H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Black Ceaser #9

 

 

「これは......すごいね」

 

 ラメズ中古家具店(リムーバル)の社屋兼倉庫に入って、真っ先に私が発した言葉はそれだった。だだっ広い倉庫内には年代も種類も雑多な、ものすごい数の家具が並んでいた。

 

「まるで"家具の森"って感じだね......」

「ですね......どうします? 巡査を呼んで、捜索を手伝わせますか?」

「んにゃ、とりあえず家具は無視して、倉庫の中を見て回ろう。何もなかったら、その時は巡査を動員して全部の家具を調べなきゃだけどね」

 

 そう言って私はまず、入り口すぐのテーブルの方に歩み寄った。ここに並んでいるテーブルには卓上灯が点いていて、たぶん事務所代わりなんだろうと踏んだんだ。

 その読みは当たっていて、テーブルの一つの上に配送記録の台帳が置かれていた。ぼたんちゃんが背後から覗き込む中で、台帳のページをペラペラめくっていく。

 

「......オッティーはここから、家具をたくさん買ってるみたいだね」

「みたいですね。ただ他と違って、"何を売ったか"の記述がありませんけど」

「書けないものを売ってたんでしょ......氷?」

 

 記録の中の一つを指で叩く。"北極熊(ポーラー・ベア)製氷会社"。数日に一回、ここに氷を卸している。

 

「これは入荷記録みたいですね」

「だね。でも中古家具屋さんが、こんな頻繁に氷を必要とするかな?」

「しないと思いますね」

「だよね......他はしごく一般的な取引記録ばっかりだな」

 

 "善きサマリア人(グッド・サマリタン)"慈善病院への出荷記録もある。ちゃんとまっとうな取引もしてはいたようだ。

 私は台帳を閉じて、ぼたんちゃんに言った。

 

「倉庫の中を探してみよう。これだけ氷を買い入れてるなら、どっかしらに保管するための部屋があるはずだよ」

 

 

 

 

 

「これじゃないですかね?」

 

 倉庫の奥、入り組んだ家具の森を抜けた先に、コンクリートの四角い小屋があった。屋根の上からは圧縮機(コンプレッサー)が動く音がしている。

 

「これ邪魔だな......フブキ先輩、そっち持ってくれます?」

「いいよ」

 

 小屋の前を塞いでいる木箱を、二人で端を持って引きずってどける。何が入ってるんだ、ってくらい重かったけど、獣人二人がかりでなんとかどかせた。

 

「ふー、動いた動いた......これ、普段どうやって動かしてるんだろ?」

「あのクレーンじゃないですか?」

 

 ぼたんちゃんの指す先を追うと、天井近くにクレーンがあるのが目に入った。

 

「なるほどね......でも、クレーンを使わないと動かせないような重量物を、なんで戸口の前に置いてるんだろうね?」

「いよいよ怪しいですよね」

 

 ぼたんちゃんがにんまり笑って返すと、鉄製の引き戸をがらっと開けた。途端にぶわっと冷気が吹き出してきて、ぼたんちゃんの耳が一瞬きゅっと丸まるのが見えた。

 

「さぶっ......冷凍室ですね」

「氷がいっぱい......」

「氷以外のものもいっぱいですよ」

 

 冷凍室の中には、旧式の冷蔵庫に使うような氷塊がずらっと並んでいた。ぼたんちゃんが、内の一つの表面をつつっと指で撫でる。

 

「なーんか氷の中にありますねえ」

「下がって、ぼたんちゃん」

 

 私は手提げ鞄(ハンドバッグ)から、45口径陸軍制式拳銃(コルト・アーミー)を抜きながらそう言った。

 跳弾が無いように慎重に角度を調整して、氷塊の一つの四隅に向かって一発ずつ発砲した。

 

――ガシャン! ガラガラ......

