H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Studio Secretary Murder #7

 

 

「KGPLから4K11。4キング11、どうぞ(カム・イン)

 

 ホープ通りを渡って捜査用車に戻ると、無線機が呼び出しを繰り返していた。今度助手席に乗ったのはウチだったので、ダッシュボードから送話器を取って応答する。

 

「4キング11です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「4K11、ドネリー警部が帰署を要請しています。対処識別符号は2(コード・ツー)

「4K11了解。ホープの7番と8番の間から向かいます」

「KGPL了解。以上KGPL」

「......だって。中央署に戻ろうか」

「そうだね」

 

 フブキが答えて、エンジンをかけた。ギアを入れて、交通の流れを読みながらボヤくように言う。

 

「ちぇ、マカフリーを捕まえに行く前に、早めにお昼食べたかったんだけどなー......」

「警部を待たすわけにはいかないでしょ?」

「そうだけどさ。久しぶりにミオとゆっくりお昼を食べれそうかなーって思ってたのに......」

 

 ウチたち自身も含めて、刑事は結構忙しくてお昼抜きになることもザラだ。制服の時はお昼だけじゃなくて中休みまでとってたのに、昇進したら一気に忙しくなっちゃって、フブキにはそれがご不満らしい。

 

「警部の用事を済ませてから、ミラー・プレスに行こっか」

「最近ミラー・プレスのグリルばっかり食べてる気がするなあ......」

 

 それはそう。署から近いから、どうしても中央署の警官はミラー・プレス軽食堂(ダイナー)に通いつめがちだ。ウチもこんなにミラー・プレスのお顧客(とくい)になるとは思ってなかったけど、なってみて解る、その近さゆえの便利さってやつ。

 警部の話が終わったら、マカフリーを捕まえに行く途中でどこか食べ物屋さんを見つけようかな。幸いにもここはウィルシェアじゃなくてダウンタウンだ。食べ物屋さんには事欠かないだろう。

 

 

 

 

 

「警部は地下にいる。ピンカーと、カラザーズも一緒だ」

 

 中央署に着いて薄暗く涼しい庁舎の中に入ると、フライシャー警部補が自身のデスクからウチたちに向かって言った。

 お礼を返して署の奥へ向かい、地下へと続く階段を降りていく。フブキはその途中でこっちを振り返って行った。

 

「......なんかちょっと前も似たような呼び出しを受けた気がするね?」

「手紙の時?」

「そうそう」

「......シェリーの件、警部に報告しなきゃだよね?」

「もちろん。警部が気に入ろうと気に入らなくとも、とにかく重大なヒントには違いないと思うからね」

 

 一階以上に薄暗く人気のない地下に降りると、煌々と明かりの灯っている鑑識課の実験室に向かった。フブキが先に入って、ウチが後からドアを閉める。

 

「課長、何か進展があったんですか?」

 

 ドネリー警部は、普段ピンカー技師が事務仕事に使ってるらしいデスクに腰かけていた。今朝の署長室と言い、誰のデスクにでも遠慮せずに座るタイプの人だなあ、ほんとに。

 警部の背後にはギャロウェイ刑事が壁に寄り掛かっている。

 

「レイとマルがヘンリー事件とモラー事件に共通項を見つけた。もちろん、この話は他言無用だ」

模倣犯(コピー・キャット)ですよ、課長(スキッパー)。そうに決まってる」

 

 ギャロウェイ刑事が葉巻をすぱすぱやりながら言った。うーん、"禁煙"の掲示にもたれかかって煙草を喫うのは流石にどうかと思うんだけど......

