H.L. Noire   作:Marshal. K

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Reefer Madness #7 ~Interval~

 

 

「"E.J."、知ってるんでしょ? 密売に関わってるヤツで」

「俺は店を切り盛りしてるだけですぜ、姐さん。それだけでさ」

「じゃあ、あのドル銀貨(シルバー・ダラー)はなんだよ?」

 

 初っ端からすっとぼけにかかったサンチェスに、あたしは食って掛かった。

 

「アーネストのボスがこれを配って回ってんのは知ってるんだよ。しらを切るんなら、もっと上手くやりな」

「その......その銀貨はボスの"手形"なんでさ」

「そのボスってのは?」

「知りません、ほんとでさ。俺たちゃボスには会えんのです。ゴロツキどもが伝令に来るばっかりで」

「それで、名前は?」

 

 獅白がずいっと一歩踏み出して迫った。サンチェスは三歩も後ずさりして、リンゴが盛られた陳列台にお尻をぶつけてから答えた。

 

「......言えません。言っちまったら、俺は家内や子供たち諸共殺されちまいます」

「じゃあ、他になにか、何でもいいから寄越すんだよ!」

 

 あたしはサンチェスのところに歩み寄ると、陳列台の脚を思いっきり蹴り上げてそう言った。リンゴがいくつか、陳列台からころころ転がり落ちた。

 

「じゃないと、ポルカがあんたを州立刑務所(サン・クエンティン)に放り込んでやる。かわいそうに、あんたの家族はティフアナの路地で野垂れ死ぬことになっちまうなあ?」

「......アーネスト・フアレスです、"E.J."ってのは。今夜10時に、スープ工場に運び込みがあるはずです。ねえ、助けてくださいよお巡りさん、あいつは冷酷なやつなんでさ」

「助けてやるって、しっかり質問に答えてくれればな」

「そういうわけ。じゃあ次ね、そのスープ工場について、知ってることを話して?」

「スープ工場からは隔日の朝七時半に配達を受けるんです。手配は全部ホヘがしてるって話でさ」

「そのホヘだけど」

 

 かわいそうに、すっかり怯えきって口が軽くなったサンチェスに、獅白はいまや覆いかぶさらんばかりになって質問を続けている。

 サンチェスの方が獅白より2、3インチ背が高いはずなんだけど、陳列台に尻をついたサンチェスは完全に獅白に見下ろされる位置になっていた。上からあの捕食者の目でにらまれるのは、あたしも勘弁してほしいところだ。

 

「あんたはどうやってクルーズ兄弟と知り合ったの?」

「......これは全部、アーネストが始めたことなんでさ。アーネストがフアンを引き込んで、フアンがホヘを引き込んだんです。俺はその頃にはもうここで働いてたんですが、アーネストが俺が不法滞在だってことに気づいて、で脅してきたんです。協力しないと通報するって」

「それで?」

「それで、ここで売人共にハッパ入りの缶詰を売ってたんでさ。それに、払いも良かったし。アメリカ人(グリンゴ)大麻煙草(リーファー)が好きですから」

「なるほどね......ありがとね、サンチェス。じゃ、あんたを逮捕するから」

「ちょっと!?」

「黙って。地方検事(DA)には話を通しとくから。あんたの財産の没収とか退去強制とか、そういう処分がないようにお願いはしとくけど、決めるのは検事だからね。おまるん?」

「任せろ」

 

 サンチェスを陳列台から立たせると、両手を後ろに回して手錠をかけた。

 

「それじゃ、事が片付くまで留置場でゆっくりしてってくれ」

 

 

 

 

 

 護送車(Bワゴン)で運んだサンチェスを含む売人共の取調べを保安巡査に任せて――獅白が保安係のラミィといちゃこらして――、サンチェスに関する捜査報告書と地方検事(DA)宛の意見書を書いてと、ここまでの書類仕事を片付けたころには日もとっぷりと暮れていた。

 

 今、獅白のキャデラックはバイン通りを挟んでスープ工場の搬出入口が見える裏路地に駐まっていた。黒い車体が見事に夜の中に溶け込んでいて、さっき試しに向かいの歩道を通ってみた時も一瞬どこに駐まってるのかわかんなかったほどだ。そこにいるって知らなければ、見つけられっこない。

 

「フレディは週に50ポンドって言ってたよな」

「そうだね。あの納屋の帳簿を見る限り、間違いなさそうだ」

「でもさ、50ポンドつったらお前......50ポンドだぞ」

 

 上手い喩えが見つからなくて、あたしは空中でろくろを回すような仕草をした。

 

「一缶あたり半ポンドとしても、百缶はいるわけだろ? それって......」

「おまるんが言いたいことはわかるよ」

 

 獅白がさっと手を振って、あたしを遮った。

 

「ロスにはそれほどの量の大麻は出回ってない。だから、これはたぶん州間取引の方だよ。地元行きのは今まで通り、地回りのチンピラ経由で売ってるんじゃないかな......来たよ」

 

 獅白もあたしも、話しながらも搬出入口から目を離してはいなかったから、言われる前からそれはわかっていた。

 インターナショナルD型のトラックが一台、スープ工場の駐車場を突き進んで搬出入口に向かっていく。シャッターが引き上げられて中に入ると、トラックの運転台から二人の男が降りてくるのが見えた。

 

「先にブツを下ろさせるか?」

「そうしようか」

 

 男たちは荷台のドアを開けると、手分けしてダンボール箱を次々と下ろし始めた。荷台の中身が半分ほどになったところで獅白が言った。

 

「じゃ、手入れと行こうか」

「おっし」

 

 あたしはトグル・スイッチを弾いて赤色投光器(スポットライト)を点灯させる。獅白の方はダッシュ・ボードのノブ・スイッチを引いたり押したりして、前照灯(ヘッド・ライト)を点滅させた。

 それを合図に、捜査用車の背後でいくつもの自動車がエンジンをかける音がした。夜の静寂を野太いサイレンが切り裂いて、裏路地からパトカーが続々と飛び出した。フォードのパトカー三台、護送車(Bワゴン)一台。

 工場の男たちが慌てて搬出入口のシャッターを下ろすのが見えた。一方パトカーの内の一台がパーネルズ・スープ会社の正門前の交通封鎖にかかって、他の二台と護送車(Bワゴン)が敷地内に駆け込んでいく。

 

「じゃ、あたしたちもいくよ」

 

 獅白がそう言って始動(イグニッション)キーを捻る。キャデラックは、まるで主人の獰猛さがうつったみたいにあたしの足の下で身震いした。

 

 

 

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