H.L. Noire   作:Marshal. K

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Reefer Madness #2 ~Interval~

 

 

 モルタル塀の陰から、おまるんがM37速射散弾銃(イサカ)を抱えて横手に走り込んでいくのが見えた。

 家の中の二人はなかなかいい連携を見せていて、弾倉交換のために射撃を止めるのが二人同時にならないようにうまく調整をつけている。

 おかげであたしはなかなか撃ち返せないでいるけど、反撃があまりに少ないと、連中にもう一人の刑事が裏手に回ったことを気づかれかねない。

 塀の下を這ってちょっとずつ陣地転換しながら、時折塀の陰から銃だけ出して何発か撃ち、また陰に隠れてじりじり場所を変える。

 

 そうこうしてるあいだに、裏手から散弾銃(ショットガン)のデカい発砲音が一発響いた。おまるんだ。どうやら施錠された裏口をぶち破るのに一発使ったらしい。とたんにM1短機関銃(トミーガン)の射撃が一旦止む。

 ぱっと立ち上がると、家の中の男たちはどっちも裏手の方に目をやっていた。失敗だね。どっちかがあたしを見とくべきだった。

 裏口から遠い方の一人に三発撃って、また塀の中に飛び込む。反撃してきたトミーガンは一丁だけで、その音もすぐに、イサカの轟音がもう一発した後には聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

「ここは立ち入り禁止です。入らないでください。次は警告だけじゃ済ませませんよ」

 

 歩道の現場保存バリケードの前に立つウィーライト巡査が、野次馬根性丸出しでバリケードを潜り抜けようとする通行人たちに注意を与えている。

 路肩に黒い検屍局の寝台自動車が停まって、助手席からマルコム・カラザース検屍官が降りてきた。

 あたしたちは家の外、窓の真下に仰向けに倒れている死体の脇に立って、マルがやってくるのを待った。

 

「銃撃戦かね?」

「ええ。ここに来るなりこいつらが撃ってきたんで、撃ち返して制圧したんだ」

 

 マルはしゃがみこむと、近距離で散弾銃に撃たれた衝撃で家の外に飛び出してきた死体の、トラクターが耕したような胸部をつぶさに見つめてから訊いた。

 

「ふむ......執行実包は?」

「12(ゲージ)00鹿撃ち散弾(ダブルオー・バックショット)

 

 そう言っておまるんが、持ってたイサカをマルに差し出した。マルは装弾・蹴筒口から残弾を確認して訊いた。

 

「もう一発はもう一人に、かね?」

「いや、裏口の錠前に」

「わかった。捜査用車に戻してよろしい」

 

 マルはイサカをおまるんに返すとあたしの方に向かい直した。

 

「で、もう一人は?」

「屋内に。そっちはあたしがやったんだ」

「ついてきてくれ」

「じゃ、ポルカは先にこれ直してくるわ」

 

 マルと二人で連れ立って家の中、玄関の右手の部屋に入る。間取りからして主寝室(マスター・ベッドルーム)かなにかのようだけど、ベッドはなくてダンボール箱が山積みにされていた。もっとも、この部屋だけじゃなくて家じゅうがダンボール箱だらけだけど。そしてそのダンボール箱の森のなかに男が一人、倒れ込んでいる。

 

「あっちの塀のかげから、こいつに三発発砲した。不規則射撃は除くけど」

「ふむ......執行実包は38スペシャルだね?」

「うん」

「......一発が左胸郭に、もう一発が左側頭部に射入している。もう一発は......ここか」

 

 マルが立ち上がって、壁の一点を指した。壁紙が破れて、何かがめり込んでいる。

 

「後で取りだして調べるが、たぶんこれだろうな......なにか調べにここに来たんだろう?」

「うん、まあ」

「調べごとに戻ってよろしい」

 

 

 

 

 

「おう、こいつがクルーズで間違いなさそうだぞ」

 

 家の外に戻ると、おまるんがそっちの死体の横で茶色い財布を振りながら言った。相変わらず、その目線は無惨な胸部を見ないようにしている。

 おまるんが放り投げてよこした財布を受け取って開くと、免許証が目に飛び込んできた。

 

 

――カリフォルニア州自動車操縦者運転免許証

 

  氏名:フアン・ガルシア・クルーズ

  住所:ロサンゼルス市北ラス・パルマス通り1452番地

 

  37歳のヒスパニック系男性、未婚、身長5フィート9インチ、体重170ポンド、髪は茶、目は黒――

 

 

「見る限り、免許証の本人で間違いなさそうだね?」

「ああ。それとこれ」

 

