H.L. Noire   作:Marshal. K

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Reefer Madness #6 ~Interval~

 

 

「じゃあパーネル社長、あたしたちはこれでお暇しますから!」

 

 出荷エリアを離れると、あたしはパーネル社長にそう言った。ラベル巻き機とローラー・コンベアーの騒音が相変わらずひどくて、やり取りは相変わらず叫び声だ。

 

「ここはいつもと同じように操業させてください! 特にセルジオには注意して、なにかいつもと違うような行動をとったらすぐにあたしたちに連絡してください!」

「わかりました!......これで例の、入管絡みの問題は見逃してくれるんですな?」

 

 社長がずいっと近寄ってきて、あたしに小声で言った。もっとも、おまるんは結構近くにいるから聞き取れてるはずだ。

 

「......ま、頑張ることですね、パーネル社長。もうしばらくは、あんたにもいい思いをさせてあげますよ」

 

 社長の方に向き直って、その目を真っすぐに覗き込みながら付け加える。

 

「もっとも、共産系(コミー)の組合とかが入りこみだしたら、風紀課(あたしたち)はともかく公安課(レッド・スカッド)が黙ってないと思いますから。お気をつけて」

 

 先に目をそらしたのはパーネル社長の方だった。

 

 

 

 

 

 20世紀マーケットはハイランド通りとセルマ通りの角にあった。でかでかと掲げられている看板には、"最高品質!"とか"毎日大安売り!"とかの売り文句が並んでいる。

 でもよく見れば、"最高品質!"の前に小さく"中級品中の"と但し書きがあったりして、まあ、よくある客集め手法の一つってわけだ。

 あたしは捜査用車を向かいのハリウッド高校(ハイ)の講堂の前に停めた。

 車内から様子を窺っていると、ヒスパニック系の男たちが次々にマーケットに入ってはパーネルズ・スープのダンボール箱を運び出している。

 

 

「......連中、よっぽどスープ好きみたいだね」

 

 あたしの冗談に、おまるんは送話器を取り上げながら返してきた。

 

「みたいだな。ちゃーんと定価で買ってんのか調べてみねえと......5キング44からKGPL」

「5キング44、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「5K44、応援を派遣願います。場所、北ハイランド通り1558番地、北ハイランド1558。20世紀マーケットです。大規模な麻薬取引被疑事案につき、護送車(Bワゴン)を合わせて派遣願います。また、対処識別符号2(コード・ツー)で吹鳴無いよう厳しく指令願います」

「KGPL了解。KGPLから各局、5K44号車から応援要請......」

「さーて、これで騎兵隊が来るぞ」

 

 おまるんがそう言って送話器を放りだす。それから10秒と経たないうちに、ハイランド通りのちょっと南にある裏路地からパトカーが一台、危うく通行人を轢き倒しそうなドリフトをしながら登場した。指令の通りにサイレンは鳴らさず、赤色投光器(スポットライト)だけが点灯している。

 さらに北のホーソーン通りからも、自動車が急ハンドルを切って曲がってくる音がする。

 最初のパトカーが甲高いブレーキ音を響かせて20世紀マーケットの前に停まると、丁度店の前にいた男たちの内、手ぶらの一人は脱兎のごとく駆けだした。あとの二人はその場に箱を置いて手を上げている。

 おまるんと一緒にキャデラックから降りてお店の方に駆けて行く途中で、セルマ通りの方からもパトカーが二台、エンジン音も高らかに爆走してきているのが見えた。

 店の前の売人たちは制服組にまかせて、おまるんとあたしは店内に飛び込んだ。おまるんが警察官(バッジ)をかざしながら叫ぶ。

 

ロス市警(LAPD)だ! 全員動くな!」

 

 男たちが一斉に手を上げて、その場に立ち止まる。一人を除いて。

 

「ええい、ままよ!」

 

 会計(チェック・アウト)カウンターに就いていた前掛け(エプロン)姿の男はそう叫ぶと、店の裏手に消えていく。

 

「おまるん!」

 

 叫んだ時にはもう、おまるんはカウンターを乗り越えていた。次の瞬間には姿も消えていた。

 よくスカートであんなに機敏に動けるよなって、あたしは素直に感心した。ロング・スカートであそこまで素早く動ける自信は、あたしにはない。本人には言わないけど。

 さて、おまるんが帰ってくるまでにここの連中に手錠を打って、制服に見張らせとかなきゃな。

 

 

 

 

 

「よう、お待たせ」

 

 ダルビー巡査とフーバー巡査が最後の二人を店外に引っ立てて行くのを眺めていると、背後からおまるんが声をかけてきた。

 

「大して待ってないよ」

「だろうな。そこの裏の駐車場で捕まえられたわ」

「その足の速さでよく逃げようと思ったね」

 

 おまるんが引っ立ててきたヒスパニックの店員に目をやると、怯えきったような低い態度で喋りだした。

 

「何でも協力しますよ、お嬢さん。ただ......」

「ただ、何?」

「ただ、俺には養わにゃならん家族がメキシコにいるんでさ。それに俺のその、"知り合い"たちは理不尽なんです」

「知り合いねえ」

「ああ獅白、これ。さっき没収したんだけど」

 

 おまるんがそう言って投げてよこしたのは、

 

「......ドル銀貨(シルバー・ダラー)か。刻印は"KAY"」

「ねえ、お嬢さん。取引してもらわねえと」

「身分証はある?」

 

 店員はポケットからカードを取り出した。外国人登録者証票(エイリアン・カード)だ。

 

「名前はエルト・サンチェス。メキシコ人。あっちの住所は......ティフアナか」

 

 そして滞在許可の期限は去年切れている。

 あたしがカードを返すと、後ろから覗き込んでいたおまるんがサンチェスに言った。

 

「んじゃ、こうしようかサンチェス。あんたはポルカたちに情報(インフォメーション)を寄越す。そしたらポルカたちはあんたを入管(イミグレーション)に渡さない。これでいい?」

「ええ、まあ......」

「じゃあ、まず"E.J."のことを訊こうか」

 

 渋々ながら答えたサンチェスに、あたしは尋問を始めた。

 

 

 

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