H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Quarter Moon Murders #4

 

 

 ロサンゼルス郡公文書館(ホール・オブ・レコード)は、官庁街(シビックセンター)にあるビクトリアン・コロニアル様式の郡役所庁舎*1の、1階から3階に入居している。ミオと正面玄関をくぐって通路を進むと、中央の大きなホールに出た。

 

「うわあ......確かに草花のステンドグラスだあ」

 

 ミオがホールの天窓にはめ込まれた、巨大なステンドグラスを見上げて呟いた。3階まで吹き抜けの大理石のホールは、ステンドグラスを通して射し込む緑の陽光と、その下に吊られた荘厳なシャンデリアの灯りとで明るく照らされいる。

 

「よし、じゃあ手分けしよう」

「わかった。じゃあウチが上から行くね」

「このホールにある可能性が一番高いから事務室とかは一旦無視して、廊下とか回廊とかを念入りにお願い」

「りょーかい」

 

 ミオが階段の方に駆けて行くのをちょっと見守ってから、私も北側に延びる廊下の方に歩を向けた。

 

 

 

 

 

「......で、何か収穫あった?」

「白上の方は全然......」

「こっちもなんにもなし」

 

 三十分にわたる入念な捜索の結果、ホール、回廊、廊下には何もない、と結論せざるを得なかった。観葉植物の葉っぱまで分けて探したのに......

 

「どうする? 今度はウチが下から見て回ろうか?」

「そうする? でもくまなく調べたと思うんだけどなあ」

「じゃ、フブキはシャンデリアの上からね」

「なんで!?」

 

 まあ確かに、壮麗なシャンデリアの上はさすがにミオも調べてないだろうけど。

 

「......ねえ、ミオ」

「なに、フブキ」

「あそこさ、張り出しがあるじゃん」

 

 私は天井に近い壁を指した。シャンデリアは壁から延びる三本の鋼製ロープで、揺れないように固定されているんだけど、そのうちの一本は壁から大きく張り出した足場ようなところに固定されている。

 しかもその張り出しには人が乗ることが想定されてるのか、手すりまで着いてるんだ。

 

「......気が付かなかったな」

 

 ミオが声のトーンを落として言った。

 

「しょうがないよ。白上も、ミオがシャンデリアの冗談を言うまで見つけられなかったし」

 

 そう言って、私はホールの奥にある案内デスクに向かった。警察官(バッジ)をかざして、黄褐色(カーキ)の制服姿の守衛に声をかける。

 

ロス市警(LAPD)です。あそこの、シャンデリアの横の足場ってどこから登れますか?」

「足場?......ああ」

 

 守衛は天井の方を見上げてから、ちょっと考えて答えた。

 

「303号室から梯子で上がれます。ただ、303は施錠されてますよ」

「鍵は持ってますか?」

「ええ」

「じゃ、案内してください」

「ちょっと待ってくださいよ」

 

 守衛は電話を取ると内線番号を廻した。

 

「......やあディック。悪いんだけど、デスク番をちょっと変わってくれないか......いや違うよ、お客さんを案内しなきゃいけなくて......わかった、ありがとさん」

 

 守衛は受話器を置くと、デスクから出て来ながら言った。

 

「こちらです」

「どうも」

 

 

 

 

 

「あれ、おかしいな」

 

 "303 施設課"と書かれたドアに鍵を挿し込んで、守衛が呟いた。

 

「どうしたんですか」

「いえね、誰かが鍵をかけ忘れたみたいです」

「誰かいるんじゃないですか?」

「いえ、それはないと思います」

 

 ミオの質問に守衛が、ドアを開けて電灯のスイッチを手探りしながら返した。

 

「ここは掃除用具と安全器(ヒューズ・ボックス)くらいしかないんですから......ほらね」

 

 カチリと電灯が点くと、真っ暗だった部屋がちょっと薄暗い灯りに照らされた。確かに、誰もいない。

 室内には掃除用具が乱雑に置かれ、壁の一面はものすごい数のヒューズで埋められていた。

 守衛は回廊側の壁にある梯子の方を指して言った。

 

「あそこから登れます。上のドアには鍵がないんで、好きに入ってください」

「ありがとうございます。下に戻るんですか?」

 

 私は踵を返した守衛に訊いた。

 

「ええ。出るときに声をかけてくれれば、私が後で施錠しに来ますんで」

「わかりました。ご苦労様です......じゃ、ミオ。登ってみようか。よいしょっと」

 

 そう言うなり私は埃っぽい梯子に飛びついた。

 303号室は天井が高めになっていて、上の方の壁には窪んでいる部分があった。そこに這い上がって行くと、後からカンカン音を立てて登ってくるミオに手を貸す。

 

「んしょっと。ありがと、フブキ」

「どういたしまして」

 

 ミオを引っ張り上げると、私は外の足場に続くドアを押し開けた。

 

「......まさか冗談の通りだったとはね」

「へ?」

 

 足場に出て手すりに身体を寄せると、ミオも足場の方に出てきた。

 

「......冗談でしょ」

「なら、どれほどよかったかな」

 

 シャンデリアの上に畳まれた便箋と、なにか金色のものが置かれているのが、ここからならよく見えた。

 

「下に戻ろう。施設課の事務室を訊いて、シャンデリアを下におろせないか頼んでみよっか」

「シャンデリアって下ろせるのかなあ?」

 

 ミオの素朴な疑問に、私はちょっと肩をすくめて返した。

 

「電球が切れた時、施設課の人たちがどうやって交換してると思う? まさかこのロープを綱渡りしたりはしないと思うよ」

 

 

 

 

 

 結論から言うと、シャンデリアは下ろせた。

 でも安全規則ではシャンデリアを下ろすときにホールを封鎖しないといけなくて、その許可をもらうのに庁内――上階の郡役所を含む――を奔走させられたんだ。一時間近くかけて、ようやく郡出納長室からの許可を取り付けてシャンデリアを下ろしてもらった。

 

「お探しの物はこれですか、お二人さん」

 

 脚立でシャンデリアの上を調べていた施設課の職員さんが、うんざりしたような声でそう言いながら、東向きの廊下に避難させられている私たちの方にやってきた。その手には便箋と、腕時計。

 

「それです。どうも」

 

 職員さんから便箋を受け取る。腕時計はミオが受け取った。

 

「......レディ・エルジンだ」

「エルジン......ディアドラ・モラーか」

 

 じゃああの事件はイーライはもとより、旦那さんの犯行ですらなかったってことか。

 

「わかっちゃいたことだけど、こたえるなあ......」

 

 ミオが小さく呟くのを聞きながら、便箋を開く。

 

 

――人の目にして耳なる寺院の高み、

  彫刻と詩歌の住む処より;

  零るる春の細流(せせらき)

  科学がその蝋の翼を()む処より――

 

 

「......これは一か所しか思いつかないなあ」

「どこ?」

 

 私は首を振ると、廊下の方に手を振って言った。

 

「行こうミオ。たぶん、見てもらったほうが早いと思う」

 

 

 

*1
取り壊されたため、現存していない

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