獅白を納屋から追い出した後、あたしは空き缶を開けて確認する作業を続けてたけど、だんだん面倒臭くなってきた。いいか、面倒臭くなってきただけで寂しくなってきたわけじゃないからな。絶対に。
「とはいえ、空しい気分になってきたのは確かだな。こうも収穫がねえと......ん?」
空き缶の一つをつかんで持ち上げようとすると、缶に抵抗された。
「貼り付けてあんのか、これ?......わっ」
手前に引いてみると、缶はそのままぱたりと倒れた。それと同時に掛け金が外れる音がして、滑車を軋ませながら戸棚の一つが奥に向かって開いたんだ。
「すっげ、隠し扉だ......」
仕掛け自体は単純だった。おもりとロープ、滑車、掛け金。それこそ、納屋にある部品と工具で作れそうなものだった。
「......んで、またスープ缶と」
隠し部屋になにかあるかと期待してたんだけど、そこの棚に並んでたのは相変わらずパーネルズ・スープの缶詰だった。違いは、こっちは未開封だってことぐらい。
「やれやれ、こりゃ本当にスープ中毒者に当たっちまったかな......あれ?」
戯れに缶の一つを持ち上げてみて、変な違和感を感じた。なんだこの感覚。
缶をまじまじと見つめる。
「......内容量
ぽんっと放り投げて、もう一回キャッチする。
「15オンスも入ってねえなあ。といって、空き缶じゃないのも確かだし」
缶の封印部分をこつこつ叩く。間違いなく、工場で密閉されたままだ。一回切り開けたような様子もないし、どこかに穴が開いて中身が流れ出ちゃったような形跡もない。
どうやって中身を確認しようか考えて、あたしはふと思い当たることがあって一旦納屋を出た。
「で、この缶を開ければいいの?」
「おう。お前のことだから、缶切りくらいもってんじゃねえかと思ってさ」
そんなわけで、獅白を連れ戻してきた。
「おまるん、あたしのことなんだと思ってるの?」
「ん? いつでも頼りになる獅白ぼたんだと思ってるぞ」
獅白は大げさに肩をすくめると、ウェストコートのポケットから万能ナイフを取り出した。
「まあ、持ってんだけどね」
「やっぱりな」
獅白はナイフの刃の中から缶切りを選ぶと、キコキコ音を立てて封印を切りだした。刃をぐるっと一周させて、ちょっと残した部分を蝶番のようにして蓋を開ける。
「へっへえ、おまるん大正解だね」
そう言って相勤がつまみ出したのは、ちょっと茶色っぽくなった麻の花穂だった。
「缶一杯に詰まってるね......
「なら......末端で20ドルくらいか」
あたしがそう推定すると、獅白はつまみ出した花穂の匂いをくんくん嗅いでから言った。
「これなら三十ぐらい出す人もいるかも......少なくとも、定価の12セントじゃ買えないのは確実だね」
獅白はいま開けた缶をそこらに置くと、棚の中から適当にもう一つ取ってキコキコ開けた。
「よっと......これも大麻の缶詰だね。一缶しかないアタリをおまるんがたまたま引いただけ、ってことはなさそうだ」
「おい、どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だけど? なんせこんだけ缶があればね......のこりは巡査の誰かに確認してもらおっか」
「ポルカもそうしようかと思ってたんだ。で、気になるのはもう一つあって」
「なに?」
「そこの台帳」
隠し部屋の奥には、納屋には不釣り合いな書き物机が置いてあった。その上に、青い表紙の台帳が置いてある。
獅白がその机に歩み寄って、台帳の箔押しの題字を読み上げた。
「"パーネルズ・スープ会社 配送台帳"か。缶の封印といい、この会社もグルかな?」
獅白が表紙をめくった台帳のなかを、あたしも横から首を延ばして覗き込んだ。
――パーネルズ・スープ会社 ハリウッド、ファウンテン通り6310番地
日付:1月3日 重量:50ポンド 価格:2000ドル 生産地:ティフアナ 備考:E.J.
日付:1月18日 重量:50ポンド 価格:2000ドル 生産地:ティフアナ 備考:E.J.――
「他にもちょろちょろ取引はあるけどこのE.J.って人――備考欄だけど、たぶん取引相手のイニシャルだよ――、マジで週に50ポンドも持ち込んでるみたいだね」
「だな。サン・イシドロの税関に知らせとくか?」
「どうかな......」
難しい顔をして台帳を閉じながら、獅白が言った。
「これだけ頻繁に、これだけたくさん密輸できてるなら、抱き込まれてる監視官がいっぱいいそうだ」
「じゃあ保留で。そこから連中に警告が飛んでもまずいしな」
あたしは腕を振って、外に出るように獅白に促しながら続けた。
「スープ工場に行ってパーネル社長がどう弁解するか、聴いてみようじゃん」