「どうかね、ティアナンだっただろう?」
フブキと一緒に取調室2に戻るなり、マカフリーは余裕そうな顔と声で言った。余裕、というか明らかにこっちを見下してる感じが透けて見えててとても不愉快だったけど、今度は椅子をフブキに譲ってウチはドアに背をつけることにした。
フブキはマカフリーと向かい合うと、それには取り合わずに言った。
「どうですかね、マカフリーさん。あなたの部屋には手紙の下半分があり、血塗れのレンチ――検屍官が凶器だと断定しました――があり、血塗れのシャツがあった。これであなたが殺ったって考えないなら、刑事を辞めるべきですね」
「考えてみなよ。俺が、こうなるとわかってて、それでも凶器を処分しないような、そんなアホだと。そう思ってるのかい?」
「いいえ、あなたはアホじゃありませんよ、マカフリー」
とっても厭な人ですけどね、って付け加えてマカフリーの顔をゆがめさせてから、フブキが続ける。
「イブリンに面と向かって殺すぞと、脅迫したんですよね、マカフリー? ティアナンからそう聴きました......なら、殺ったのはあなただ。ティアナンの職場の備品で殴ってそれを持っておくことで、ティアナンが擦り付けようとしているって言い逃れようと考えてた。そうじゃないんですか?」
「自己保身か。なるほどね」
なにがなるほどなのかわからないけど、マカフリーは意外なほどに落ち着き払った声でそう呟くと、ちょっと身を乗り出してフブキに言った。
「なら、私も正直に話すとしようか。イブリンを殺したのはティアナンだよ」
その声、その喋り方は、メンシズで最初に会った時のマカフリーのそれだった。
「助力を請われたんだ。昨晩私の家に来て、何をしたか、なぜしたか、全部話してくれた」
「助力を請われた?」
ウチはゆらっとドアから離れると、机に両手をついてマカフリーの顔面に迫った。
「本気で言ってるの? ウチたちが信じると、本気で思ってるの?」
「どう思われようと、私が話してるのは本当のことさ......私は言ったんだ、それは間違ってると。素直に警察に行くべきだとね。でも彼は、警察に捕まったらその後一生が台無しになると、そう信じて疑わないようだった。だから私が証拠を預かって処分しておくと、そう約束したのさ」
「でもしなかった。なんで?」
「まあ、私が喋ったってことをティアナンに伝えてみると良い。いい加減彼も諦めるだろうよ」
「ウチはね、なんで預かった証拠を処分しなかったのって訊いてるの、マカフリー」
マカフリーはひょいっと肩をすくめるにとどめた。激昂したウチが怒鳴りつけようと息を吸った瞬間、フブキがウチの袖を小さく引いてから、椅子から立ち上がった。
「じゃあティアナンに確認してきましょうか......言っときますけど、もし今言ったことに間違いが――ほんのわずかでも――あったらどうなるか、おわかりですよね?」
「ああ、わかっているとも。せいぜい頑張ることだね。党はいい弁護士軍団を用意してくれると思うぞ?」
最後の部分は間違いなくブラフだ。たぶん、マカフリー自身には弁護士軍団をよこしてもらえるほどの地位もコネもない。
廊下に出てドアを閉めると、フブキが先に立って取調室1に向かいながら言った。
「ミオ、さっきの......」
「嘘だよ、あれは」
フブキを遮るように断言する。
「やっぱり。だからミオはあのまま締め上げようとしたんだよね?」
「うん。フブキ、わかってて止めたの?」
「まあ、そう。どのみちあの感じじゃ、どれだけ締め上げても喋んなそうだったし......」
「そんな感じはしてたけど......」
「白上たちが白人に"強めの尋問"*1をするわけにもいかないでしょ?」
「それは......それはそう」
納得せざるを得なくなったところで、フブキが取調室1のドアを押し開けて中に入った。
ティアナンは鉄格子の嵌まった窓から夕暮れの1番街を眺めていたけど、ウチたちを見るなりガタッて立ち上がってフブキに訊いた。
「マカフリーと話してくれたんだよな? もう釈放してくれるんだよな!?」
「座って」
フブキが短く、鋭く言うと、ティアナンはぐっと黙り込んで椅子に戻った。
「もう一つ質問があります、ティアナンさん」
「どうぞ?」
「イブリンを蹴りだして、君は酔いつぶれた。で、その後は?」
「......次の日に目を覚ましたよ、だいぶ寝過ごして。イブリンがもう帰ってきてるかと思ってたけど」
「いーや、違うね」
ウチはティアナンの背後に回ると、その両肩を押さえつけながら言った。
「あんたはマカフリーの家で潰れた、そうでしょ? 目を覚ましたのもマカフリーの家」
手の下の肩がきゅっとすくむのがわかった。
「マカフリーは喋ったよ? 君がいつまでも強情張るんなら......」
「マカフリーが......次の日の朝に俺を起こしたんだ」
ティアナンがフブキを遮ってぽつぽつと話しだした。
「俺にレンチを見せて......シャツを見せて......それを箱にしまったんだ。で......で、俺が昨晩来たって言って」
ティアナンはさらに小さい声で言った。
「俺が......俺がイブリンを殺したって......それがラジオで流れてるけど、俺を守ってくれるって」
そこでさっと顔を起こして泣きそうな、というかほとんど泣き出してる声で続けた。
「でもわかんないんだ、刑事さん、本当に。誓って、俺は昨日のことを覚えてないんだ。俺は怒ってた、これ以上ないほど、殺しちまいそうなほどに怒ってた」
吐き出すようにティアナンが続ける中で、ウチはドアの方に戻ってその表情を注意深く観察することにした。
「......俺なのかな?」
泣き落としにかかったわけじゃないけど、さっきマカフリーの嘘を見抜いたのと同じ直感が、ティアナンはもう嘘を吐いてないとウチに告げていた。少なくとも、覚えてないってことは。