H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Quarter Moon Murders #6

 

 

 ウェストレイク・タールピットはその名の通り、ウェストレイク地区の外れ、サン・マリノ通り沿いに位置している。

 捜査用車から降りて辺りを見回して、ミオが言った。

 

「......誰もいないね」

 

 昼過ぎのタールピットにはパーシング公園と違って、お客さんは誰もいなかった。発掘調査をしてる人とかがいるかなって思ってたけど、予想に反して人っ子一人いない。

 

「でも、ウチたちにとっては好都合だよね。先にモノを見つけられて、持って帰られたりってのはないわけだし」

「それはそう」

 

 砂利道を辿ってタール池に着くと、草木に囲まれた池の縁を眺めながら言う。

 

「どうする、ミオ。また二手に分かれて池の周りを見て回るかい?」

「うーん......それもいいけど、先にあっちの小島を見てからにしない?」

「......わかってんねえ」

 

 私はにやっと笑ってミオに言った。

 池の中ほどに小島がある。今までのアレコレを考えると、池の縁なんて楽なところに置いててくれる可能性は低そうだった。

 

「でも、ウチたちまでああなるわけにはいかないでしょ?」

 

 ミオがそう言って指したのは、タールに嵌まってもがき苦しむ動物たち、を模した模型だ。便箋の詩にあった"醜悪な作品"って言うのは、これのことかもしれない。

 

「そりゃもちろん。まずはボートを探そっか」

 

 

 

 

 

「ふんぬ......ぬぐう......」

「そーれ、頑張れ、頑張れみおーん」

「気が抜けちゃうからやめて......」

 

 コイントスの結果、行きはミオがボートを漕ぐことになった。木製の小さな手漕ぎボートは、まともにお手入れされてないみたいですっかり黒ずんでいたけど、とにかく穴が開いたりはしていない。ミオと二人でプチ・タイタニックの悲劇を起こしちゃう可能性は低そうだった。

 そんなわけで私は艇尾座(スターン・シート)――ささくれ立ってて、乗り心地は良くない――に座って、ミオと向かい合いながら進路を確認していた。

 

「あ、また右にずれたよ」

「そう言われても......」

 

 一人でボートを漕ぐ時の欠点はこれだ。漕ぎ手の利き腕と反対側に曲がっちゃいがち。

 

「このボート、舵櫂(スター・オール)がないんだから。全部ミオにかかっているぞ!」

「うぐう、このお......帰りに見てろよ......」

 

 

 

 

 

「あったよ、ミオ!」

 

 便箋から重しの石を外しながら、私はミオに向かって叫んだ。

 ミオは小島にたどり着くとその場でへたっちゃったから、ボートの番に残して私が一人で島内を捜索していた。と言っても、草むらの中とか木の上とかに隠してあったわけじゃなくて、島の反対側に石を重しにしてただ置かれていただけだった。

 そしてその脇には、白いオープン・トウの婦人靴が片方だけ転がっている。ミス・ヴィヴィアンの白い靴。テレサ・タラルドセン。

 

「さてと、次の場所はどこかな?......」

 

 

――そしてさらなる森の口より

  走り出づ、(かま)しく忙しき響とともに、

  (たま)は、他の幾千の珠の如く、

  水晶の如き堅さにして、なお木々を透きけり――

 

 

「......全然わかんない」

 

 全然わかんなかった。候補が一つも頭の中に浮かんでこない。

 珠? 宝石のことだろうか。宝石でぱっと思いつくのはロズリン・アンド・アレクサンドリア・ホテル*1だけど......

 

「違うって気しかしないなあ......」

「......珠かあ」

「あ、ミオ。もう大丈夫そう?」

 

 ミオがいつの間にか、背後に回って便箋を読んでいた。集中しすぎてて全然気づかなかった。

 

「うん。フブキその、寓意(アレゴリー)っていうのは細かい意味は無視して、大枠から連想すればいいんだよね?」

「まあ、そうだね。抽象的に言いかえて、それが概ね一致してれば」

「じゃあさ、あんまり自信はないんだけど......博物館に行ってみない?」

「博物館?」

 

 ロサンゼルス郡立歴史科学美術博物館は、サン・マリノ通りの一本上の9番街と、8番街の間のフーバー通り沿いにある。すぐそこだ。

 

「フブキ、あそこの迷路に行ったことはない?」

「ないね」

「ゴールのところにさ、でっかい地球儀みたいなのがあるんだよ」

「地球儀......ああ、そういう」

 

 (スフィア)地球(スフィア)を掛けてるのか。これは知らなきゃわからない。

 

「じゃあ、行ってみようか。すぐそこだしね」

「あんまり自信はないんだけどねえ......あ、フブキ、帰りはフブキが漕ぐ番ね」

「くそう、忘れてくれなかったか......」

「おめー、帰りもウチに漕がせる気だったんか!?」

 

 

 

*1
老舗宝石商が複数入居していたダウンタウンのホテル

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