H.L. Noire   作:Marshal. K

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Driver's Seat #6

 

 

「KGPLから2K11。2キング11、どうぞ(カム・イン)

「......フブキ」

「おっと、そっかそっか」

 

 モーガンを護送車(Bワゴン)に放り込んで、ウチたちはモーガンのアパートメントに向かっていた。その途中で無線機が鳴ったんだけど、コールサインが変わっているのでフブキはうっかり取り損ねるところだった。

 

「2キング11です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

鑑識課(テクニカル・サービス)からの伝言です。パシフィック電鉄(PE)貨物駅の放置自動車から採取された血液は、人間のものではない。反復、人間のものではない。組成解析の結果、ブタのものとみられる。伝言は以上」

「2K11了解。......さあ捕り物の時間だよ、ミオ」

 

 フブキが送話器を置いてウチに話しかける。

 なんか、妙にエキサイトしてない?

 

「大人しく捕まってくれればいいんだけどねえ」

「こういう事件をやらかすヤツは、たいてい最後までコトを厄介にしたがるんだ」

 

 多分逃げ出す気がする、とビコウスキー刑事は憂鬱そうに言って後部座席のシートに沈み込んだ。

 

 

 

 

 

 ウチはモーガンのアパートメントの入った建物の、向かい側にビュイックを駐めた。

 アパートメントの玄関は角に面した洋裁店と、フィグエロア通りに面した古物店のあいだにあった。

 

「じゃあ俺は裏に回ってるからな」

 

 大人しく捕まったら窓から知らせてくれ、と言ってビコウスキー刑事は運転席に移るとテンプル通りの方に曲がって行ってしまった。

 

「"F. モーガン"。ここで間違いなさそうだね」

 

 玄関ホールの集合ポストで2号室の名札を確認してフブキが言った。

 

「さっさと済ませちゃおっか。定時までに余裕をもって書類を書き上げられそうだねえ」

 

 腕時計を確認してフブキに言う。まだお昼前だ。

 擦り切れたカーペットの敷かれた階段を2階に上がって2号室を目指す。

 

「ここだね」

 

 "2号室"の表札が脇に掲げられたドアの前で立ち止まると、フブキが拳でドンドンとドアを叩いた。

 ドアが開いて、とても見覚えのある――今日色々な写真で目にした――男性が出てきた。

 

「何かな、お嬢さん方」

ロス市警(LAPD)刑事部です」

 

 フブキが言って、警察官(バッジ)を掲げる。

 

「あなたを逮捕しに来ました、ブラックさん」

「......待ってくれ。その、申し訳ないと思っているんだ」

 

 弁解がましくブラックさんが言う。

 

「誰かを傷つけたかったわけじゃないんだ。ただこの街から出て行きたかっただけで......抵抗はしない。ただ、私物を取りに行かせて」

バァン!

 

 言い終わらないうちにブラックさんが叩き付けるようにドアを閉めた。

 

「この!」

 

 危うく鼻をぶつけるところだったフブキが苛立ち交じりにドアを蹴飛ばす。掛け金(ラッチ)がポンとはじけてウチたちはすぐに室内に押し入った。

 

「フブキ、非常階段!」

「わかってる!」

 

 カンカンと聞こえる甲高い音はブラックさんが非常階段を駆け上がっていく音で間違いない。

 

「階段を上るよりこっちのが......早いっ!」

「ちょっとフブキ!?」

 

 フブキは階段を使わずに踊り場の手すりから、上の踊り場の手すりへ飛びつく方法を選んだ。赤サビでボロボロの手すりが嫌な音を立てて思わず顔を顰める。

 

「落ちたら危ないよお!」

「大丈夫ダイジョーブ!」

 

 言い終わる前にフブキは屋上へ姿を消したけど、ウチはその後を追う気にはなれず素直に階段を上る。

 

「待てーい!」

 

 屋上に上がりきるころには、ブラックさんはすでに一階低い隣の建物に飛び移ってしまっていた。

 フブキが突拍子もない声を上げながら建物の間を飛ぶ。

 ウチはその後を追いかけ......途中からはゆっくり歩いて行った。というのも、

 

「そこまでだ、エイドリアン!」

 

 隣の建物の塔屋からビコウスキー刑事が飛び出してきたからだ。

 ビコウスキー刑事とフブキに挟まれる形になったブラックさんは、早々に両手を上げて降参した。

 

「奥さんと話し合おうとは思わなかったんですか、ブラックさん」

 

 追いついたフブキが聞く。

 

「こんなメロドラマじみたお芝居をする必要があったんですか」

「これはその......この方が簡単だと思ったんだ」

「いや、滅茶苦茶にしただけだと思うけどねえ」

 

 ウチも追いついて、フブキの肩越しに感想を投げる。

 

「エイドリアン・ブラック、詐欺と共同謀議で逮捕します」

「それと警察(ウチたち)をこんな茶番に付き合わせたって知ったら、地方検事(DA)さんはどんな顔すると思う、フブキ?」

「さあ。いい顔はしないと思うけどね」

「あんたはご夫人も仕事も、それに多分あのデカい家も失くすだろうよ。ニコールって女にそれだけの価値があったかい、エイドリアン?」

 

 呆れ混じりのビコウスキー刑事の問いかけに、ブラックさんはただ悄然と俯いただけだった。

 

 

 

 

 

「蓋を開けてみればなかなか面白い事件だったみたいじゃないか、え?」

 

 その日の夕方、ウチたちは捜査報告書と調書とその他諸々の書類を提出しにレアリー警部の執務室を訪れていた。

 

「エイドリアン、なんてバカなヤツだ」

 

 ウチたちの、というか主にフブキの口頭での報告を受けた警部は、とても満足そうに笑ってウチたちを褒めそやした。

 

「君たちは最初の事件をキレイに纏めて逮捕までこぎつけたな。書類の書き方も見事なもんだ。いい仕事だったぞ、お二人さん」

 

 さっき提出した一件書類をポンポンと叩く。

 

「手際のいい捜査員は大衆ウケもいい。このままビコウスキーの助言を受けながら続けて行けば、さらなる高みを目指せるかもな、お二人さん」

 

 

Driver's Seat -Case Close-

 

 

 

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