H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Studio Secretary Murder #10

 

 

「ああ、オオカミ刑事!」

 

 ティアナンのいる取調室1に向かう途中に警務主任のデスクの前を通りかかると、フライシャー警部補が電話の受話器を持ったままミオにそう呼びかけた。

 ミオがデスクの方に寄って答える。

 

「なんですか、警部補?」

「電話だ、カラザーズから」

「出ます。その受話器ですか?」

「いや、あっちのを使ってくれ」

「わかりました。フブキ、先に行ってて」

「りょーかい」

 

 こうしてミオは当直事務室の中へと入って行って、私は一人でティアナンの正面に座ることになった。

 

「それじゃティアナンさん、被害者との関係を聴かせてください」

「よくは知らない。ただの友人で......」

「ただの友人を、自分のアパートメントに連れ込むんですか? ご婦人なのに?」

 

 もちろん、私もマカフリーの言うことをまるっと信じてるわけじゃない。でも、揺さぶりの材料にはこれで充分。

 

「ちゃーんと目撃者もいるんですよ?」

 

 マカフリーだけど。

 でも効果はてきめんだった。ティアナンはがっくりと肩を落として、ぽつぽつ話しだした。

 

「......イブリンとは、公立図書館で会ったんだ。しばらく一緒に本を読んで、その後呑みに行った......それがいつものパターンで。昨日の夜は......」

 

 ティアナンはゆるゆると首を振って、沈み込んだ声で続けた。

 

「昨日の夜は、その後うちに一緒に帰って、もっと呑んだんだ」

「それで?」

「で......俺は酔いつぶれちゃった、みたい。起きた時にはもう、イブリンはいなかったんだ」

「目を覚ましたのはいつ頃でしたか?」

「真夜中辺りか......もっと遅かったかも」

「それを証明できる人は?」

「いや、いない......だから逃げたんだ。信じてくれないと思って」

「そりゃ白上たちからしたら、逃げられたら余計に信じにくくなりますよ? それとも、逃げ切れると思ってたんですか?」

「それはその......」

 

 ティアナンが言い淀んだところでドアが開いて、ミオが取調室に入ってきた。ちょっと目を見交わすと、ミオは閉じたドアにもたれかかってティアナンに訊いた。

 

「自動車は持ってる、ティアナン?」

「いや」

「ふうん......ボックスレンチは?」

「仕事でよく使うよ。機械にピンが詰まっちゃった時とかに」

「凶器はボックスレンチだったんだよ。見つけたのはマカフリーのアパートメントだったけど、あんたの職場の備品だった」

 

 ミオがドアからこっちにやってきて、机に両手をついてティアナンに文字通り迫って続けた。

 

「検屍官はさっき電話で、傷の形に一致するし、付着した血がサマーズさんと同じ血液型だって言ったんだよ」

「じゃあこうだね」

 

 私はちょっと整理してやることにした。

 

「君は職場のレンチでイブリンを殴って、絞め殺した。その後凶器をマカフリーの家に置いておいた。白上たちが見つけて、マカフリーを犯人だと思うように」

「確かにマカフリーのアパートメントには行ったさ! あいつはその時屋上にいて......イブリンがその時本を盗ったんだ」

 

 ティアナンはふっと鼻で嗤って続けた。

 

「戻ってきたマカフリーのキレっぷりと言ったら......あいつ、その時に言ったんだ。"人生の責め苦から解き放ってやろうか"って......実際にやりそうなぐらい怒ってたよ」

 

 それはマカフリーの言とも一致する。

 

「とはいえ、最後にイブリンに会ったのはティアナン、君なんだよ?」

「だから、昨晩のことはよく覚えてないって。酔いつぶれて」

「いーや違うね。彼女と喧嘩したんでしょ?」

 

 ミオが今度は、ティアナンの背後から両肩に手を置いて言った。

 

「喧嘩して、彼女を放り出したんでしょうが!」

「違う彼女は出て行ったんだそれだけだ!」

 

 声を荒げてティアナンが吐き出すように反駁する。私はティアナンの方を見据えて、静かに告げた。

 

「酒屋さんが証言してます。"男の子"と喧嘩して、その仲直りの品にってイブリンがウイスキーを買って行ったって。どう考えてもマカフリーは"男の子"じゃないよね?」

「サマーズさんは戻ってきたんでしょ?」

 

 ミオが低い声で耳元で訊くと、ティアナンは泣きそうな声で喋りはじめた。

 

「......愛してるって言ってくれたんだ。僕のこと、放っておけないって......でも彼女はマカフリーのことをずっとしゃべり続けるんだ! やれ"マカフリーは作家なの"、"マカフリーは英雄なの"、"マカフリーは年下の子のことを気に掛けるのよ"って! マカフリー、マカフリー、マカフリー!」

 

 ガンっと結構な勢いでティアナンは額を机に打ち付けた。驚いたのか、ミオが一瞬身体を引く。

 

「......気が変になりそうだった」

「で、殺したの?」

「殺してたかもね」

 

 私からの直截な質問に、ティアナンは何とも言えない、悲し気な笑みを浮かべて答えた。

 

「でも、その代わりに蹴りだしたんだ。彼女には寝るところもないってわかってたのに」

「そうですか......」

 

 ちょっとミオの方に目をやると、ミオはさっと肩をすくめた。攻撃材料、なし。

 

「......最後にもう一つ訊かせてください。イブリンは指輪をしてましたか?」

「ああ、してたよ。黒い円盤に白い字でEって書いてるやつ。タイプライターのキーで作ったらしいけど。昔、映画会社に勤めてた時に小道具係から貰ったって言ってた」

「ありがとうございます」

「ねえ。その、僕の疑いは晴れたの?」

「いいえ全然」

 

 立ち上がろうとするティアナンを抑え込みながら、ミオがそう答えた。

 

「まだまだ確認が必要だからね。ここで座って、おとなしく待ってること」

 

 

 

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