H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Black Ceaser #3

 

 

「さてと、フリートウッド。向かいのアパートメントで君の常連さんが死んだよ。彼らについて話を聴きたいんだけど、協力してれるよね?」

 

 ぼたんちゃんが売店の中に入って行くのを見届けてから、私はモーガンの方に向き直って訊いた。モーガンは落ち着かない様子で、売店の方にちらちら視線を飛ばし続けている。

 

「も、勿論でさ、お嬢さん(シスター)

刑事(ディテクディブ)

「ええ、その、お嬢......刑事さん」

「よろしい。コーネル・タイリーとタイロン・ラモントにモルヒネを売ってたのは、君だね?」

「いえ、俺は......俺はハンバーグを焼いて、それをその、ピクルスと一緒に売ってるだけでさ」

 

 モーガンはどもりどもり答えた。ぼたんちゃんが店頭で何をしたにしても、その場に居合わせなかった私なら誤魔化せる、って踏んだらしい。

 

「そうだね。ハンバーガーを作って、それからポップコーンのカップの裏にモルヒネの箱を貼り付けてるんでしょ?」

 

 モーガンの顔がわかりやすく情けないものになった。

 

「嘘はここまでだよ、フリートウッド。ここから先は、嘘はなし。誰から仕入れてるの?」

「......アームストロング・エドワーズって名前のヤツでさ。日に一回くらい、ブツを持ってくるんで」

「なるほど......彼は普段どこに――」

「アームストロングなら知ってますよ」

 

 売店からぼたんちゃんが戻ってきた。片手にポップコーン、もう片方の手にフライドチキン・サンドイッチを持っている。

 

「これ、フブキ先輩のポップコーンとチキンです」

「あ、ありがと」

 

 両手に料理を抱えるような恰好になっちゃった。おたおたしていると、ぼたんちゃんはモーガンの方を向いて言った。

 

「あいつは卸しの下請けだよね。あたしたちの手間を省くために、元請けの卸問屋を教えてくれるよね、フリートウッド?」

「......ジャメイン・ジョーンズ」

「あんたの所属事務所の社長さん、だね?」

「さいです」

「なるほど......んじゃ次」

 

 私はとりあえず、聴取の続きをぼたんちゃんに任せて、手の中のチキンサンドをお腹にしまうことにした。朝ごはんはしっかり食べてきたんだけど、売店の前でハンバーグが焼ける匂いを嗅いでたら小腹が空いちゃったんだ。

 

「番号籤とモルヒネは、何か関係あるのかな?」

「その籤は、白人の旦那方がやってるやつですぜ。俺は何の関係もありませんや」

「フリートウッド、あたしさっき気づいちゃったんだけど、投票券に事務所の住所が書いてあるんだよね」

 

 ぼたんちゃんはゆったりとモーガンの後ろに回ると、自分の顎くらいの高さにあるモーガンの肩をぽんぽん叩きながら続けた。

 

「今すぐそこに行って、"警察との取引で、フリートウッド君がここを教えてくれました"って言ってもいいんだよ?」

「ちょちょちょちょちょっと待ってくだせえ、姐さん! 協力しますから! それだけはやめてくださいよ!」

「姐さんじゃなくて、刑事ね。それより名前を教えなよ。そしたら民主党の穏健派の、懐のふかーい判事さん*1に当たるように調整してあげるよ」

「マーロン。下の名前は知りやせん。いっつも帽子をかぶって杖を持ってめかし込んでる、洒落者気取りでさ」

「......ま、こんなところかな。フブキ先輩、ちょっとこいつ見てて下さい。あたしはひとっ走り向かいに戻って、ウォリス巡査を呼んできます」

「おっけー」

 

 ちょっと揚げすぎ気味のチキンをぱくつきながら答えると、ぼたんちゃんは駆け足でアイバー通りの方に去って行った。

 モーガンがその後ろ姿から目を離して、私の方に向かって訊いた。

 

「その、助けてくれるんですよね? お嬢、じゃない刑事さん」

「......そりゃ勿論」

 

 私は口の中のチキンを飲み込んでから答えた。

 

「ちゃんと協力してくれたからね。白上たちはいつだって、お礼はしっかりするんだよ。あ、ウォリス巡査」

 

 ぼたんちゃんと一緒にやってきたウォリス巡査に、手招きして言った。

 

「この人をハリウッド署に。署で一番快適な監房をあてがったげてね」

了解です(イエス・マーム)、刑事」

 

 モーガンを後ろから押すような形で連れて行くウォリス巡査に、ぼたんちゃんも後ろから声をかけた。

 

「角の監房が空いてたはずだよ。窓があって、水洗便器のあるやつ。寝具も新しいのに替えてあげなよ」

 

 

 

 

 

「交換台です。お困りですか?」

「警察です。記録課(R&I)に繋いでください」

「少々お待ちください」

 

 ぼたんちゃんがアパートメントから捜査用車を取ってくるまでの間に、私は公衆電話でジャメイン・ジョーンズの事務所の住所を調べていた。

 電話ボックスはちょうど売店の横に張り付くように設置されていて、売店の看板の横にベル電話会社の看板も出ていたんだ。

 

「R&Iです。名前と識別番号(バッジ・ナンバー)を」

「白上、識別番号(バッジ・ナンバー)1005V(ヴィクター)

「用件をどうぞ」

「住所照会を願います。ジャメイン・ジョーンズ音楽事務所です」

「少々お待ちください......ジャメイン・ジョーンズ。事業所の登録住所はサンタ・モニカ大通り(ブールバード)5528番地です」

「ありがとうございます」

 

 受話器を置いて、10セント玉(ダイム)を回収して、通りの向こうに停まった黒いキャデラックに向かった。

 助手席に滑り込むと、ハンドルを握るぼたんちゃんが訊いてきた。

 

「例の芸能事務所はどこでした?」

「サンタ・モニカ大通り(ブールバード)だって」

「ふーん......じゃあ、籤屋さんの方が近いわけですね」

「んにゃ、先に芸能事務所の方に行こう。モルヒネはそっちから流れてきてるみたいだし。ところでぼたんちゃん」

「何ですか?」

 

 交通の流れを読みながら捜査用車を出そうとしていたぼたんちゃんが、ちらっとこっちに視線を投げて言った。

 

「その、自分の自動車を捜査用車にするのって、どうやればいいの?」

 

 ぼたんちゃんはにやっと笑って、ハンドルを人差し指でこつこつ叩きながら答えてくれた。

 

「まず、その自動車を買った代理店か、行きつけの修理屋さんに頼んでサイレン・アンプと赤色投光器(スポットライト)を着けてもらいます。バッジを見せればやってくれますよ。そのあと本部の車両課に行って申請を出して、登録を受けるだけです。風紀課なら最優先でやってくれますよ」

「ちなみになんだけどその、修理代とかは?」

「公務中の損傷なら経費で落ちます。上限付きですけど」

「なるほど......」

 

 私はその話をメモに取っていた。見習い期間が終わったらミオと一緒にされるだろうから、その時に私のクライスラーが使えたら便利だろうな。

 

 

 

*1
アメリカの各州では裁判官も選挙で選出される。このためその裁判官の判決の傾向には、彼らの属する党派性が反映される傾向にある

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