H.L. Noire   作:Marshal. K

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Driver's Seat #3

 

「どうも、シラカミ刑事です」

 

 フブキが通報者のウィルキーさんに挨拶をすると、ウィルキーさんがハート巡査に確認するような視線を投げた。まあ、いくら警察官(バッジ)を下げているとはいえ無理からぬことだよねえ。

 ウィルキーさんが巡査の頷きを受けて挨拶を返した。

 

「ネイト・ウィルキーってんだ」

「自動車を見つけた方ですね?」

「そうだよ。自動車を駐めとくにゃ変なところだろ? 様子を見たほうがいいと思って、そしたらどえらい血を見たもんで、警察に通報したんさ」

「なぜここにいたのか、聞かせてもらってもいいですか?」

 

 フブキが手帳を開いて、鉛筆を舐めながら聞いた。

 

「そりゃあ、俺は鉄道で働いてるもんで、転轍機(ポイント)のところに行こうとして近道しようと思ったんだ」

「構内で他に誰か見ましたか? 自動車の周りとかで」

「うんにゃ。今日はあんたらが来るまで、他に誰も見ちゃいないな」

「では、エイドリアン・ブラックという方をご存知ですか、ウィルキーさん?」

「いや、知らない名前だね」

「この自動車を前にも見たことありますか?」

 

 これはウチからの質問。

 

「おかしなことに、あるんだ。何日か前の夜に、そこの駐車場に駐まってるのを見たんだ。そこに駐めてる自動車は大体決まってるから、それで目立ったんだな」

「自動車の近くにあった財布ですが、」

 

 再びフブキが聞く。

 

「あなたが見た時、中に何か入ってましたか?」

「お、俺を疑ってんですかい?」

 

 急に敬語の入ったウィルキーさんをフブキが鋭く睨んで言った。

 

「巡査にあなたを取り押さえさせて、そのあいだにポケットを全部ひっくり返してもいいんですよ」

「そりゃあ、財布の中を見たりはしたさ」

 

 背後で腕を組んでいるハート巡査に目をやって、

 

「でも盗るようなもんはなにも入っちゃいなかった!金は無かったんだ。何一つ手を加えちゃいない」

 

 フブキはしばらく無言でウィルキーさんを見つめていたけど、やがて手帳になにか書き込んでから質問を再開した。

 

「自動車の近くで鉛管(パイプ)を見つけました。ウィルキーさん、なにかご存知ですか?」

「いいや、自動車が血塗れなのを見てすぐに通報しに行ったからな」

「あなたが見た時、血はもう乾いてましたか? 明るい赤だったか、今みたいに濃い色になっていたか、覚えてますか?」

「濃かったな、俺が見た限りでは。もうあらかた乾いてたと思うよ」

「ご協力ありがとうございました、ウィルキーさん」

 

 フブキが手帳をしまいだしたのを見て、ウチが言う。

 

「また他に伺いたいことがあったら、あなたの雇い主さんに連絡しますね」

「必要ならそうしてくれ。今日はこれ以上付き合ってられる時間がなくってな」

 

 ウィルキーさんが駅舎の方に行ってしまうと、ビコウスキー刑事が後ろから声をかけてきた。

 

「誰かが奥さんに知らせなきゃだ。ここでの仕事が終わったんなら、次の目的地はそこだな」

 

 そう言って、先に駐車場の方に戻り始める。

 

「ねえフブキ、制服の時に近親者通知ってやった?」

「やってない」

「ウチもやってない」

 

 二人で小さく溜め息を吐いて、

 

「これも慣れないとだなあ」

「慣れちゃったら終わりだと、ウチは思うけどね」

 

 でも、気持ちの整理は早く付けられるようになった方がいいよね、うん。

 

 

 

 

 

「ここだよ、ミオ」

 

 フブキの合図でビュイックを路肩に寄せる。

 ロサンゼルス有数の高級住宅街、バンカーヒル。ブラックさんの家は、そこから少し北の方にある中流向け住宅の内の一軒だった。

 丁寧にお手入れされた芝生の庭があって、花壇にはたくさんの向日葵が咲き誇っている。

 二人で連れ立って玄関への小径(アプローチ)を歩いて行くと、後からビコウスキー刑事が言った。

 

「奥さんにはお二人さんが話をしな。俺はどうも、お涙ちょうだいは苦手でね」

 

 勝手だなあ、と思う間に玄関について、ウチがドアを叩いた。

 

「いま行きます」

 

 開いた窓越しに声が聞こえて、すぐにドアが開いた。

 ドアを開けたのは女性で、フブキが見せてくれた財布の中の写真の女性のようだった。

 

ロス市警(LAPD)です。ブラック夫人ですね?」

 

 ウチが話しかける。

 

「お話したいことがあります。中に入れてもらっても?」

「マーガレット・ブラックです。それでしたら居間の方で、ご案内します」

 

 

 

「ブラックさん、旦那さんは青のリンカーンをお持ちですよね?」

 

 ソファに着くなりウチは言った。

 

「ええ、そうです」

「その自動車は放置されて見つかりました。ウチたちは旦那さんが犯罪に巻き込まれた可能性があると思っています」

「おかしいと思っていましたわ。主人は昨日帰宅しなかったので」

「旦那さんは怪我されていると、ウチたちは考えています。現場に血塗れのパイプがありましたので」

「そんな、エイドリアン......」

「"インスタヒート"という名前に心当たりはありませんか?」

 

 泣きそうな表情になったブラックさんにフブキが質問を投げた。

 

「ええ、あります。新しい給湯器(ボイラー)を導入したばかりで......」

「それはどこにありますか」

「家の横手の、台所(キッチン)の窓のすぐ下ですわ」

「ブラックさん、ウチたちに、」

 

 フブキの方を見やりながら言う。

 

「ちょっとお宅の中を見せてもらいます。その間に気持ちを落ち着けて、昨日あったことをよく思い出されてください。あなたが落ち着いたら質問を続けたいと思います。よろしいですね?」

「もちろんですわ、お巡りさん。主人の安全のためでしたら、もちろん」

 

 ウチはソファから立ち上がると、フブキと手分けして家の中を見て回ることにした。

 

 

 

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