 

 氷が砕けて、中に氷漬けにされて積まれていた段ボール箱が転がり出てきた。内容物について、黒インクで大書きされている。

 

 

――簡易注射器(シレット)2000本

  モルヒネ酒石酸塩液

  1.5ccあたり1/2グレーン:滅菌針:毒物

  警告:中毒性あり

 

  ニューヨーク、E. R. スクイブ親子会社(アンド・サンズ)――

 

 

「悪いクマさんだ」

 

 箱を開けて中を見るなり、私はそう呟いた。箱の中には今日散々目にしたモルヒネシレットの箱がぎっしり詰まっていたんだ。たぶん、書いてある通り二千本あるんだろう。

 

「悪いクマさんには、お仕置きが必要ですね」

 

 私の背後から箱を覗き込みながら、ぼたんちゃんが言った。なんかちょっと嬉しそうだな。

 

「さっきの台帳に住所は書いてましたから、ちゃちゃっと懲らしめに行きますか」

「そうだね。それと、ここに巡査と鑑識を呼んで、この氷の山を押収させないとだ」

 

 

 

 

 

「ねえ、ぼたんちゃん」

 

 サンセット大通り(ブールバード)を突っ走る捜査用車の中で、私はぼたんちゃんに話しかけた。

 

「なんですか?」

「オッティーは本気であれを言ってたと思う? 白上たちが元締めを叩けたとして、市警がオッティーにお目こぼしをすると、本気で思ってるのかな」

 

 私は正直、懐疑的だった。

 ぼたんちゃんはハンドルを指でこつこつ叩きながらしばらく黙ってたけど、やがて口を開いて喋りだした。

 

「......クスリが規制されても、それで人々がクスリを手に入れたがらなくなるってわけじゃありません。供給を制限しても、それが需要の制限には直結しない。それはわかりますよね?」

「それは、まあわかってるよ。誰だって週末には、ちょっと息抜きしたいよね」

 

 ロサンゼルスはサン・ディエゴほどじゃないにしても、メキシコとの国境に近い。つまり、大麻が安く手に入るんだ。およそこの街の人間で――少なくとも、ここで生まれ育った人間で――大麻に手を着けたことが一度もないって人は、かなり珍しいだろう。

 もちろん、私みたいなよそ者は例外だ。メイン州の山奥では、大麻もそれなりのお値段になる。

 

「でも、モルヒネ? ヘロイン? それは......」

「やりすぎ、そう思いますよね?」

 

 ぼたんちゃんはこっちに、ちらっと視線を飛ばしてから続けた。

 

「それが重要なんです。需要を制限したいなら、新聞を通して麻薬を悪者にするのが最善手です。キチンと取り締まれば、警察(あたしたち)の評判も上がりますしね?」

「でしょ?」

「でもねフブキ先輩、結局のところ、あれもお酒とそう大差ないんですよ。化学的なことは置いといてね。市の――あるいは州も連邦もですけど――お偉いさんたちは声に出さないまでも、あたしたちがオッティーみたいなヤツらをお目こぼしして、中央通り(セントラル・アベニュー)から麻薬が絶えちまわないように期待してるんですよ」

「なんで? 麻薬が一掃できたほうが、そのお偉いさんたちにとってもいい結果につながるんじゃないの?」

 

 街をクリーンにできたほうが、選挙で票を集められる。ぼたんちゃんの言う"お偉いさん"が議員にしても市長にしても、麻薬を取り締まらない理由にはならない気がした。

 一方ぼたんちゃんはキャデラックをラ・ブレア通りに進めると、変わらず淡々とした調子で言った。

 

「一概にそうとも言い切れないんですよ。"法と秩序の正義"を掲げる以上、犯罪率――薬事犯に限らずですよ?――は低いに越したことはない。なら、犯罪者連中がアヘン系の薬物でラリって大人しくしてたら、犯罪も減って治安も良くなるだろうって、そう言う考え方もあるわけです。あたしは少なくとも一人、そう言う考え方の人が身近にいるのを知ってますよ」

「誰?」

「ドネリー警部です」

 

 何も言い返せなかった。ドネリー警部なら、本気でそう思ってそうだから。

 

「もっとこう......勤め口の斡旋とか......他に手はないのかなあ」

 

 

 

 

 

「工場は閉まっとるよ」

 

 ラ・ブレア通りとホーソーン通りの角にあるポーラー・ベア製氷会社は、確かに閉鎖されているようだった。正面玄関のガラス扉には目隠し(ブラインド)が下りていて、植木や花壇も手入れされてる気配はない。