 おまるんが続いて投げてよこしたのは、ぴかぴか光るコインだった。大きくて、ずっしりと重い。

 

「モーガン・ドル銀貨(シルバー・ダラー)か。このMASってなんだろ?」

「わかんねえ。なにかで圧して刻印してあるみたいだけど」

 

 銀貨の表面には"MAS"って文字が薄く刻印されていた。1895年鋳造品だから、この刻印がなかったら10ドル以上するもののはずだ。見た感じ、文字列にはまだ続きがありそうだけど。

 

「少なくとも、古貨として持ってたわけじゃなさそうだね」

「だろうな。ところで獅白」

 

 銀貨を返すと、おまるんがにんまりと笑いながら裏手の方に親指を向けて続けた。

 

「さっき裏に回った時に結構な大きさの納屋があったんだけど......見てみたくないか?」

「見てみたいね。このお庭の荒れ具合からして、園芸用品が入ってるわけじゃなさそうだしね」

 

 

 

 

 

「スープの缶詰ばっかりじゃねえか......」

 

 納屋に入るなりおまるんがこぼした感想が、そこの様子を物語っていた。棚には所狭しとスープの空き缶が並べてあったんだ。

 

「しかも全部同じ会社のだな」

「おまるん、家の中に山積みにされてたダンボール箱、あれ見た?」

「ああ、突入したときに見た。どこの会社のかは見てなかったけど......これのか」

「正解」

 

 家の中のダンボール箱は、全部パーネルズ・スープ会社の箱だった。ここにある空き缶は、全部その会社のトマト・スープと、リーキ(ポワロネギ)・アンド・ポテトスープの缶だ。

 

「まったく、ひょっとしたらここはハッパ中毒じゃなくてスープ中毒者のヤサだったんか? 中身は......ネジか」

「こっちはナットだね」

 

 あたしたちが片っ端から開けて回った空き缶の中身は、いかにも納屋にありそうなものばっかりで、大麻どころか違法銃器や密造酒の痕跡すらない。

 

「やっぱガセだったんじゃねええ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」

「だっはっはっはっは!」

 

 おまるんが開いた空き缶の一つからバネ仕掛けのピエロがギャーッて声と一緒に飛び出してきて、おまるんに悲鳴を上げさせた。

 ビックリ箱ならぬビックリ缶は放り出されて、隅の方へと転がっていく。

 

「あービックリした! ビックリしたあ! あー......寿命が数日縮んだわ......いつまで笑ってんだよ!」

「いや、ごめんて。あんまりにもおかしくてさ......」

 

 なんとか涙をぬぐって落ち着こうとするけども、奥の方に転がったピエロと目が合った瞬間、あたしはまたこらえきれなくなってしまった。

 

「うっひゃっひゃっひゃ」

「出てろ!」

 

 

 

 

 

 そんなわけで納屋を追い出されたあたしは、一人寂しく家に戻って捜索を続けていた。いや、マルやロジャーが歩き回ってメモを取ったり写真を撮ったりしてるから、一人寂しいのはおまるんの方かもしれないけど。

 

「これはなんだろ。"masangkay"......何て読むんだろ、これ」

 

 電話機の脇に置かれていたメモには、よくわからない単語が走り書きしてあった。色々思い巡らしても、あたしの知ってる限りじゃスペイン語にこんな単語はないし、地名にも覚えがない。

 諦めてメモを放り出して、一緒に置いてあった雑誌を手に取った。広告のページが開かれていて、さっきまで見てたスープの缶の挿絵が添えてある。

 

「20世紀マーケット。パーネルズ・スープの15オンス缶が一缶12セント、十缶セットで1ドルかあ......フアンはここから、この大量のスープ缶を仕入れてたんかな」

 

 他にも生卵が1ダース49セントとある。まあまあお買い得じゃん。

 

「わぁっ!」

「......うわーあ、びっくりしたー」

 

 おまるんが背後から忍び寄ってくる足音はだいぶ前から聞こえてたんだけど、一応リアクションを取ってみる。当人はちょっと傷ついたような顔をして言った。

 

「なあ、せめてダメ出ししてくれよ。そーいう反応が一番傷つくぞ......」

「わりい。で、どうだった?」

「ん、ああ、面白いもんを見つけたぞ。つってもお前なら、納屋の中が外見より狭い事には気が付いてただろうけど」

「気が付いてたよ」

 

 一瞬だけ厭そうな顔をしてから、おまるんが続けた。

 

「......とにかく、あの壁の向こうにはもう一つ部屋があったんだ。フアンの隠し財産を覗きに来ねえか?」

「行く行く」

 

 

 

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