H.L. Noire   作:Marshal. K

141 / 250
The Set Up #7 ~Interval~

 

 

 あたしはキャンディ・エドワーズの後を尾けて、ガワー通りを南下していた。キャンディは黄色いドレスに赤い衣裳鞄(スーツ・ケース)っていう、オムレツみたいな目立つ格好をしてくれてたから、通勤者たちで混雑したガワー通りでもポルカが見失うおそれは低かった。

 

「フリだけでいいよ」

 

 あたしは街路沿いの靴磨き台に飛び乗ると、黒人の靴磨き少年に警察官(バッジ)を見せてそう言った。

 キャンディは尾行を警戒してるらしく、度々立ち止まっては後ろを振り返っていた。そのたびにあたしはウィンドウ・ショッピングをしてる一団に紛れ込んだり、ベンチで新聞を読んでるふりをしたりと欺瞞に奔走させられた。で、今回はたまたま目に着いた靴磨き台に飛び乗ったわけ。

 少年は素直に道具を出して、あたしのブーツを磨いてるふりをし始めた。

 キャンディはしばらくこっちや通りの反対側に目をやっていたけど、やがてまた前を向いて、交差点をレキシントン通りの方に折れて行った。

 

「さんきゅ。普段はいくらとってるの?」

「25セントです、お巡りさん」

「じゃ、これ」

 

 ポケットを引っかき回して25セント銀貨(クオーター・ダラー)を二枚つかみ取ると、少年に手渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

 少年のお礼を背中で聞きながら、あたしはレキシントン通りとの角に小走りで向かった。

 建物の陰から窺うと、キャンディは途中で通りを横断しているところだった。行きかう自動車から邪魔そうに警笛(ホーン)を鳴らされている。渡り切ったキャンディは、そのまま南側の路地に姿を消した。

 あたしも自動車の間を見計らって通りを渡って、キャンディの入った路地に着いて行く。

 こういう裏路地は通行人も少ないから、尾行者を捕まえて逆問したり、叩きのめしたりするのによく使われるって聞いたことがあった。だからあたしはかなり気をつけて、距離を取りながらキャンディの後を追った。背が低いといっても、紛れ込む通行人がいないんじゃ話にならない。

 幸いにもキャンディはそういった動きには出ず、路地を抜けてサンタ・モニカ大通り(ブールバード)へと出て行った。

 建物の陰から様子を窺うと、キャンディは通り沿いの店に入って姿を消した。ちょうどそのタイミングで、あたしの真横の路肩に黒いキャデラックが停まった。

 素早く歩道を横切って、助手席に滑り込む。

 

「エドワーズさんは?」

「そこの店に入ったよ。三軒目だ」

「KGPLから5K44。5キング44、どうぞ(カム・イン)

 

 一瞬、あたしと獅白はどっちが無線を取るかで見合った。けど、結局あたしが折れて取ることにした。

 どうせKGPLには声でわかったりしないだろうし。

 

「5キング44です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「5K44、知能犯課(バンコ・フラウド)から伝言です。先に照会の、ハリウッド地区で店頭営業しているノミ屋(ブック・メーカー)の件で、当該試合を扱っていたのは。スリフティー酒屋(リキュール)、サンタ・モニカ大通り(ブールバード)6106番地。イグザミナー薬局(ドラッグ・ストア)、アイバー通り1487番地、マックス酒場(スピリッツ)、チェロキー通り1658番地。以上三件。伝言は以上」

「5K44了解」

「スリフティー酒屋(リキュール)、だね」

 

 あたしが送話器を戻す間に、獅白が風防(ウィンド・シールド)ガラス越しに、キャンディが入って行った店を見ながら言った。

 

「だな。払い戻しで間違いなさそうだ」

 

 キャンディが出てくるのを待つ間、あたしはじっくりと酒屋を観察した。

 看板も店構えもボロボロで、飾り窓(ショウ・シンドウ)には目隠しがされ、ドアの窓にも日除け(シェード)が下りていて、どう見ても潰れた酒屋だ。表だけ見て営業中だと思うやつはまずいないだろう。

 

「......長すぎない?」

 

 しばらくして、獅白がぼそりとそう言った。

 

「......確かに、高額当籤とはいえ、払い戻しにしちゃ長くかかりすぎか?」

「行くよ、おまるん」

 

 あたしが返すと、獅白はドアを押し開けながら言った。

 

「これ以上待ってても埒が明かなそうだ」

 

 

 

 

 

ロス市警(LAPD)です、さっき入った金髪のご婦人は......」

「ああ、裏から出てきましたよ」

 

 店のドアを開けて、入ってすぐのカウンターにいる男にそう訊くと、相手は脇にあるドアを指してそう答えた。

 薄暗い店内には電信競馬用らしい何台もの電話機や、投票券を打つためのタイプライターが並べられて、何人かの男たちが仕事をしていた。男のいるカウンターには銀行や質屋でよく見る、真鍮の頑丈そうな格子があって、どう見てもまともな酒屋じゃないのが明白だった。

 

「監視されてるとか、何とか言ってましたね」

「バレてんじゃん、おまるん」

「そんなあ......」

 

 獅白が揶揄うようにそう言って――結構ショックだったところに追討ちをかけられた――、ノミ屋に向かい合って訊いた。

 

「で、いくら取られたの?」

「3600ドルです。おかげですっからかんですよ」

「ハモンドとガラハドの試合?」

「ええそうです。文句を言うわけじゃありませんがね――なんせ大金が動いてたわけですから――、みんながガラハドに突っ込んだところで、ハモンドがそいつら全員、ガラハドごとぶちのめしちまった格好ですな」

「で? 彼女は金を受け取って、すぐ出て行っちゃったのか?」

 

 あたしは獅白の横から、カウンターをこつこつ叩きながら訊いた。

 

「いえ、そこの公衆電話で一本電話をかけてましたよ。何かメモを取って、それから出てきました」

「メモね......どうも」

 

 獅白は何か意味深に呟くと、電話台の方に歩み寄って行った。備え付けの鉛筆を取り上げると、それでメモ帳を擦りだした。

 

「何やってんだ、お前」

「古典的な探偵テクニックだよ......ほら」

「なるほど、筆圧か」

 

 メモ帳には、上の用紙にキャンディが書いたらしい文字が白抜きで浮かび上がっていた。

 

 

――イグザミナー薬局(ドラッグ・ストア)

  ハリウッド、アイバー通り1487番地――

 

 

「じゃ、これで次の目的地は決定だな」

「次の次も、自動的に決まったようなもんだね」

「二択だったからな」

 

 

 

 

 

「ハモンドが八百長を反故にして勝つ」

 

 獅白が捜査用車をバイン通りの方に向けて出すと、あたしはぼそりとそう言った。それに獅白が返してくる。

 

「で、エドワーズさんが勝ち金を集める。なかなか悪くない手口だね」

「でも、ここで疑問が一つ」

 

 キャデラックはバイン通りに曲がった。正面の山の山腹に、"HOLLYWOOD LAND"の看板が見えている。

 

「キャンディは本当にハモンドの代わりに金を集めているのか? そのままトンズラするつもりじゃねえのか?」

「その可能性は、大いにあるね」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。