「アルコール臭かあ......じゃあ、先にマッチの
フブキから検屍官との会話のあらましを聴いたウチは、
「白上もそう思うね。殺される前に寄ってる可能性が高いし」
「よし。じゃあこの後の方針は決まったし、目撃者から話を聴こうか」
「そうだね。まずは通報した人から」
そういうとフブキは現場保存バリケードの方に向かった。
バリケードの近くに二人の目撃者――黒人のゲインズさんと白人のジェイミソンさん――がいて、ハート巡査が二人の様子を見ている。ただ、ハート巡査は主にジェイミソンさんの方を注視してるようだった。
フブキは先にゲインズさんの方に向かって話しかけた。
「ネルソン・ゲインズさんですね?
「ええ。あたしゃここに留置してある列車を本線に出す仕事をしてたんですが、その旦那が――」
ゲインズさんがジェイミソンさんの方を指し示して続けた。
「――あそこのご婦人の上に馬乗りになってるのをみたんでさ。ご婦人は動かなかったし、悪い事になってんのが一目瞭然だったんで、警察に電話したんです」
「それは何時ごろですか」
「今朝の七時半ごろでさ」
「七時半、と......ご協力ありがとうございました。あとでハート巡査が調書を持ってきますから、それに署名してもらえますか?」
「ええ勿論」
「どうも。もうお仕事に戻られて結構です」
「......死体の上に馬乗り、ねえ」
ゲインズさんが離れていくと、ウチはそう呟かずにはいられなかった。何をしていたのか、話を聴かなきゃいけないけど、できれば考えたくない類の物事だ。
フブキも胡乱気な視線をジェイミソンさんの方に向けていたけど、変わらず冷静な声でウチに言った。
「さあ、生死を確認してたのかもよ?......まあ、本人に訊いてみようか」
そう言って、そんなに離れていないところでハート巡査に睨まれているジェイミソンさんのところに向かった。
「どうも、白上刑事と大神刑事、
「ジョン・フェルディナンド・ジェイミソン」
「いくつかお聴きしたいことがあるんですけどね、ジェイミソンさん」
「よければフェルディナンドって呼んでよ」
「そうですか。じゃあ、死体の上に乗って何してたんですか、"
フブキが"図に乗るなよ"って意図を込めて、敬語を強調して訊いた。一方のジェイミソンはウチたちの足元辺りをきょろきょろ見つめながら、小さな声で返した。
「......怒らない?」
「内容によりますね、ジェイミソンさん」
「......キスしてたんだ」
一瞬、ウチの頭にガアッと血が上った。手が出なかったのを誉めてほしいくらいだ。と言うか、フブキが冷たい声のまま質問を挟まなかったら、ウチは間違いなく殴ってたと思う。
「ポケットの中身は?」
「こちらに」
先に捜検をしたらしいハート巡査がそう言って、緑色の筒状のものをフブキに渡した。
「......クラシック・カーマイン。この口紅は君の?」
フブキは流れるように、敬語抜きの尋問口調に切り替えて訊いた。
「違うよ、彼女の
「で、
「ああ、その、もう彼女には要らないだろうと思ったから......見たよ」
「何か盗った?」
「盗るようなものはなかったよ。口紅と紙マッチと、そんなところだった」
ちょっと嘲るような、ただでさえ苛々してるウチの神経を逆なでするような調子だったけど、とにかく嘘ではなさそうだった。カラザース検屍官がフブキに言ったような生活をしてたなら、本当に盗るようなものなんてなかっただろうし。
「で、死体を見つけたのも君。だね?」
「そうだよ。僕はここで働いてるんだ。夜勤上がりで、で、帰ろうとしたところだったんだよ」
「でも通報はしなかった?」
「だって、死んでるのは明らかだったし......昨晩真夜中頃に仕事でここを通った時には、彼女はいなかったんだよ」
「そうですか、見つけてすぐ通報するべきでしたね。ジョン・ジェイミソン、死体不申告と現状変更で42時間拘留します」
「ちょっと待ってよ! 何の法律にも反してないって言って......」
流石に限界だった。ウチはジェイミソンの方に一歩踏み込むと右腕を大きく振り上げて、変態の顎にアッパー・カットをお見舞いした。顎越しに歯がぶつかるガキッって衝撃が伝わってきた。
フブキはウチを止めはせず、ジェイミソンが吹っ飛んで背後の有蓋貨車に激突して、ずるずる滑り落ちるのを眺めてから静かに言った。
「法律には反してませんけど、市の警察条例には反してますから。ハート巡査、彼を中央署に勾引して、一番汚い監房に放り込んどいて。本人が望むなら、治安判事に会わせてあげてもいいよ」
「
「白上もそう思うよ」
巡査が手錠をかけたジェイミソンを、
「......さて、じゃあさっき言ってた
「えっと......9番と
「よし、行ってみよう」