 そんな工場を見て回ってると、いかにも用務員か雑用係って格好のおじさんがやって来て、私たちにそう言った。

 

「もう何年も前の話になるが。今時ゃ電気冷蔵庫が主流で、誰も冷蔵庫用の氷なんざ買い求めんのでなあ......」

「それくらいにしなよ、おっさん」

 

 昔を懐かしむような口調のおじさんを、ぼたんちゃんがかなり失礼な言葉づかいで遮って続けた。

 

「カタギの会社の雑用係が、(ハジキ)なんか持ってるわけ......」

 

 "(ハジキ)"って単語が出たあたりで、おじさんは慌てて上着のポケットに手を突っ込んだ。私も同じくらい慌てて手提げ鞄(ハンドバッグ)に手をやるけど、どっちよりも先にぼたんちゃんがウェスト・コートの下から銃を抜いて発砲した。

 38口径警察標準輪胴拳銃(ポリス・スペシャル)のパァン!って乾いた音が響き渡って、おじさんはこっちに向けてた右こめかみに赤い穴を作って倒れ込む。通り中から悲鳴が上がった。

 

「......ないじゃんか。ロス市警(LAPD)です!」

 

 ぼたんちゃんはさっきの言葉の続きを口にしてから、警察官(バッジ)を辺りの通行人にかざして言った。

 

「落ち着いてください! そこの兄さん、」

「は、はい、何でしょう?」

 

 ぼたんちゃんに声をかけられた男性が、へっぴり腰で答えた。そりゃまあ、片手に発砲したての拳銃を持って話しかけられたら、そんな態度にもなるだろうけど。

 

「どこでもいいので電話を見つけて、警察に連絡してくれませんか。警官が応援を要請していたと伝えてください。えーっと......」

 

 徽章入れ(バッジ・ケース)から名刺を引っ張り出して、男性に押し付ける。

 

「これ、あたしの名刺ですんで。それから危ないんで、連絡したらここには戻ってこなくていいです」

「ええと、電話するんですね、その、はい。わかりました」

「......あれ、電話してくれると思う?」

 

 這う這うの体って感じで走り去る男性の後姿を見ながら、私はぼたんちゃんに訊いた。

 

「してくれれば御の字でしょうね。無いよかマシだと思いましょ? それより、」

 

 ぼたんちゃんは製氷工場を見上げて続けた。

 

「さっきの一発が挨拶代わりになっちゃったと思いますから、あたしたちはとっとと突入した方が良くないですか? 証拠隠滅を図られても困りますし」

「それもそうだね」

 

 私は手に持ってたコルトの安全子(セーフティ)を弾いた。できれば制服の応援を待ちたかったけど、ぼたんちゃんの言うことにも一理ある。

 私より背の高いぼたんちゃんのカバーを受ける形で、私は正面のドアを蹴破った。

 

ロス市警(LAPD)だ!」

「諦めな、フィンケルシュタイン」

 

 玄関ホール(ホワイエ)に突入すると、作業服姿のごろつき二人と一緒に、紺色の細面の男がいた。ぼたんちゃんが拳銃を構えたまま、その男に呼びかける。

 

「義理の兄さんが弁護士を呼んでくれるのを、おとなしく待つんだね」

「生憎と義理の兄には嫌われててね」

 

 フィンケルシュタインが、手にしていたビール瓶を投げ捨てながら答えた。

 

「お前たちなんぞに大人しく引っ張られるくらいなら、ここでぶっ殺してやる!」

 

 そう言って、背広の下に手を突っ込んだ。同時に、左右のごろつきたちが机に着いていた右手を上げる。そっちの方が早い。

 即座に右手のごろつきに銃口を移すと、ぼたんちゃんは反対側の方に銃を向けた。銃声二発。ごろつきたちは斃れて、時間稼ぎをしたフィンケルシュタインは奥の事務室へと姿を消していた。奥から声だけが響いてくる。

 

「手下はまだまだいるんだぞ、アマポリ! おい、あの畜生どもを生きて帰すな!」

 

