を何本もまたいでサスペンションに悲鳴を上げさせながら場内の現場へと向かっていく。

 留置された貨物列車の一つの周りに警察車両が集まっていて、ウォーウィック巡査はそこにパトカーを停めた。私も巡査に倣って、黒い検屍局の寝台自動車の横に捜査用車を駐めた。

 ミオと二人でナッシュから降りて、現場保存バリケードのところに立っている別の巡査のほうに歩み寄って行く。

 

「君はえっと、ハート巡査。だっけ?」

「ええ。鉄道施設は私の管轄なんです」

 

 前に、パシフィック電鉄(PE)の貨物駅で血塗れの放置自動車が発見された時も、初動を執ったのはたしかこの巡査だったはず。だから名前を――ギリギリ――覚えてたんだ。

 

「それで、ここで何が?」

黒んぼ(ニグロ)の、ネルソン・ゲインズから通報があったんです」

 

 ハート巡査がちょっと背後を振り返ったから、私とミオもそっちの方に目をやった。何両か繋がれた無蓋貨車と、ちょっと離れて留置されてる緩急車(カブース)の間に誰かが倒れているのが見える。マル・カラザース検屍官が屈みこんで、その誰かを調べていた。

 巡査はこっちに目を戻して続けた。

 

「それでここにきて彼から事情を聴きました。それと、ジェイミソンってやつがうろついてたんで、そいつからも」

「じゃあ、死体の発見者はそのジェイミソン?」

「まあ、そんなところですね。人でなしですよ」

 

 ミオの質問に、ハート巡査は吐き捨てるようにして答えた。これはなんかありそうだ。

 

「わかった。白上は検屍官と話してくるから、ミオはあっちの遺留品とレイをお願い。ハート巡査、その二人から目を離さないで」

「わかった」

了解です(イエス・マーム)、刑事」

 

 巡査が二人の参考人の方に、ミオが奥の遺留品とそれを調べてるレイ・ピンカー技師の方に歩き去ると、私は死体の方に歩いて行って、いつでも頼りになる検屍官に話しかけた。

 

「やあ、マル。どんな感じ?」

「白人女性、推定年齢四十代。口紅が顔面に塗りたくってあるが、落書きはない。少なくとも、判読可能なものは」

 

 マルは一旦言葉を切って、被害者の首を動かして側頭部をこっちに見せた。

 

「こめかみと鼻周り、それと眼球周りに鈍的外傷が見られる。頸部の絞痕からして、絞殺されたものと推察できる」

「なるほどね。死亡時刻は?」

「直腸温からして、真夜中過ぎだろうな。二時より遅いと言うことはないと思う。それより一、二時間ほど早いかもしれんが」

「わかった。近くで見ていい?」

「どうぞ」

 

 マルの許可を取って、死体をつぶさに調べる。側頭部は固まった血で赤黒く染まって、右目は大きく、青黒く腫れ上がっていた。これだけ腫れるってことは、生前に殴られたとみて、間違いなさそうだ。それより......

 

「うぇっ、すごい臭い」

「一般的な離脱臭気だな。ただ、この臭いしかり服装しかり、彼女が随分長い事貧しい暮らしをしてたのは間違いなさそうだ」

 

 マルもなかなか鼻がいい。

 いま、被害者から漂っている臭いは大きく分けて三種類ある。

 一つは死臭。これは大抵の死体からするもので、ちょっと甘ったるくてそれでいて妙に不快感のある独特な臭いだ。時間が経過すると腐敗臭に取って代わられて明確な悪臭になっていくけど、まだ新しい死体の死臭は何て言うか......"新鮮な死臭"としか言いようのない、特徴的な臭いをしている。

 二つ目はアルコール離脱臭。要するに酔っ払いの臭い。これ以上の説明は必要ない、よね?

 三つめは体臭。被害者はどうやら長い事お風呂に入ったりシャワーを浴びたりしてないみたいで、主にボロボロの服から汗と垢のひどい匂いが漂ってきている。ただ、この臭いは前二つの臭いと、死後に失禁したらしい排泄物の臭いに阻まれてわかりにくい。

 これがわかるってことは、マルも結構鼻がいいってことになる。私は獣人だから、そう苦も無く嗅ぎ分けることができたけど。苦も無く、と言っても、ここの臭いはそれ自体がかなり苦痛ではあるけどね。

 

「......それにしても、アルコールの臭いが強いね」

「ふむ。解剖すればわかるだろうが、これだけ臭いが強ければ、死亡時彼女は泥酔していたと自信を持って言えるな」

 

 一方私は顎から手をはなすと、死体の右腕を手に取った。

 

「で、また指輪が無くなってるのか......」

 

 薬指にはいつも通りの、死後に指輪を取り除いた後があった。皮と肉が切除してあるけど、出血はそう多くない。

 

「恐らくな。なんだか最近、指の検査をしてばっかりな気がするよ」

 

......冗談、だったんだろうか。マルは滅多に冗談を言わないからその真意を図りかねている間に、検査道具を鞄に詰めて帰り支度を始めてしまった。

 いまさら笑うのも流石にアレだよなあ......気が付かなかったことにしておこう。

 

「フブキ」

 

 立ち上がって通報者のゲインズさんの方に目をやると、横からミオが声をかけてきた。

 

「ミオ。なんかわかったことある?」

「うん。名前はイブリン・サマーズ。コネチカット州ブリッジポート出身。キーストーン映画会社で法務の仕事をやってるみたいだね」

「キーストーンかあ......」

「そこにいけば鑑取りができるんじゃないかと思うんだけど」

「キーストーンは確か、41年に潰れたんじゃなかったかな」

「うへえ、じゃあ無理そうだねえ」

 

 ミオはちょっと頭を掻いてから続けた。

 

「後は酒場(バー)の紙マッチと、酒屋さんの領収書があったよ。ちょっとその領収書がね......」

「どうしたの?」

「いや......お酒のじゃなかったんだよ。枕とかベッドマットとかヘアブラシとか......」

「日用品、だね」

「そう。とにかく、そこに行けば鑑取りできると思うんだよ。あと、コネチカットからの手紙があったんだけど......」

 

 妙に歯切れの悪い感じでミオが続けた。

 

「本文はその、家族の誰か――お母さんだとウチは思うけど――がイブリンにコネチカットに帰ってきてって、頼んでるものだったんだけど......下半分が破れてなくなってるんだよ」

「持ち去られた、のかな?」

「たぶん......」

「なるほどね......それで全部?」

「うん」

「わかった。じゃあ、検屍官との話を説明するね」

 

 

 

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