H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Naked City #4

 

 

「どうも、ストーンマン先生。ロス市警(LAPD)の尾丸刑事です。こちらは大神刑事」

 

 診察室に入ると、すぐのデスクに壮年と初老の間位の男性が着いていた。濃紺のダブル幅の背広がよく似合っている。

 先に入ったポルカが先生にそう挨拶したので、ウチもちょっと会釈をする。

 

「どうも。それで、用向きは何かな?」

「ポルカたちは変死事件を捜査してます。亡くなったのはジュリア・ランドールさんです」

 

 先生の反応を観るためだろう、ポルカはちょっと間を置いた。

 

「......先生の患者さん、ですよね?」

「それは......気の毒なことで」

「ランドールさんについて二、三質問したいことがあるんですけど、よろしいですね?」

「ああ、その、守秘義務に反さない範囲であれば」

 

 ウチはおや、と思った。若い女性の患者が亡くなった、と聞いたにしては妙に反応が薄い気がする。

 ポルカは先生の前の客用椅子――この場合は患者用椅子だろうか――に腰かけながら続けた。

 

「結構です。えっと、ランドールさんについてですけど、先生は彼女のことをどの程度ご存知でしたか」

「あまり詳しいことは。ここに掛かるようになってそう、まだ半年も経ってないんじゃないかな」

「半年? もう丸一年は経とうとしてますよね?」

 

 ウチが口を挟むよりも先に、ポルカが反駁した。声の調子から言って、何か材料があるみたいだ。

 

「......何か証拠があるのかね? 事務室でカルテでも盗み見たとか?」

「そんなことするまでもありませんよ。彼女の家に、去年の今頃処方された薬瓶があったってだけの話です。処方したのはストーンマン医師だと、ラベルに書いてありました」

 

 簡単でしょ? って付け加えたポルカの声には、口調に反して強めの圧が入っていた。

 

「......では、私が何を処方してたのかもご覧になったんだね?」

「ええ勿論」

「彼女は......ファッション業界に身を置いていたんだ、もう知ってると思うがね。朝には覚醒剤(ベンゼドリン)ではね起きて、夜には睡眠薬(ベロナール)でぶっ倒れる。そんな生活をしとったんだよ」

「そして、どっちもあなたが処方したもの。ですよね?」

「私は、注意はしたんだ。もっと服用頻度を落とすべきだと。結局従いはしなかったがね......彼女にとって人の一生は、あまりにも短すぎたんだ」

「結局自分の一生を更に縮めただけ、かもしれませんけどねえ」

 

 ウチがポルカの背後から口を挟むと、先生は何か言いたげにこっちを見上げたけど、結局口を開きはしなかった。

 ポルカが小さく咳払いをして、先生の注意を自分に戻してから質問を続けた。

 

覚醒剤(ベンゼドリン)を処方された経緯を教えてもらっても?」

「彼女はファッション・モデルだからな。あの業界では、体形維持のためにアンフェタミンを使うのは、よくある話だよ」

 

 この先生は手ごわいことに、あんまり表情が変わらない。ポルカがメモ帳に目を落として、質問を流そうとしたのがわかったから、ウチはちょっと介入することにした。

 

「でも先生、覚醒剤は強い中毒性のある薬物です。それは当然、先生もご存知ですよね?」

「......なにを言わせたいのか知らんが、減量治療(ダイエット)のための覚醒剤処方は禁じられていない」

 

 ストーンマン先生は、挑むような視線をウチに向けながら続けた。

 

「それは警察官なら知ってるだろう? そして彼女はまさに、その治療が必要な職に就いていたわけだ。それに彼女には危険性の説明もしたし、同意書にサインも貰っておる。秘書に持ってこさせようか?」

「いえ、結構です」

 

 ポルカが短く遮って、メモ帳を閉じながら立ちあがった。

 

「彼女のことをよくご存知だったようで、ポルカたちも助かりました」

「私がよく知っておるのは、彼女の"仕事"だよ」

「そうですか」

 

 ポルカは少し間をおいてから、お暇を告げた。

 

