スタンレーさんは、試着室や仕立て部屋などがあるらしい奥に引っ込むと、一分と経たずに白い細身のワンピースに身を包んだ女性を連れて戻ってきた。
「ヘザー、こちらのお嬢様方が、ロス市警からいらした方よ」
「こんにちは、大神刑事です。こちらは尾丸刑事」
ミオしゃが自己紹介をしている間に、スタンレーさんはフェード・アウトしてお客の方に向かって行った。
「ジュリア・ランドールさんのご同僚だったと伺いましたけど」
「そうです。私はジュリアの口利きでここに入れたんです。あの、彼女になにか問題でも......」
「あなたから見て、ランドールさんはどんな方でしたか? 生き急いでいるような印象は......」
「いえいえ、まあ、スタンレーさんはそう言うかもしれませんけど、私はそうは思いませんね」
「その指輪ですけど」
あたしは横から口を挟んだ。
スワンセンさんが口許に当てた左手の薬指に、大粒の真珠が付いた指輪があった。
「いい婚約指輪じゃないですか」
「いいでしょ? ヘンリーがくれたんです」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
質問の形はとったものの、しっかりと目を見据えて低い声で言ったから、向こうは相当な圧を感じたはずだ。スワンセンさんは困惑しつつも、指輪を外してあたしに手渡した。
真珠の大きさを測り、電灯に透かして、最後に環の内側をのぞき込んだ。ダウンタウンの宝石商のメーカーズ・マークが彫られている。
「ふーん......セント・ヴィンセントでこのサイズの真珠を買おうと思ったら、かなり値が張りますよ。そのヘンリーさんって方は、あなたにぞっこんみたいですね」
もちろん天然真珠ならずっと安いだろうけど、それでもほいほい出せるような額じゃないはずだ。
あたしが指輪を返すのを待って、ミオしゃが質問を始めた。
「ランドールさんとはどのように知り合ったんですか?」
「ヘンリーが、
「なるほど。ヘンリーさんについて伺っても?」
「ええ、構いませんよ。ヘンリーはファッション事務所をやってるんです。ジュリアとは数年来の友人らしいですよ」
一瞬、あたしとミオしゃは目を見交わして、お互いの目に同じことが書いてあるのを確認した。さては元カノだな?
とはいえ、スワンセンさんはそこに疑念を持っていないようだし、これ以上は出てこなさそうだ。婚約者とやらに直接訊いた方が早いんじゃないかな。
「友人、と......友人と言えば、ヘンダーソンさんという方に心当たりはありますか?」
「ヘンダーソン? いえ、ありません」
「確かですか? 彼女はサファイアの婚約指輪をしていたんですけど、その送り主についてはどうですか?」
「さあ。私の前でジュリアが婚約指輪をしていた覚えはありませんし、ヘンダーソンって名前に言及してたこともないと思います」
これも確からしい。スワンセンさんはジュリアの指輪にも、ヘンダーソンさんにも心当たりがないようだ。
「わかりました。ご協力ありがとうございました、スワンセンさん。
「ちょっと待ってください」
ミオしゃがそう頼むと、先ほどまでとは打って変わって力強い声でスワンセンさんが言った。
「ジュリアに何があったのか、まだ聞いてません。ヘンリーに話を通したいんなら、まず事情を教えてください」
「......今朝、亡くなりました」
「嘘、そんな......」
あたしがなるたけ素っ気ない声で伝えると、スワンセンさんの目は嘘偽りない驚愕で見開かれた。
「そんな......信じられない。あんなに......あんなに元気だったのに......」
「KGPLから5K11。5キング11、
泣き崩れたスワンセンさんをスタンレーさんに任せて、あたしたちはダシーヌ服飾店を後にした。
あたしがクライスラーの捜査用車の助手席のドアを引き開けると、無線機がガーガー言いながら呼び出しをしているところだった。座席に滑り込みながら送話器を取って応答する。
「5キング11です、
「5K11、オマル刑事宛に検屍官から伝言があります。伝言、"ランドールの解剖が完了した。手が空き次第、ハリウッド救急病院まで来られたい"。伝言は以上」
「5K11了解。KGPL、ハリウッド救急病院へ向かう旨、検屍官に通報願います」
「KGPL了解。以上KGPL」
「......だってさ、ミオしゃ」
送話器を戻しながら運転席のミオしゃの方にそう言うと、ミオしゃは
「あの、ミオしゃ?」
「なに?」
「ああいう搦め手も必要だぞ? お話を聴く前に、あんな風に泣き崩れられちゃ大変じゃんか」
「そうだね」
とても納得してくれたとは思えない返答だったけど、それ以上の反論もなかった。