H.L. Noire   作:Marshal. K

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Reefer Madness #4 ~Interval~

 

 

「結局誰だったと思う? ベンジャミン・シーゲル(バグジー)を殺したのは」

 

 42年式キャデラックをラス・パルマス通りからファウンテン通りに曲がらせたところで、助手席に座るおまるんが不意にそう言った。今週のコンフィデンシャル・マガジンの特集記事でも読んだかな?

 

「さあね。実行犯は殺人会社(マーダー・インク)の誰かで間違いないと思うけど......バグジーはシンジケートに顔が利く分、敵も多かったらしいからね」

電信競馬(ワイヤー・レース)の利権をめぐってドラグナとも対立してたんだろ? アメリカ中に敵が点在してるんじゃあ、特定は難しそうだなあ......」

「ビバリーヒルズ市警は災難だね」

「ドラグナやコーエンを抱え込んでる以上、ポルカたちにも対岸の火事じゃねえと思うけどな」

「それはそう」

 

 

 

 

 

 パーネルズ・スープ会社の本社兼工場はファウンテン通りがバイン通りと交差する南西側の角にあった。2階建ての鉄筋コンクリート製で、明るいオレンジ色のタイルと磨りガラスが印象的な建物だ。

 玄関ホール(ホワイエ)は吹き抜けになっていて、入ってすぐのところに受付カウンターがあるとみるや、おまるんはそこにのしのしと歩いて行った。

 

ロス市警(LAPD)。ここの責任者は誰?」

「社長のハワード・パーネルさんです。お約束はおありですか?」

「これが、約束だよ」

 

 おまるんはそう言って警察官(バッジ)をカウンターに叩き付けた。

 

「ポルカたちが会うって言ったら会うんだ」

「......社長に知らせて参ります。そちらでおかけになって、」

「案内してくれた方がいいかな」

 

 延々待たされた上で追い返されかねない空気を察知して、おまるんの後ろから援護射撃を加えると、受付嬢はすっかり仏頂面になって言った。

 

「そうしたいのでしたら。どうぞこちらへ」

 

 受付嬢の後に続いて二階に上がって、壁の向こうから響いてくる機械の駆動音を聞きながら廊下を奥に進んで行く。

 吹き抜けの廊下を一番奥まで行くと、シャネル・スタイルの婦人用スーツに身を包んだ女性がデスクに就いていた。受付嬢が、いかにも役員秘書らしいそのご婦人に話しかける。

 

「こちらのお二人はロス市警のかたです、ドリス。パーネル社長に会いたいらしいんですが、今空いてますか?」

「ええ。こちらへどうぞ、お嬢様方」

 

 秘書は席を立つと、自席のすぐ後ろにあったドアを押し開けた。ドアにはステンシルで"H. パーネル 社長"って書いてある。

 部屋に入ると、深緑色の背広を着込んだふとっちょの男性が声を上げた。

 

「失礼、どなたですかな?」

ロス市警(LAPD)、座ったままで」

 

 でかい態度でおまるんが、立ち上がろうとしたパーネル社長を制した。

 

「あなたは今、厄介事に巻き込まれかかってるんです。いくつか質問させてもらいますよ」

「構いませんが、もう少し落ち着かれては? おかけになって」

「そりゃどうも」

 

 おまるんはパーネル社長の前の客用椅子にどっかと腰を下ろすと、淡い緑のスカートが許す範囲で足を組んで社長の顔を顰めさせた。どうやら、でかい態度を崩す気はないらしい。

 それを受けてあたしも乗っかることにした。社長室の壁際にあったソファに深々と座り込んで、足を組む。ショートパンツにタイツって出で立ちを有利に使って、遠慮なく足を組んだ。さらに両腕をソファの背もたれにまわす。

 おもいっきり偉そうなあたしの態度をチラッと見て、社長の顔のしわがさらに深くなった。

 

直截(ストレート)に訊きましょう。ここのスープ缶から20ドルはする乾燥大麻(マリファナ)が見つかりました。なんでですかね?」

「そりゃまた、おかしなことを言いますな?」

「おかしかろうが何だろうが、ポルカたちはそんな缶を三十缶は見つけて押収してます。ここのラベルがついてて、しっかり封もされてる」

「私は何も知りませんよ」

「ほんとに? まあ、とりあえず従業員名簿を見せてもらいましょうか」

「もちろん。隠すことなどありませんからな」

 

