H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Set Up #4 ~Interval~

 

 

「アリーブ・モーテル。ここだな」

 

 キャンディ・エドワーズの住所は、ファウンテン通り沿いに無数にあるモーテルの一つだった。

 おまるんが縁石のところ番地を見てから看板を読み上げるのを確認して、あたしは捜査用車を駐車場に入れた。管理棟に近いスロットに駐めるとキャディを降りて、おまるんと並んで受付(フロント)デスクに向かう。

 

「いらっしゃいませ」

 

 デスクの向こうから、いかにもイタリア系な受付嬢が声をかけてきた。モーテルは家族経営のことが多いから、これはオーナーの奥さんかな。

 

ロス市警(LAPD)です」

 

 おまるんが口火を切った。

 

「キャンディ・エドワーズさんを探してるんですけど、ここにお泊りですね?」

「7号室。外の階段を上がって、左すぐ」

 

 客ではないとみるや、奥さんの態度は面倒臭そうなものになった。

 

「どうも」

「あの、イタリア系の男の仲間?」

 

 ふと、好奇心の湧いたって顔つきで、奥さんが立ち上がって訊いてきた。

 

「奥さん、ポルカたちは日系ですよ」

「あら、そうなの」

 

 見た目が見た目なので、この手の見間違いはあたしたち二人にとっては日常的だった。こほんと咳払いをして、奥さんに質問を返す。

 

「イタリア系ですか?」

「ええ、チンピラみたいなヤツ。カルロって名乗ったわ」

 

 おまるんとちらっと目を見交わす。その眉間はしわくちゃになっていた。

 

「私はあのテの男は好みじゃないけど、キャンディは違うみたいね」

「どうも」

 

 お礼を言って管理棟を出るなり、おまるんが唸るように言った。

 

「先を越されたか」

「マネージャーだからね。あたしたちと違ってあの安宿を経由しなくても、最初からここのことを知っててもおかしくない......」

 

 階段を上がる途中で聞き覚えのある怒声が耳に飛び込んできて、あたしは黙り込んだ。おまるんもピクリと足を止める。

 

"いい加減吐け、このクソアマ! 俺もお前も一杯喰わされたんだ。だってのに、まだあいつを庇うのか!?"

 

 ドスン、バタンと尋常じゃない物音が響いてくる。

 

「やれやれ、たぶんこの後は殴り合いだぞ」

 

 おまるんはため息交じりに言うなり、階段の残りをぱっと飛んで上がった。7号室は廊下を曲がってすぐにドアがあった。

 

――パァン!

 

 おまるんが体当たりしてドアを蹴破るのと、小気味いい音とともにカルロがご婦人――たぶん、エドワーズさんだ――に平手打ちをくれるのは同時だった。

 

「女を殴るのが趣味なんか? アルクェロ!」

 

 おまるんが煽るようにそう言うと、カルロはパッと振り返ってファイティング・ポーズを執った。

 

「下がって、おまるん!」

 

 マネージャーとはいえ、相手はプロボクシングの関係者だ。おまるんを下がらせてその前に出ようとしたけど、それより先にアルクェロが大砲みたいな右を繰り出した。次の瞬間にはおまるんが吹っ飛ばされる、ってあたしの予想に反して、床にひっくり返ったのはアルクェロの方だった。

 おまるんはその右を――かなりギリギリで――避けると、その腕を背負って、踵でアルクェロの軸足をパンと払ったんだ。アルクェロはそのまま宙を舞って、下の部屋から苦情が来そうなほど大きな音を立てて床にたたきつけられた。

 あたしは素早く膝をついて、足元で大の字になったアルクェロのこめかみに一発叩き込んで制圧した。立ち上がって、手をはたいているおまるん向かって言う。

 

「やるじゃん、おまるん」

「いやあ、こう上手く決まるとはポルカも思ってなかったんだけどな。昔取ったなんとやら、ってやつ?」

 

 そう言いつつ、おまるんはベッドのわきに倒れているエドワーズさんのところに歩み寄って、様子を見だした。

 

「気絶してるな。でも、息はしてる。そのうち目を覚ますだろ」

「じゃ、あたしはこのろくでなしに捜検を施しとくよ」

 

 そう言って、あたしはぶん投げられたにしては安らかな顔で気を失っているアルクェロの背広をまさぐった。右の内ポケットから出てきた手帳をパラパラめくると、一番新しいページに名前が箇条書きされてるのが目に入った。

 

「ノミ屋の一覧かな......レイもハリーも、マーヴィンもいる」

 

 手帳をしまって反対側の内ポケットを漁ると、折り畳みナイフが出てきた。いや、

 

「飛び出しナイフだ」

 

 柄のボタンを押すとシャキンと音がして、4インチ程の刀身が飛び出してきた。

 

「イタリア系お馴染みのやつだな」

「これ出されてたら、おまるんまずかったんじゃない?」

「ああ。女だからって舐めてたのか知らねえけど、油断してくれて助かった」

 

 おまるんはエドワーズさんの襟元を緩めたついでに、ポケットも探りだしたみたいだ。おまるん、一応そっちは被害者だよ?

 

「おっと、切符が出てきたぞ......アクロン行きの長距離バス(グレイハウンド)だ」

「アクロンってオハイオ州の?」

「みたいだな。お一人様、片道切符だ」

 

 ハモンドの分は本人が持ってるんだろうか。だとしても電報の控えとは矛盾するし、ハモンドがオハイオなんて田舎に行きたがるとは思えない。いや、コーエンから逃げるには最適の場所かもしれないけど。

 

「うーん......」

「おっと、お目覚めだ」

 

 エドワーズさんが唸り声をあげるや、おまるんは切符を元のポケットにねじ込んで、エドワーズさんを助け起こしにかかった。

 

「大丈夫ですか、エドワーズさん」

「え、ええ。その......」

「ポルカたちは警察です。お聴きしたいことがいくつかありまして。座れます?」

 

 おまるんがエドワーズさんをベッドに腰かけさせてる間に、あたしはベッドサイドに置かれていたグラスを手に小さなバスルームに向かった。閉所恐怖症の人は発狂しそうな洗面所で水をくむと、部屋に戻って頬をさすっていたエドワーズさんに差し出した。

 

「どうぞ」

「どうも......ねえ、私は何も悪い事してないわよ」

「本当ですかね?」

 

 早くもデカい態度に出始めたおまるんが、開きっぱなしの衣裳鞄(スーツケース)を覗き込みながら言った。

 

「本当に何も悪い事をしてないなら、悪人に押し入られてぶん殴られることもなかったと思いますけど?」

 

 エドワーズさんはあたしの背後でぶっ倒れてるアルクェロの方にちらっと目をやったけど、おまるんの借問には無視を通した。

 

「何にしても、いくつか質問をさせてもらいますよ、エドワーズさん。ハモンドさんの安全のためですので」

 

 

 

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