H.L. Noire   作:Marshal. K

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Driver's Seat #5

 

「......わかりました」

 

 奥さんの目を長々と見つめてから私はそう言って、手帳を閉じた。

 

「なにか進展があり次第、逐一お知らせします」

「そうしてくださると助かりますわ、刑事さん」

 

 おいとまを告げてブラック夫妻の家を後にする。

 

 

「ブラック夫妻の結婚生活は幸せ絶頂ってわけじゃなさそうだねえ」

 

 ミオがビュイックのエンジンをかけながら言った端的な感想に、私も同意する。

 

「旦那さんは離婚沙汰になることを極端に怖がってるみたいだし、奥さんは旦那さんを放り出すにはちょっと......」

「小心すぎる?」

「それ」

「こんなことがなけりゃ、二人とも永遠に悲惨な生活を続けてただろうな」

 

 ビコウスキー刑事も同意した。

 

「でもなお二人さん、一番ありえなさそうなことが事実だったってことも、この仕事やってたらよくあるんだ。奥さんを被疑者リストから外すのは、まだ早いと思うぞ」

 

 それはそうだ、と思いつつミオに聞く。

 

「ところでミオ、どこに向かってるの?」

酒場(バー)。旦那さんの行きつけだと思う」

 

 

 

 

 

 キャヴァナーズ・バーは倉庫街(ウェアハウス・ディストリクト)の比較的いい立地に位置していた。ユニオン(ステーション)のすぐ南で、通りの角にあって、ネオン看板もついている。この辺りの勤め人たちを相手にそれなりに稼いでいるようだ。

 

「誰かお探しで?」

 

 店に入ると、バーテンダーがカウンターから声をかけてきた。鼻が利くのかこちらが客でないとすぐに解ったようだ。

 

「フランク・モーガンって人を知ってますか」

 

 ミオがバーテンに聞く。

 

「ああ、うちの常連だよ。今日も奥で、一人で呑んでる」

 

 店の奥のテーブル席には何組かお客がいたけど、一人で呑んでいるのはうちの一人だけだった。

 ミオがそのツナギの男の向かいに座る。

 

「フランク・モーガンさん?」

「そういうあんたは?」

「ミオ・オオカミ」

 

 テーブルの上に警察官(バッジ)を置いて続ける。

 

ロス市警(LAPD)。あなたはエイドリアン・ブラックさんの友人ですね?」

「そうだけど」

「彼が失踪したことをご存知ですか?」

「いや、知らなかったね」

 

 ゆっくり言いながら私とビコウスキー刑事の方を見回し、ミオに視線を戻して付け加える。

 

「残念だったね」

「ブラックさんの自動車が放置されているのを発見しました。血塗れで。モーガンさん、それについて何かご存知ですか」

 

 ミオがモーガンの目をまっすぐに覗き込みながら聞く。

 

「なにも知らない。なあ、このことは残念に思うよ。俺は、その、エイドリアンのことは好きなんだ。ほら、彼はその、いい上司でさ......」

「頼むから、こんな戯言を真に受けないでくれよ、お二人さん」

 

 ビコウスキー刑事がうんざりしたように口をはさんだ。

 

「いいえモーガンさん、あなたはその場にいたんです」

 

 ミオが目を逸らさずに言う。

 

「知ってることを話された方がいいですよ」

「適当なことを言うんじゃないぜ、"刑事さん"」

 

 最後の部分を皮肉っぽく付け加えて、

 

「俺が貨物駅にいたって証拠でもあるのかい?」

「貨物駅で自動車を見つけたとは言ってないですよね?」

 

 虚を突かれた感じのモーガンに、私はハンドバッグから屠畜場の領収書を取り出して見せる。

 

「自動車のトランクで見つけました。あなた名義の領収書です。屠畜場に電話して、あなたの顔を確認してもいいんですよ」

「わかった、わかったよ」

 

 モーガンが手を振り回して言った。

 

「これはバカなエイドリアンのお芝居なんだよ。シアトルの誰かさんと駆け落ちしたいんだってさ。それで、自分が襲われたように装ってほしいって頼まれたんだ」

 

 手帳の図表に書き込みを終えてから、ミオが質問を再開する。

 

「じゃあ、ブラックさんは今どこにいるんですか」

「知らんね。もうシアトルに発ったあとなんじゃないかな」

「うんざりですね、モーガンさん」

 

 貧乏ゆすりが一段と激しくなったモーガンに対して、ミオが大げさに溜め息を吐いて返す。

 

「ここでウチと話すのがお嫌ならそこの裏路地に行きましょうか。ビコウスキー刑事が"じっくり"お聴きしますよ」

 

 ビコウスキー刑事が指を鳴らしながら睨みつける。実のところ、私たちも獣人なので腕っぷしという点ではビコウスキー刑事と大差はないんだけど、見た目の圧迫感は背広姿の刑事の方が断然強い。

 

「あ、あいつはうちにいるよ」

 

 ビコウスキー刑事にポンポンと肩を叩かれたモーガンがどもりどもり答える。

 

「この街を出ていく前に何がしかの金が入ってくるらしくて、それを待ってるんだ」

「住所は?」

「フィグエロアとテンプルの角にあるアパートメントだよ。2号室だ」

 

 ミオが住所をメモしてからお礼を言う。

 

「ご協力感謝します、モーガンさん」

「なあ、力になれてうれしいよ、俺は、その、お巡りは好きなんだ」

「そうですか」

 

 私はモーガンの後ろに回ると、両脇に手を入れて無理矢理立たせた。

 

「でしたら私たちの署にご案内します、と言ったらとても喜んでもらえそうですね」

 

 小娘に引っ張り上げられてポカンとしているモーガンの両手を後ろに回して手錠をかける。

 

「フランク・モーガン、詐欺と共同謀議で逮捕します」

 

 

 

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