 社長は卓上の構内通話機(インター・コム)に手を伸ばした。

 

「ドリス、今現在の従業員名簿を持って来てくれないか?」

「すぐお持ちします」

 

 1分もかからずにさっきの秘書が入ってきた。右手に青い帳簿を持っている。

 

「お持ちしました、パーネル社長」

「デスクの上に置いてくれ」

 

 秘書は言われた通りにすると、無礼極まりない態度をとってるあたしたちを見ても表情を崩さずに、完璧な笑顔を浮かべたまま退室した。もし、彼女を尋問しなきゃならなくなったら、結構苦戦しそうだ。

 一方おまるんは名簿をぱらぱらめくっていたけど、やがて顔を上げて訊いた。

 

「......この、ホヘ・ガルシア・クルーズって人について伺っても?」

「ホヘ? ハッハ、彼の苗字もよく知りませんな......確か、彼のチームはベルト・コンベアーと調理設備の保守点検を担当してたんじゃないかな」

「彼はいま、ここにいます?」

「いや、点検作業は夜間ですから。夜勤チームが真夜中頃に仕事を終えるんで、彼は夜九時頃に出勤してきて、翌朝六時ごろまでに点検修理を終わらせとくわけです」

「なるほどね......ところで、最近の業績はどうです、パーネルさん?」

「業績?......いい調子ですとも」

 

 急な話題の転換に、一瞬詰まってからパーネル社長が返した。

 

「戦争が終わり、我々は新たな繁栄の時代に入って行ってるわけです。お二人とも、スープはお好きですかな?」

「ええ、まあね。ただ、さっきも言ったようにあんたは今、厄介事に巻き込まれてるんですよ? 麻薬密売関係のね。素直に話してもらえないんなら、その繁栄の時代ってやつに乗り遅れちまうように、ポルカたちが計らいますよ?」

「わかったよ、」

 

 パーネル社長が座りなおした。ちょっとのきまり悪さと、面倒くささが同居した顔をしている。

 

「そう、業績は伸び悩んでる。まだ赤字じゃないが......そのうち生産数を下げなきゃならんでしょうな。もう軍からの大口の調達は無いわけですし」

「当分それは見込めなさそうですね? じゃあ次、と言っても本題ですけど、ポルカたちが見つけた缶はしっかり封印が施されてました。一回開封した缶を糊付けしたり溶接したりとか、そういう素人仕事じゃなくてね。ポルカたちは、ここの人間が関わってるものと見てます」

「さて、心当たりがありませんな」

 

 社長が答えたその声は、半オクターブくらい高く裏返っていた。

 

「パーネル社長、心当たりがあるんならしっかり話してもらわないと」

 

 あたしはすっとソファから立ち上がると、おまるんの背後から社長さんを見下ろすようにして言った。

 

「は、話してもらわないとも何も、心当たりはないと......」

「あたしにはあるようにしか見えませんけどね? じゃあこうしましょう、これから治安判事のところに行って、ここを上から下までひっくり返す令状をもらってきます。あの缶があれば、まさか取れないってことはあり得ませんからね。その上でなにも出なかったら、謝りますよ?」

「いや、その......あなた方は薬物関係を捜査してるんですよね?」

「そうだけど?」

「......なら、多少の軽犯罪は見逃してくれますかな?」

「あんたの言う"軽犯罪"が本当に軽犯罪の範疇ならな」

 

 おまるんがするっと敬語抜きに切り替えてそう言った。

 

「続けて?」

「実のところ......うちの従業員の大半は不法就労なんだ。近頃は誰も、単純労働をやりたがらんもんでしてな」

「まあ、そんなこったろうとは思ってましたけど」

「大多数はメキシコからの密航者(ウェットバック)たちでしてな......地元の黒人やメキシコ系(チカノス)どもはみーんな、飛行機工場に取られちまいましてね」

「そりゃ、そっちの方が払いがいいんじゃねえの?」

「だろうね。ご協力ありがとうございました、パーネル社長。良ければ工場の方もちょっと見せてもらいたいんですけど」

 

 おまるんの端的な感想を流してあたしがそう訊くと、社長を顔をちょっと青くして聞き返してきた。

 

「それはその、一旦生産を止めろってことですかな?」

「いえ、そのままで。充填、封印、出荷あたりのエリアを見せてもらえれば」

「わかりました。どうぞこちらへ」

 

 一転して安心した様子のパーネル社長に促されて、あたしたちは揃って社長室を出た。

 

 

 

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