 

「そうだな、ちょっと前までは私もそう思ってたさ。だが口紅のメッセージがどうも気にかかる」

「メッセージと言えば、課長」

 

 フブキが口を挟んだ。

 

「例の質入れされた指輪のことなんですけど、質入れした人物はシェリーの名前を騙っていました。手紙にシェリーの詩が打ってあったことは、公表されてませんよね?」

「ああ」

 

 警部が苦い表情のまま返す。一方ギャロウェイ刑事は疑念に満ちた表情をフブキの方に向けて言った。

 

「偶然かもしれんぞ、お嬢さん。いいか、猿が延々タイプライターを叩き続ければ......」

「わかってますよ、ラスティ」

 

 フブキが手を振ってギャロウェイ刑事を遮ると、今度はカラザース検屍官が横から割り込んで言った。

 

「カルテル・クラシック・カーマイン。口紅の件だが、ヘンリー、モラー、マルドナード、そして今回のサマーズ。いずれも同じブランド、同じ色だった」

 

 あれ、なんだろ。マルの口調がいつもよりちょっと荒っぽい......というかぶっきらぼうだ。なんか怒ってる?

 

「だが、タラルドセンには口紅のメッセージはなかった、だろう?」

「厳密にはそうだな、ラスティ。彼女には"口紅の"メッセージは無かった。が、メッセージはあったんだよ。服の下に、尖ったもので刻み込んであった」

「何て書いてあったの?」

「知りたいか?」

 

 フブキの問いかけに、奥の方で薬品棚を調べていたピンカー技師が答えた。その声は検屍官のそれと同じで刺々しく、妙な怒気を含んでいる。

 

「読み取れる範囲で言えば......"CUNT BD"」

 

 全身の毛穴がゾワッと開いた気がした。悪寒とかではなく、怒りで。あまりにも大きすぎる激情は却って、ウチ自身の理性を妙に明確にした。マルやレイの声の中の怒りの正体がようやくわかった。

 

「まあ、ものの見方の一つではあるな」

「何のですか」

 

 ラスティの言に、フブキが冷めきった声で返した。

 

「"女性器/売女/セックス(CUNT)"に付随する、あらゆる権利のさ、お嬢さん。お前たちは嫁に行ったら、自分のに譲渡抵当を設けて旦那に好きに使わせることができる。でもって、旦那に月々の支払いを要求できるわけだな。金なり物なり、役務(サービス)なり」

 

 ラスティはウチが顔を顰めるのもかまわず、マルたちのほうに手を振って続けた。

 

「ここに居る連中もあらかた結婚してるわけだから、その支払いに四苦八苦してるわけだ。俺みたいな人間はどうかって言うと、その都度一括払いで支払う」

 

 なんかイラつくしたり顔をしてるけど、ラスティがバツ四なことを考えれば変な説得力がある。

 

「だがこいつは、それに金を払いたくないわけだ。名詞的にも動詞的にもな」

 

 下世話極まりないたとえ話に、マルが付き合ってられないとばかりに盛大な溜め息を吐いた。ただ、その所作は普段のマルらしからぬもので、どうにも気にかかる。フブキもそう思ったらしくて、声を幾分和らげて訊いた。

 

「どしたの、マル。何に怒ってるの?」

「......今朝がた、解剖助手を一人馘にしたんだ。ジェイミソンの友人でね」

 

 流石にぎょっとした。フブキも表情こそ変えなかったけど、しっぽが一瞬ぴくりと動いたのが明確にわかった。人の趣味嗜好はそれぞれと言っても、それだけ身近にいたと考えるとちょっと背筋が薄ら寒くなっちゃう。

 

「やつが何をしてたのか――あるいはしてなかったのか――は神のみぞ知るところだが......」

「じゃあそいつも払いたくないやつの仲間だったわけだ」

「警部、サマーズ事件の捜査はいまのところ、順調に進んでます」

 

 ラスティの茶々は無視して、ウチは警部にそう報告する。

 

「ただ、連続殺人だって方針で捜査すべきだと考えてるんでしたら、そのように指示してください。ウチたちはヘンリー事件から洗い直します」

「いや、このことは心の内に留めて置け。サマーズの捜査に――このままの方針でいい――戻ること。報告を欠かすなよ」

 

 

 

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