ウェストレイク・タールピットはその名の通り、ウェストレイク地区の外れ、サン・マリノ通り沿いに位置している。
捜査用車から降りて辺りを見回して、ミオが言った。
「......誰もいないね」
昼過ぎのタールピットにはパーシング公園と違って、お客さんは誰もいなかった。発掘調査をしてる人とかがいるかなって思ってたけど、予想に反して人っ子一人いない。
「でも、ウチたちにとっては好都合だよね。先にモノを見つけられて、持って帰られたりってのはないわけだし」
「それはそう」
砂利道を辿ってタール池に着くと、草木に囲まれた池の縁を眺めながら言う。
「どうする、ミオ。また二手に分かれて池の周りを見て回るかい?」
「うーん......それもいいけど、先にあっちの小島を見てからにしない?」
「......わかってんねえ」
私はにやっと笑ってミオに言った。
池の中ほどに小島がある。今までのアレコレを考えると、池の縁なんて楽なところに置いててくれる可能性は低そうだった。
「でも、ウチたちまでああなるわけにはいかないでしょ?」
ミオがそう言って指したのは、タールに嵌まってもがき苦しむ動物たち、を模した模型だ。便箋の詩にあった"醜悪な作品"って言うのは、これのことかもしれない。
「そりゃもちろん。まずはボートを探そっか」
「ふんぬ......ぬぐう......」
「そーれ、頑張れ、頑張れみおーん」
「気が抜けちゃうからやめて......」
コイントスの結果、行きはミオがボートを漕ぐことになった。木製の小さな手漕ぎボートは、まともにお手入れされてないみたいですっかり黒ずんでいたけど、とにかく穴が開いたりはしていない。ミオと二人でプチ・タイタニックの悲劇を起こしちゃう可能性は低そうだった。
そんなわけで私は
「あ、また右にずれたよ」
「そう言われても......」
一人でボートを漕ぐ時の欠点はこれだ。漕ぎ手の利き腕と反対側に曲がっちゃいがち。
「このボート、
「うぐう、このお......帰りに見てろよ......」
「あったよ、ミオ!」
便箋から重しの石を外しながら、私はミオに向かって叫んだ。
ミオは小島にたどり着くとその場でへたっちゃったから、ボートの番に残して私が一人で島内を捜索していた。と言っても、草むらの中とか木の上とかに隠してあったわけじゃなくて、島の反対側に石を重しにしてただ置かれていただけだった。
そしてその脇には、白いオープン・トウの婦人靴が片方だけ転がっている。ミス・ヴィヴィアンの白い靴。テレサ・タラルドセン。
「さてと、次の場所はどこかな?......」
――そしてさらなる森の口より
走り出づ、
水晶の如き堅さにして、なお木々を透きけり――
「......全然わかんない」
全然わかんなかった。候補が一つも頭の中に浮かんでこない。
珠? 宝石のことだろうか。宝石でぱっと思いつくのはロズリン・アンド・アレクサンドリア・ホテル*1だけど......
「違うって気しかしないなあ......」
「......珠かあ」
「あ、ミオ。もう大丈夫そう?」
ミオがいつの間にか、背後に回って便箋を読んでいた。集中しすぎてて全然気づかなかった。
「うん。フブキその、
「まあ、そうだね。抽象的に言いかえて、それが概ね一致してれば」
「じゃあさ、あんまり自信はないんだけど......博物館に行ってみない?」
「博物館?」
ロサンゼルス郡立歴史科学美術博物館は、サン・マリノ通りの一本上の9番街と、8番街の間のフーバー通り沿いにある。すぐそこだ。
「フブキ、あそこの迷路に行ったことはない?」
「ないね」
「ゴールのところにさ、でっかい地球儀みたいなのがあるんだよ」
「地球儀......ああ、そういう」
「じゃあ、行ってみようか。すぐそこだしね」
「あんまり自信はないんだけどねえ......あ、フブキ、帰りはフブキが漕ぐ番ね」
「くそう、忘れてくれなかったか......」
「おめー、帰りもウチに漕がせる気だったんか!?」