H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Studio Secretary Murder #5

 

 

「白上と大神、ロス市警(LAPD)です」

 

 結構お客さんが入っていてにぎわっているボウリング場に入ると、フブキは受付カウンターの方に向かって、そこにいた受付係のおばあさんに言った。

 

「あらあ、見ない顔だねえ? 靴のサイズは?」

「ウチたちは仕事で来たんです、奥さん(マーム)

 

 一瞬虚を突かれたらしいフブキに代わって、ウチが後ろから言い足した。ここは木曜の夜には警官だらけになるらしいから、警官が来ることはそんなに珍しくないんだろう。

 フブキが咳払いをして、おばあさんに訊いた。

 

「ジェイムズ・ティアナンさんはどちらに?」

「あらそう......彼はピン・セッターなの。裏で飛び回ってるから、そこに行けば会えるわ......彼はいい子よ?」

「ありがとうございます......ミオ、白上は裏口に回るよ」

「わかった。あの、奥さん、公衆電話はどこにありますか?」

「あっちの、ランチ・カウンターの脇よ」

「どうも」

 

 フブキが裏に回るまでの間、ウチは先に公衆電話で答え合わせをしておくことにした。

 ウチはランチ・カウンターの脇まで歩いて行って、小さな仕切りの中の公衆電話機から受話器を取って、10セント玉(ダイム)を投入した。

 できれば受付のあたりにあれば良かったんだけど。ランチ・カウンターは大抵の例に漏れず白人専用設備(WHITE ONLY)で、ようするにそこに近づくと"座るなよ"って感じの、ちょっと胡乱な視線を向けられちゃうんだ。だからいつもはこういう設備には近寄らないようにしてるんだけど、他にないんじゃ仕方ない。

 コックさんの刺すような視線をなんとか仕切りで切って、受話器の向こうに集中する。

 

「......交換台ですか? 警察です。記録課(R&I)に繋いでください」

「お繋ぎします」

 

 交換手電話機のダイアル音に続いて、回線の繋がる音がする。

 

「R&Iです。名前と識別番号(バッジ・ナンバー)を」

「大神、識別番号(バッジ・ナンバー)1272V(ヴィクター)

「用件をどうぞ」

「グローブナー・マカフリーの前科前歴情報を照会願います。公安課(レッド・スカッド)関係は除外して、暴力犯罪の有無をお願いします」

「少々お待ちください......41年にシラキューズ市警察に、殺人未遂で逮捕された記録があります」

「詳細情報はありますか?」

「......ありません。州警察(CSP)を通して照会をかけますか?」

「お願いします。ただ先に、公安課がその情報を持ってないか確認してからにしてください」

「了解しました。他に?」

「あり......ません。ありがとうございました」

 

 酒屋さんの住所を問い合わせようかとも思ったけど、あんまりフブキを待たせるのも悪いな。それに、やっぱりここは居心地がよくない。

 受話器を置いてダイムを回収すると、逃げるようにして裏に続く非常口に向かった。

 

 

 

 

 

 喧しく響き渡るピンセッティング・マシンの駆動音に辟易しつつ機械室に入ると、工具片手にマシンの整備か何かをしている男がいた。オレンジのシャツに青いオーバーオールとキャップ。

 いかにも作業員風の服装をしたその男だけが機械室にいるあたり、彼がティアナンで間違いなさそうだ。

 

「ジェイムズ・ティアナンさん?」

 

 歩み寄りながら声をかけると、男は不審げな顔をして機械の間から立ち上がりながら言った。

 

「あんた誰? 勝手に入ってきちゃだめだよ」

「大神、ロス市警(LAPD)......」

 

 警察官(バッジ)を出すなり、ティアナンは手にしてたコンビネーション・レンチをこっちに投げつけてきた。

 

「ぐっ!?」

 

 バッジを放り出して咄嗟に右手で払いのけたけど、腕に一瞬鈍い痛みが走る。こっちがよろめいたとみるや、ティアナンは奥の通用口に向かって一気に走り出した。

 ウチは近くの、裏手に面して開いてる窓に向かって叫ぶ。

 

「フブキ! そっち行った!」

 

 ウチが弾き飛ばしたレンチを挟み込んだのか、真横のピンセッティング・マシンが破壊的な音を立てて止まったけど、それには構わず通用口から走り出る。と、出てすぐのところにフブキが手をはたきながら立っていた。戸口の真横にあるゴミ箱を油断なく見つめている。

 

「フブキ、ティアナンは......」

「中」

 

 フブキが短く返すのと同時に、生ゴミの入った袋がいくつかゴミ箱からあふれ出て、ティアナンがそれと一緒に這い出てきた。どうやらティアナンの走る勢いを利用して、襟かなにかをつかんで大きくぶん回してゴミ箱に放り込んだ、とそんなところらしい。

 フブキはティアナンに歩み寄って襟首をつかむと、軽々と駐車場のアスファルトに彼を転がして言った。

 

「ジェイムズ・ティアナン。イブリン・サマーズ殺害の容疑で逮捕します」

「俺はやってない! 俺はやってないんだ!」

「はいはい、後で署で聴きますから。ミオ、その腕は?」

「え?」

 

 ウチは気が付かないうちに、レンチを弾いた右腕をさすってたらしい。折れたりひびが入ったりはしてなさそうだ。

 

「なんでもないよ。ちょっとぶつけちゃっただけ」

「......ふうん?」

 

 フブキは大げさに肩をすくめると、ティアナンを立たせてウチの目の前に突きやって言った。

 

「じゃ、白上は護送車(Bワゴン)呼んでくるから。ミオはこいつをお願い」

「わかった」

「......なあ聴いてくれよ、俺はやってないんだって」

 

 フブキが捜査用車に戻るために表の方へ姿を消すと、ティアナンがまた口を開いた。

 

「黙ってなって、あとで聴くから......そもそも、やってないならなんで警察(ウチ)から逃げるの」

 

 レンチまで投げてさ、と付け加えると、ティアナンは渋い顔をして答えた。

 

「だってその、彼女が最後に会ったのはたぶん俺だから......警察は俺が犯人だって考えると思ったんだ」

「へえ、最後に会ったのは君だったの?」

 

 途端にティアナンはしまったって顔をした。どうも、ウチたちがただ単に話を聴きに来ただけだとは思ってなかったみたいだ。

 目があっちにこっちに泳ぎまくってるティアナンがあまりにも情けなくて、ウチはついちょっとした助言をしてしまった。

 

「言っとくけど、逃げようとしたって事実は警察にとって、疑いを濃くするだけだよ。署でお話しするときはもうちょっと考えて発言しな?」

 

 いやもちろん、ウチたちとしては余計なことを考えずに、洗いざらい喋ってもらう方が都合がいいんだけどね?

 

 

 

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