「......そうですか。また、何か進展があったらお知らせします」

 

 先生はああ、とかうう、とかいう感じの唸り声を返しただけだった。

 

 

 

 

 

「あの先生はモルヒネの出所じゃなさそうだね」

 

 クライスラーに乗り込んで始動(イグニッション)キーを捻りながら、ウチは助手席のポルカにそう言った。

 

「ああ、たぶん。ただ、頼まれればほいほい渡しそうな雰囲気あったけどな」

「次はどうする? 勤め先に行ってみる?」

「そう......友人とかから洗うのも悪いくないかもな」

 

 殺人課の連中と二度手間になるかもだけど、とは言いつつ、ポルカはメモ帳をパラパラめくった。

 

「えーっと......あったあった、ダシーヌ服飾、ハリウッド大通り(ブールバード)6582番地」

「よっしゃ」

 

 

 

 

 

「あ、ここだミオしゃ」

「おっけー」

 

 助手席からハリウッド大通り(ブールバード)の歩道を眺めていたポルカがそう言って、ウチはクライスラーを路肩に寄せた。

 ダシーヌ服飾店は、宝石商と既製服の量販店に左右を挟まれた、現代風の婦人服店だった。通りに面して大きくて広い飾り窓(ショーウィンドウ)があって、今もずらりと並んだイブニング・ドレスの数々を、相応に裕福そうな中年のご婦人二人が眺めていた。

 最上級のお店とは言えないけど、それでもウチたちが買い物に来るにはちょっと高級すぎる。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内に入ると、広々とした売り場の手前のデスクから女性が声をかけてきた。受付嬢にしてはちょっとお歳だから、彼女が経営者さんかな。

 立ち上がろうとした女性に掌を向けて制すると、デスクの方に歩み寄って言った。

 

「どうも、ロス市警(LAPD)の大神刑事と尾丸刑事です」

「セリア・スタンレーです。失礼、当店に何か、法律上の問題でも?」

「違います。ジュリア・ランドールさんという方は、こちらにお勤めですか?」

「いいえ、暇を出しましたので」

 

 馘になったのか。表情を見る限り、特に嘘を吐いている風もない。

 

「あの、彼女が何か?」

「今朝、死体で発見されました」

「それは......お気の毒に」

 

 それまでの営業スマイルが、悼むような表情に変わった。これも特に嘘っぽくはない。

 

「ランドールさんはどれくらい、ここでモデルをされてたんですか?」

「ここでは一年ほどです。ここに来る以前は、ニューヨークの方でモデルをしていたと聞いていますが」

「なるほど」

「ちなみに、どうして彼女を解雇したんですか?」

 

 ポルカが後ろから口を挟んだ。

 

「随分美人な方でしたから、よっぽどの理由があったんだと思うですけど」

「ええ、まあその、ここは御覧の通り婦人服を扱っておりますが、時には旦那様とご一緒に見えるお客様もいらっしゃいます。ジュリア・ランドールがモデルを担当しますと、殿方がドレスよりモデルの方に興味を抱かれることがしばしばありまして」

 

 苦々しい口調で、スタンレーさんは続けた。

 

「当然、奥様方は喜ばれませんし、そうなると、まとまる商談もまとまらなくなりますので」

「わかりました。ランドールさんはこちらに、誰か親しい方はいましたか? 友人とか」

「ええ、おります」

 

 ぱっと営業スマイルが戻ってきた。いや違う、解放される兆しが見えて喜んでる顔だ。

 さっき外でドレスを見ていたご婦人が、ウチたちに続いて入店してきていて、さっきからそっちをチラチラ覗っていたんだ。

 

「ヘザー・スワンセンです。お会いになりますか?」

「ええ、お願いします」

「あ、ランドールさんが亡くなったことは、スワンセンさんには伏せておいてもらえますか?」

 

 ポルカが後ろから付けたした。デスクから立ったスタンレーさんはポルカにちらっと目をやってから、短く返した。

 

「構いません、お巡りさん」

 

 

 

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