H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Naked City #6

 

 

 ハリウッド救急病院は、ハリウッド警察署に隣接して建っている。ちょうど間に署の駐車場を挟んでいたから、ウチは捜査用車を駐車場に乗り入れて、所定のスロットに駐めた。

 ここに駐める利点はもう一つあって、病院の正面玄関から入るよりも駐車場に面した通用口から入った方が霊安室に近い。

 

「ああお二人さん、待ってたよ」

 

 マルコム・カラザース検屍官は普段、ダウンタウンの公衆霊安室(モルグ)で仕事をするけど、今日はここの霊安室を臨時の剖検室にしたらしい。その為の設備もあるから問題はないんだけど。

 その霊安室に入って行くと、死体保冷庫の並んだ部屋の真ん中に解剖台が二つ置かれていて、検屍官はちょうど片方の死体から取り出した灰色のナニカを秤に載せているところだった。

......脳味噌だ。

 

「うへえ......」

「うげえ......」

 

 ウチたちの反応を見たマルはうっすらと笑みを浮かべて言った。

 

「反吐したり失神したりしそうなら、これの重さを記録するまで外していてもいいぞ」

「いや、だいじょぶ......」

 

 ポルカは特に何も言わなかったけど、出て行くつもりはないみたいだ。

 ちらっと目をやると、無影灯の光の中でポルカの顔が、手前の解剖台の上のランドールさん並みに青白くなってるのが見て取れた。ウチもそんな風になってやしないだろうか。

 

「そうか? まあ、手早くすますよ」

 

 マルはしばらくの間、秤の振れ回る針先を睨んでいたけど、やがて針が落ち着いて目盛を指すようになると壁の黒板に記録した。それから脳を取り上げて、透明な液体入りの広口壜に滑り込ませた。

 

「さてと、待たせたね」

 

 検屍官はゴム製の手術用手袋をゴミ箱に放り込むと、流しで手を洗いながら言った。

 

「そっちのランドール嬢だが、両腕の痣を検案したところ、大きさの異なる手の痕が二組あった。すなわち下手人は二人いることになる。死因はモルヒネの過剰摂取による急性心不全だ」

「一応訊いとくけど、モルヒネ中毒だった可能性は?」

 

 ポルカがランドールさんの死体を眺めながら訊いた。Y字切開を縫い直した生々しい痕が残っているけど、まだ開いたまんまのお隣さんに比べればはるかにましだ。

 

「無い。バルビタールとアンフェタミンを常用していた痕跡はあったが、モルヒネは無しだ。殺人と見て間違いないと思うが、同意してくれるね?」

「ああ、勿論」

「うん、勿論」

 

 ポルカとウチの似たような返しを受けると、マルは流しの方からこっちに戻って来て続けた。

 

「それじゃこちらの、現在仕事中のお客さんを見てほしいんだが」

「......かなり困難なんだけど、マル」

 

 消え入りそうな声でポルカが言った。

 

「ポルカ、足見てるといいよ。そこの黄色いタグとか」

「ああ、なるほど?」

 

 右足の親指に結びつけられた識別タグは目立つから、それを注視してれば上の方にあんまり目をやらずに済んだ。

 

「それでマル、この人がどうしたの?」

 

 もう言葉を発するのもつらそうなポルカに代わって、ウチが質問した。

 

「彼の名前はジミー・ルブランク、窃盗常習犯だった。彼は今朝、私がジュリアの家にいる間に持ち込まれて来てね、見ての通り――見たくないならいいが――何者かに顔面を、文字通り八つ裂きにされたようだ」

「それで?」

「ポケットからモルヒネの使用済み簡易注射器(シレット)二本が発見された。にもかかわらず、彼の血中からはモルヒネは検出されず、常用していた痕跡もなかった。死亡時刻は、ランドール嬢の一、二時間後だ」

「つまり? この顔面が見るも――見てないけど――無残なことになってる元・泥棒が、下手人二人組の内の一人ってことか?」

「私はそう思うね。失礼」

 

 ポルカの質問に肯定を返して、検屍官はベルが鳴りだした電話機の方に歩いて行った。

 

「カラザースだ......」

「どう思う、ミオしゃ」

「筋は通ってると思う」

 

 電話中のマルを置いて、ウチとポルカは鳩首して相談しだした。

 

「マルはこういうの、滅多に間違えないし」

「そっか。あたしはさ、実のところマルとあんまり仕事してないんだよな」

 

 殺人課だったミオしゃが言うなら安心だ、って言って、ポルカは続けた。

 

「じゃあとりあえず、このルブランクから始めるか。レイシー副主任に頼んで、こいつを最後に捕まえた警官から話を聴けば......」

「そのレイシーだがね、」

 

 電話を終えたマルが割り込んできて言った。

 

「ちょうど今の電話がレイシーからだった。署の方にヘンリー・アーネットって人物が来て、お二人さんに会いたがってるそうだ」

「早いな」

「早いね。じゃあマル、ウチたちは署に戻るから。知見をありがとう」

「どういたしまして。彼は取調室2にいるそうだ」

 

 

 

 

 

 ウチたちは駐車場を横切って通用口からハリウッド警察署に戻った。護送車がこっちに着けることを想定した造りだから、通用口をくぐってすぐは面会人の待合室を兼ねた看守係の詰所になっていて、勾留中の誰かしらとの面会を待っているらしい人々でごった返していた。

 看守係のデスクの前に並んでいる人たちを割って行くうちに、ウチはだいぶ気分が良くなってきた。どんな類の人間であれ、生きている以上ずっと安心する。

 そりゃあ、もはや犯罪を行う余地が無いっていう点では死んだ人たちの方が安心と言われればそうなんだけど、死体を気味悪がってしまうのは本能のような気もする。

 取調室の前に着くと、入室する前にポルカと向かい合った。お互いの顔色をまじまじと観察する。

 

「......よし、大丈夫そう」

「うす。ミオしゃも大丈夫だと思うよ」

 

 まさか真っ青な顔をして参考人聴取に臨むわけにもいかない。

 

「それじゃ、被害者の"友人"さんとやらにお話を伺おうか」

 

 

 

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