「こりゃすごいな......」
私はラジオの中に隠されていたものをまじまじと見て、改めてそう呟いた。隙間という隙間にモルヒネシレットの箱がぎっしり詰め込まれている。
しかも中身はそれだけじゃなかった。まずは50ドル札の札束。
「
どう考えてもこんな場末の音楽事務所所属の音楽家が、ピンの50ドル札で支払いを要求するとは思えない。それに、こっちの袋。
「これはたぶん大麻、だよね......1ポンドはあるな」
充分重罪所有の範囲だ。とはいえ、これの販路はモルヒネとは別だろうけど。他にはオッティーズの番号籤投票券もあった。
一歩引いて、ラジオ全体を見回す。
「これ自体はどう見ても、普通の骨董ラジオだよなあ......お?」
天板に貼られた緑色のシールが目を引いた。
「ラメズ
オフィスを横切って、デスクのところに戻った。
ぼたんちゃんはいつのまにか葉巻を吹かしていた。どうやら、ジョーンズの灰皿から掠めたらしい。
「俺は、自分の分け前を貰ってるだけだ。取り仕切ってるのは、レニー・Fだよ」
レニーって誰だろう?
「レニー・フィンケルシュタインだね? ミッキーの義理の兄の」
「ああ、そうだ」
ちょっと遅れて、いまのぼたんちゃんの補足質問は、実際には私向けの説明だってことに気が付いた。私はまだそういう、ギャング絡みのあれこれには詳しくないから、これはありがたい。
「なるほどね......じゃあ次。この番号籤とモルヒネだけど、何か関係あるのかな?」
ぼたんちゃんが、モーガンから没収した投票券をヒラヒラさせながら訊いた。私もそれに便乗する。
「あっちのラジオの中にもありましたね。関係がないって考える方がバカらしく思えますよね?」
「関係なんぞないよ。お二人さんの時間の無駄だ」
「どうかな。フリートウッド・モーガンは、あんたがモルヒネと一緒にこの投票券も売り捌いてるって、法廷で証言するよ」
「オー、ケイ」
"法廷で証言する"というのはつまり、司法取引を交わした、って意味だ。モーガンが洗いざらい喋った、という意味でもある。
「そうだ。俺はクスリとその籤をマーロン・オッティーってヤツから買ってる。マーロンはユダヤ人連中の下で籤屋をやってるんだ。賭博狂いで、何にだって配当率を付けたがるんだ。サッカー、ボクシング、競馬、番号籤......
「ふーん......フブキ先輩、他に質問ありますか?」
「あるある」
私はぼたんちゃんの背後から、椅子の背もたれに両手を置いてジョーンズに話しかけた。
「ジョーンズさん、ラメズ
「ラジオを買った。それだけだ」
「へえ。それじゃあ白上たちがそこに行って、麻薬を隠すための"特別な"本棚とか、
「んで、お知り合いのジャメインが、あたしたちにここを紹介してくれたんだって言ったら、どうなるだろうね?」
ぼたんちゃんが調子よく後を引き継いで言った。その声は楽し気だ。
「領収書の宛先は、ロス市警会計課でって言ったら......?」
「面白いな、お二人さん。お嬢さん方なら、アボットとコステロ*2を追い抜かして、有色人初のハリウッドのトップに立てるんじゃないかね」
「上手いこと言うじゃん、ジャメイン」
ぼたんちゃんがすっと立ち上がった。
後ろだからだから、その表情は見えなかったけど、私は背中から言いようのない圧を感じて、思わず一歩下がった。
「あんたこそ、黒人初のコメディアンになれそうだね......」
言いながらぼたんちゃんがちょっと屈みこんだ。ガタリと音を立ててジョーンズが身を引く。息を呑んで、左手の甲を右手でぱっと抑えた。
ぼたんちゃんは何でもない顔で、なにかで揉み消した葉巻を灰皿の方にぽんと投げて続けた。
「ほら、吐きなよ。ラメズのこと」
「ラメズは......あいつはレニー・Fの"いい友人"なんだ。詳しいことは知らん。本当だ」
「ふうん......まあいいよ。電話借りるね」
返事を待たずに、ぼたんちゃんはデスクの上の電話機から受話器を取った。
「交換台? KGPLに繋いで。いや、緊急じゃないよ」
「......なあ、取引は成立したんだよな?」
ジョーンズが電話をかけるぼたんちゃんの方を見ながら、不安そうに言った。
私は待合室の二人に手錠をかけに行こうとしていたけど、電話中のぼたんちゃんに代わって、振り返って答えた。
「ええ、まあ。モルヒネが回収出来たら、