H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Studio Secretary Murder #9

 

 

「あの三人の内から犯人を見つけられそうかね、お嬢さん方」

 

 久しぶりに食べる中華料理でお腹を膨らませて中央署に戻ると、警務主任のデスクに寄り掛かったドネリー警部がそう声をかけてきた。フブキがそれに応じる。

 

「マカフリーかティアナンだと思います、課長。ジェイミソンは違いそうです......変態さんですけど」

「わかった、狂人のことは私が扱おう。受けて然るべき報いと言うものもある」

 

 また殴るんだろうなあ。

 

「ティアナンは取調室1、マカフリーは2だ。どちらかから自白を取ること」

 

 そこで言葉を切ってデスクから離れると、階段の方に立ち去りながら言った。

 

「私をがっかりさせるなよ、お嬢さん方」

 

 

 

 

 

「ではマカフリーさん、いくつか質問に答えていただきたいんですけど」

「君たちの欲しい"答え"を全部私が持っていると、そうお思いかな刑事さん?」

 

 取調室2に入りながらそう言うと、マカフリーは余裕綽々って体でそう答えた。取調室の座り心地の悪い事この上ない木製椅子に、なんでもないような顔で腰かけている。

 ウチも対面の椅子に掛けながら――こっちも拷問並みに座り心地が悪い――返した。

 

「ええ、警察官を見て逃げ出すような人は、大抵なにか後ろ暗いところのある人ですからね」

一本とられたね(トゥーシェ)、刑事さん。じゃあ、質問をどうぞ?」

「イブリン・サマーズのことですけど、酒場(バー)で会った時には"よく知らない"とお答えでしたね?」

「ああ、時折酒手をせがまれる程度だったからね」

「その程度でしかないご婦人に、本を貸したんですか?」

「何、なんだって?」

「本です。アリストテレスの形而上学」

 

 マカフリーの背後の壁に寄り掛かったフブキが、後を引き取った。

 

「白上たちがイブリンの寝床を捜索したとき、あなたの署名入りの本が出てきたんですよ、マカフリーさん」

「貸してなんかいない」

 

 マカフリーが声を荒げて答えた。そこから先は、それまでの見せていた知性やなんやらをかなぐり捨てて竜巻のようにまくしたてた。

 

「あのクソ女が俺のアパートメントから盗み出したんだ! あの厚かましい阿呆が......」

「で、当然あなたは怒った」

「怒った? 憤激したさ!あの苛つく間抜け面で俺を見上げて許しを......ああ、なるほど」

 

 ふと言葉を切ると、すっと声も表情も元通りトーンダウンさせてマカフリーは言った。その様子はさながらシャッターががらがらと下りるようだった。

 

「大変よくできました。君に一点だよ、刑事さん」

「点数は結構です。代わりに次の質問にも答えてもらえれば」

 

 気障ったらしい返しを正面から潰して、ウチはマカフリーの目を見据えながら続けた。

 

「と言っても、これは酒場(バー)でもお訊きしましたけど......サマーズさんは真夜中頃に殺害されています。その頃、あなたはどこに居ました?」

「私は......家に居たよ、原稿を書いていた」

酒場(バー)でも、確かにそう伺いましたね」

 

 フブキが背後から口を挟んだ。

 

「でも違う、あなたはその時間操車場にいた。サマーズさんを殴り倒して、絞め殺して......」

「そして酒場(バー)でも言った通り、私が家にいたことを証明できる人はいない。でも刑事さん、」

 

 マカフリーは初めフブキに向かってそう言った後、また振り返ってウチの方に向き直って続けた。

 

「私が操車場にいたとも証明できない。違いますか?」

「じゃあ、あなたの部屋にあったものは何です、マカフリーさん?」

 

 フブキの言葉にマカフリーが再び振り返る。その後ろ頭に、ウチはナイフを刺す気持ちで言葉を投げつけた。

 

「書き物机の上にあった、オーガスタ・サマーズ名義の手紙。あんたは作家さんなんだから、四十代の飲んだくれご婦人にお母さんが書き送った涙と嘆願の手紙を、ずいぶん面白く読んだんじゃないの?」

「散々愉しんで、記念に下半分をおうちに持って帰った。酷薄で傲慢な人ですね、マカフリー?」

「何のことだ? 手紙だとかイブリンの母親だとか、そんなのは何一つ知らん!」

「じゃあ誰があんたの机の上に手紙を置くの? あんたの他に!」

 

 ウチは思いっきり机を殴った。ウチたち獣人は膂力が強いから、こんな少女みたいなナリをしてても結構な音を立てることができる。

 そんなわけでウチは時々この手を使うんだけど、今日は自分でもそうとわからないほどに怒っていたらしい。思った以上に大きな音がバァンって鳴って、ぎょっと身を引いたマカフリーはもちろんのことウチ自身も内心すっごく驚いた。どうかそれが顔に出てませんように。

 

「......知らない。だが俺が置いたんじゃない。他の誰かだろう」

「参考までに訊きますけど、その誰かに心当たりは?」

「ない」

 

 ウチがちょっと目で合図すると、フブキがマカフリーの椅子の脚を払った。さっきよりもさらに大きな音がして、マカフリーは取調室の木の床の上に転がった。

 

「あのね、マカフリーさん。"俺じゃなくて他の誰かがやった"って言って、しかもその誰かに心当たりがあるのにそれを喋らない。白上たちがそれで納得すると、本気で思ってます?」

 

 フブキは定位置から動かないまま腕を組んで、冷たい視線でマカフリーを刺しながらそう言った。

 

「......ティアナンだ」

 

 床の上に転がったまま、マカフリーが小さく言った。

 

「確証があるわけじゃない。でも昨日、あいつはイブリンと一緒にアパートメントに入っていた。それを見たんだ」

「それはいつごろの話です......か!」

 

 フブキは椅子を立て直すと、そう訊きながらマカフリーの両脇に手を差し入れて乱暴に椅子の上に投げ戻した。

 マカフリーは殺意のこもった視線をフブキに投げてから、その殺意を乗せたまんまの声で答えた。

 

「昨晩......八時過ぎ。行き詰まると散歩をするんでね。ティアナンは酒壜の入った紙袋を持ってたよ」

 

 そこでぐいっと机の上に身を乗り出すと、ウチの顔を真正面から覗き込んで続けた。

 

「君たちが探してるヤツはティアナンだ。間違いないと思うよ」

「それならとっとと白上たちに教えて欲しかったところですね。メンシズでお話を聴いたあたりで」

 

 ウチがなにか答える前にフブキがそう言って、マカフリーの襟首をつかんで椅子の背に引き戻した。

 

「誤解してほしくないところですけど、」

 

 ウチは手帳をしまいながら、席を立ってマカフリーに言った。

 

「捕まえてる以上、ティアナンからも当然話は聴きます。あんたの言うことを真に受けてるわけじゃないってことを、頭の片隅に置いとくことですね」

「じゃあ話して来なよ。それでわかるさ」

 

 悠々とした態度のマカフリーを残して、ウチたちは取調室2から出た。

 

 

 

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