 事務室のドアの両脇に立つと、声が遠ざかっていく代わりに拳銃弾がヒュンヒュンと中から飛んできた。銃声は一人分、動いていない。手下その1......いや、その3か。

 ぼたんちゃんはちょっと頭を傾けて耳を戸口からのぞかせると、一発撃った。ゴロゴロと喉を鳴らす音がして、手下その3は沈黙した。

 

「ぼたんちゃん、白上より銃の腕良くない?」

「まぐれですよ」

 

 突入しながらそう言うと、短い謙遜が返ってきた。

 

「ねえ、過ぎたる謙遜はむしろ......聞こえた?」

「聞こえました」

 

 事務室を抜けると、奥の工場に繋がるらしい廊下に出た。廊下の先は直角に曲がっていて、その向こうで散弾銃の槓桿を引く音がしたのを、私もぼたんちゃんも聞き逃さなかったんだ。

 

「あの先に少なくとも一人、ショットガン持ちですね」

 

 そろそろと進んで行って、今度は私がちょっと耳を出す。途端に、

 

――バァン!

 

 一発銃声が鳴って、私は慌てて耳を引っ込めた。向かいの壁にボコッと散弾(ペレット)の痕が開く。

 

「うわっ、かすったかと思ったあ! こんにゃろ!」

 

 おかげで場所は分かったので、相手が遮蔽に入る前に拳銃を突き出して三発撃った。ぼたんちゃんほど自信があるわけじゃないからね。

 それでも初弾が命中して、ギャーッと悲鳴が響いた。こちらの遮蔽から出て、床の上でのたうち回る――M12散弾銃(ウィンチェスター)はもう手放していた――ごろつきに照準を合わせたまま慎重に歩み寄ると、ぼたんちゃんがカバーに入ってるのを確認してこめかみに一発叩き込んだ。こいつはこれで良し。

 

「フブキ先輩も上手いじゃないですか」

「まあ、あれで外したら退役軍人(GI)の名折れだからね」

 

 奥の扉は開いていて、そこから冷気が靄になって流れだしていた。工場、いや、冷凍倉庫か。

 再び扉の両脇に立つ。ぼたんちゃんがちょっと厳しい顔をして言った。

 

「うるさいな......これは聴覚照準キツそうですよ」

 

 冷凍倉庫内は圧縮機(コンプレッサー)送風機(ファン)のブンブンガタガタいう音で満ちていて、物音で照準にアタリを着けるのは厳しそうだった。それでも、バァン!という轟音とともに散弾(ペレット)が戸口を抜けていくと、ぼたんちゃんがちょっと嗤って言った。

 

「これならわかります」

 

 一発。悲鳴。門番は一人だけだったらしく、二人でぱっと庫内に飛び込んだ。

 

「うわっ......すっごい」

 

 私は思わずそう呟いた。庫内には所狭しと氷塊が並べられていて、そのいずれにも何かが氷漬けにされているのが見て取れた。たぶん、全部モルヒネシレット入りの段ボール箱だろう。

 氷塊の迷路を縫って行く間にさらに二人打ち倒して――一回は危うくM1短機関銃(トミーガン)持ちに撃たれるところだった。後でぼたんちゃんにちゃんとお礼をしとかなきゃ――ついに倉庫の一番奥にたどり着いた。

 

「おら、手下はみんな死んだよ、フィンケルシュタイン」

 

 ぼたんちゃんが、物陰にうずくまっている紺色の背広に声をかけた。庫内に入ってから、物陰から撃ってきてたらしいM1ライフル(ガーランド)は脇に放り出されている。ホールド・オープン状態で、空の挿弾子(クリップ)が床の上に散らばっていた。

 

「その拳銃も下ろして、両手を上げてください」

 

 私も銃を向けたまま、フィンケルシュタインの背中に呼びかける。

 

「......手を上げろ? ああいいとも。で、次はなんだ?」

 

 のろのろとフィンケルシュタインが立ち上がって、こっちを向いた。

 

「取引に分け前を寄越せってか? そんなことしてみろ、Q(クエンティン)に送られてすぐに、旧友が俺の目にアイスピックを突き立てるだろうよ。そんなのご免だ!」

「お好きにどうぞ。他に道は無いよ、フィンケルシュタイン」

 

