H.L. Noire   作:Marshal. K

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Reefer Madness #5 ~Interval~

 

 

 パーネルの社長室を出てからしばらくして、あたしは顔を顰めながら工場を歩いていた。あたしたちを充填エリアに案内するためにパーネルが先行していて、後ろからは獅白がついてきている。

 場内は機械や設備が立てる様々な騒音が反響していてとてつもなくうるさかったけど、あたしの顔を顰めさせてるのは臭いだった。

 皮を剥かれて洗浄され、切り刻まれた野菜たちがあたしの隣を走るコンベアーで運ばれてるわけだけど、そこから漂ってくる臭いのひどいことひどいこと。新鮮な生野菜は健康にいいってのはわかってるけど、それでもこれだけの量、これだけの種類が一纏めにされると、その臭いは充分悪臭の範疇だった。

 

 あたしは以前火災犯課の仕事で行ったヒューズの飛行機工場を思い浮かべて、なるほどあっちの方が臭いはマシだったし、従業員を取られるわけだって独り決めした。

 

「ここが充填と巻締のエリアです!」

 

 工場の騒音に負けないように、パーネルが声を張り上げて言った。

 巨大な漏斗型の鍋(ホッパー)からどろっとしたミネストローネが缶に注がれて、ローラー・コンベヤーの上を滑って機械に入る。機械の中でなにをされたにしろ、しっかり封印された状態で反対側から缶詰が排出されていた。

 

「この後缶はラベル巻きの方に向かいますが......」

「よろしければ! 出荷エリアの方を見せてもらえますか!」

「どうぞ! こちらです!」

 

 あたしたちが案内された工場の一画には見覚えのあるパーネルズ・スープのダンボール箱が山積みされていて、その脇のデスクでヒスパニックの男が一人、帳簿を相手に仕事をしていた。

 

「彼が配送係(ディスパッチャー)です! セルジオ、だったよな!?」

そうです(イエス・サー)、社長!」

「こちらのお嬢さん方はロス市警(LAPD)の方だ! お二人さん、彼がいま仕事をしている台帳には、うちからの発送記録が全部あります!」

「見せてもらっていいですか!」

「どうぞ!」

 

 セルジオがデスクの上の帳簿を、こっち向きにして差し出してきた。それを上から覗き込む。

 乾燥大麻(マリファナ)の缶詰を見つけた納屋にあったのと、まったく同じ台帳だった。中身はある一点を除いて、普通のスープ会社の配送台帳だった。

 

「パーネルさん、この20世紀マーケットってところはお顧客(とくい)さんみたいですねえ! 毎日欠かさず15箱も卸してるじゃないですか!」

「は!? 何の話です!?」

 

 甲高い大声でパーネルが返した。すっとぼけてるのか本気でわかってないのか、判断つきかねた。

 顔をあげると、台帳を取られた配送係はコイン遊びをしていた。大きくて、きらきらの銀貨。

 

「ちょっと! そのコイン、見せてもらってもいい!?」

「ええ、どうぞ!」

 

 セルジオからコインを受け取る。それはずっしりとしたモーガン・ドル銀貨だった。

 

「おまるん、それ」

「わかってる」

 

 後ろから覗き込んできた獅白が小さく耳打ちをした。

 その通り、銀貨には見覚えがある字体の浅い刻印があった。"ANG"。

 

「この刻印があったら、もう売れないよな!?」

「売りませんよ! お守りなんでさ!」

「そう! ところであんた、あっちの充填とか封印――巻締っていうんだって?――とかの方に行くことはある!?」

「行けないことはありませんよ! ただ、俺は自分の仕事がありますから! 積み込みと荷下ろしがあるんで、スープのことにかまってる暇はねえです!」

「ポルカが訊いてんのはスープのことじゃないんだけど、それはわかってるよな!?」

「ここはスープ工場ですぜ!」

「うるせえ! いつまでもすっとぼけるなら、移民帰化局(INS)にお前のことをチクりに行くぞ!」

 

 これは効果絶大だった。セルジオは一瞬パーネルの方に目をやると、あたしに向かってちょいちょいと手招きをした。それに従って顔を近づけてやると、小さい声で話しだした。

 

「聞こえてますよね? 姐さん耳が大きいから......」

「聞こえてるよ。姐さんじゃなくて刑事だけどな」

「あたしも聞こえてるよ」

 

 後ろから獅白がそう言うと、セルジオが驚いたように目を見張った。

 

「獣人は耳がいいんだよ。いいから続きを話しな」

「その......連中は隔週で"出荷"をするんで。アーネストが運転を担当して――知らんですよ、彼の本名は」

 

 アーネストなる人物の本名を問いただそうとした途端、それを察知したらしいセルジオから釘を刺された。ただ、アーネスト(Ernesto)が納屋の帳簿にあった"E.J."の可能性は高そうだ。

 

「夜中にアーネストがブツを運び込んできて、ホヘがそれを缶詰にするんでさ。んで、ここから全米に発送してるんです」

「なるほどね。で、この台帳にある20世紀マーケットだけど」

 

 あたしは開きっぱなしの帳簿をこんこん叩きながら続けた。

 

「あんた、ここについて何か知らない?」

「なーんも。俺は上から来た指示通りに発送をしてるだけでさ」

「ふうん? フアン・ガルシア・クルーズってヤツは?」

 

 後ろから獅白が出てきて、デスクの横端にお尻を乗っけながら訊いた。

 

「さあ、知らんね」

「じゃあ、なんでこの銀貨にフアンのと同じような刻印があるんだよ?」

「それは......」

「素直に話しなよ。あたしたちはもう、20世紀マーケットを睨んでるんだよ?」

 

 獅白が今度はセルジオの背後に回り込んで、両肩に手を置きながら耳元で言った。

 

「あっちで同じような銀貨を持ってる人に出くわしたら、あんたが紹介してくれたって言っちゃうかもね?」

「あ、あ、あの、その......フアンとホヘは従兄弟なんでさ」

 

 思いっきり動揺してどもりつつ、セルジオは続けた。うーん、やっぱ獅白は悪人の下っ端の扱い方がわかってんな。

 

「あいつらはなんか、アメリカ人(ガバチョ)の悪人に雇われてんです。そいつがヤベえ奴でして......銀貨をくれたんはそいつなんでさ。ホヘは"出荷"があった日の朝、俺に発送先をこの台帳に加えさせるんです。大抵は何件かに分散されとるんですが、20世紀マーケットは必ずそん中にあるんでさ」

「わかった。この後、あんたはポルカたちと話したことをホヘとか、そいつの仲間たちに一切喋らない。そしたら、ポルカたちもあんたを見逃してあげる。いい?」

「いいも何も、俺に選択肢があるんですかい?」

 

 銀貨を返してやると、セルジオがそう訊いてきた。それに対して獅白がこちら側に戻ってきながら当然のように返した。

 

「あるわけないじゃん?」

 

 

 

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