 ぼたんちゃんの冷たい物言いに、フィンケルシュタインが拳銃を持ちあげる。けれど、その銃と私のコルトよりもはるかに早く、ぼたんちゃんのポリス・スペシャルが火を噴いた。

 レニー・"ザ・フィンク"・フィンケルシュタインは広い額に大穴を開けて、冷凍倉庫の冷たい床の上にばたりと仰向けに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「フブキ先輩、これ」

 

 一旦玄関ホール(ホワイエ)に戻って署に電話連絡を入れてから、フィンケルシュタインの亡骸を通り過ぎると、倉庫の奥に軍艦色の木箱(クレート)がいくつも積み上げられているのが目に入った。白ペンキでステンシルが施されている。

 

 

――運送船クールリッジ積載

  医療物資

 

  合衆国第10陸軍医務部――

 

 

 手近の一箱の凍り付いた蓋をバキバキ言わせて引き開けると、中にはモルヒネシレット入りの段ボール箱が半分ほど入っていた。この下の木箱は、たぶんまだ満杯だろう。

 

「すっげ......ここにある分だけでも10万ドルはしますよ」

「......じゃあ、船強盗の犯人はレニーだった。ってことかな?」

「いや、あたしの推測ですけど、たぶんレニーはこれを強盗犯から取り上げたんじゃないですか? 買ったのか脅し取ったのかは、わかりませんけど」

「おやおや、さっそく風紀課長の鑑定眼が証明されたわけだな」

 

 振り返ると、コルミャー警部補が巡査数人を引き連れて、寒そうに手をこすり合わせながらこちらにやってくるところだった。ハリウッド署で通告を受けたのが、ずいぶん昔のことみたいに感じられる。実際には半日も経ってないんだけど。

 

「これはいい結果だぞ、シラカミ刑事。レニー・Fは市内どころか、北はサン・フランシスコ(フリスコ)まで麻薬を動かしていたようだからな。連邦政府(フェッド)はお喜びだし、ミッキー・コーエンの評判はさらに下がるだろう」

 

 主任はニマッと笑うと、私の肩をポンポン叩きながら続けた。

 

「お世辞抜きに言ってな、お嬢さん。俺は新聞記事ってのが好きだ。風紀課が一面トップを飾るのが大好きなんだ。お前さんがその手伝いをしてくれるんなら、俺との関係は悪くなりようがないぞ」

 

 そう言って、木箱の運び出し作業にかかった巡査たちの方へ歩き去って行った。

 

「ねえ、ぼたんちゃん」

「なんですか?」

 

 ぼたんちゃんはしかめっ面で答えた。耳がきゅっと丸くなっている。ライオンだから寒いのが苦手なんだろうか。

 

「ここ、全部でどれくらいのモルヒネがあると思う?」

「......目算ですけど、1トンもなさそうですね」

 

 倉庫を見回して、ぼたんちゃんはそう答えた。

 

「そうなんだよ。クールリッジから盗まれたモルヒネは2トン。残りの1トン強はどこに行っちゃったんだろう?」

「フィンケルシュタインがもう捌いちゃったのかもしれませんよ?」

 

 ぼたんちゃんはポケットからハンカチを出すと、洟をかんでから続けた。

 

「ぐじゅ......あるいは、どこかよそに隠してあるかですね。ただ、フィンクやミッキーが隠し場所を把握してるかどうか......」

「まだ強盗犯が持ってる可能性もある、だよね? じゃあ、もうしばらくモルヒネは無くなりそうにないかあ」

「流通してる分だけでも、まだまだありそうですからね」

 

 台車でゴロゴロ運び出されていく氷塊を眺めながら、ぼたんちゃんは言った。

 

「全部回収出来たらまた新聞記事ですよ、先輩」

「白上はちょっと、そう言うのはいいって言うか......」

 

 ぼたんちゃんは溜息を一つ吐いて答えた。

 

「ま、正直あたしもそう思いますけど......フブキ先輩は殺人課の時点で新聞の注目の的でしたからね、風紀課(ここ)は殺人課以上に記者から逃げられませんよ?」

「うへぇ......」

 

 

 

The Black Ceaser -Case Closed-

 

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