H.L. Noire   作:Marshal. K

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Fly High ~Interval~

 

 

「なあ獅白」

「なに、おまるん」

「神様っていると思うか?」

 

 先行車の尾灯(テール・ランプ)から一瞬目を離して、相勤の方を見る。おまるんはすぐに、ごめん、なんでもないと言って、シートに深く沈みこんだ。

 その様子を見てだいぶ参ってるなあ、と思う。

 

 中華街(チャイナタウン)で交通事故があった。あたしたちは警邏中にちょうどその事故現場を通りかかったんだけど、すでに他の巡査たちが初動を執っててあたしたちはいらなそうだった。

 ところが、野次馬整理に忙殺されてる巡査の目を盗んでスリをはたらく男の子がいて、あたしたちは目がいいもんだからそれを見つけちゃった。すぐにおまるんが助手席から飛び出して捕まえたんだけど、なんとその子はおまるんと同じフェネック系の獣人だったんだ。

 別に珍しいことじゃない――あたしもライオン系の獣人に手錠をかけたことがある――けど、それ以降おまるんはずっと物思いに耽っていて、パトカーがアラメダ通りとブルックリン通りの交差点まで来てやっと口を開いたかと思えばこれだ。

 彼はきっと、物盗りをやめることはない。治安判事は10日の拘留刑を命じるだろう。あるいは上手くやって、微罪処分で出てくるかもしれない。そしてまた油断している歩行者の財布を盗るんだ。

 おまるんもそんなことは解かっている。でも気持ちを整理するのはそう簡単なことじゃない。

 

 1番街との交差点を過ぎたあたりで無線機が呼び出しを始めて、あたしはちょっとホッとした。沈黙は苦手じゃないけど、この類のだんまりは少々居心地が悪いんだ。

 

「KGPLから1A18。1アダム18、どうぞ(カム・イン)

 

 おまるんが渋々といった体で送話器を取った。

 

「1アダム18です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「1A18、市民から211事案の通報です。場所、東5番街312番地、東5番312、サンジュリアン公園です。対処識別符号は2(コード・ツー)

「1A18了解。えぇっと......アラメダの1番と2番の間から向かいます」

「KGPL了解。以上KGPL」

「サンジュリアン公園か。もうすぐ真夜中だってのに、あんなところで何してたんだか」

「肝試しとか?」

 

 おまるんが何言ってるんだ、という感じの表情でこっちを見る。だんまりは一旦やめたらしい。

 

「意外と面白そうじゃない? 変質者と犯罪者を相手にした肝試しって」

「獅白が言うと冗談にならないんだよなあ......」

 

 5番街との交差点を右折してドヤ街(スキッド・ロウ)に入る。この時間帯にこっちへ曲がろうとする自動車は少ない。

 がら空きの5番街を飛ばしてサンペドロ通りとの交差点を抜け、サンジュリアン公園の向かいの路肩にパトカーを駐めた。

 

「お巡りさーん!」

 

 公園の入り口から呼んでいる若い男性のところへ、おまるんともども歩いて行く。

 彼は、恐らく彼女さんと思しき女性と一緒にいて、ヤッた後の臭いをぷんぷんさせていた。この手の臭いは当人たちが思っているよりも目立つんだ。その上あたしたちは獣人だから余計に。

 おまるんも多分同じ臭いを嗅ぎ取ってこっちは露骨に顔を顰めてたけど、とりあえずあたしは無表情で質問を始めることにした。

 

ロス市警(LAPD)です。どうされました?」

「強盗にあったんだ。あの野郎、急に茂みから出てきて、こっちにピストルを向けて、それで"金を出せ"って......」

「発砲したんですか?」

 

 血や火薬の臭いはしないな、と思いつつ確認する。

 

「いや、こっちがビックリしてまごまごしてたら、ピストルを振り回して"何でもいいから金目のものをだせ"って喚き始めたんだ」

「それで?」

「二人の財布と腕時計を渡したよ。ほっといたら本当に撃ってきそうな感じだったし」

「他に盗られたものはありますか?」

 

 これは後ろでメモを取ってるおまるんからの質問だ。

 

「彼女の指輪とブローチも渡せって言われたから。なあ、あのブローチは彼女のお祖母さんの形見なんだよ。取り返してくれるんだよな?」

「最善を尽くします」

 

 おまるんが驚くほどぶっきらぼうに言って手帳を閉じた。

 あたしが質問を続ける。

 

「強盗はどっちの方に逃げました?」

「あっちだ。路地を通って南の方に」

「それはどれぐらい前のことですか?」

「10時過ぎくらいだ。腕時計を渡すときに時間を見たから」

 

 ちなみに今は10時40分を回ったところだ。

 

「通報はどちらから?」

「そこの公衆電話だ」

 

 公園の中の電話ボックスを指す。運がいいな、と思った。このあたりの公衆電話は小銭目当てに叩き壊されていることが多いんだ。

 

「通報はつい先ほどでしたよね。それまではなにを?」

「いや、そのう......、俺も彼女も動転しててさ、それで、そこの茂みで、その」

「わかりました、結構です」

 

 おまるんが食い気味に遮った。

 これでこの臭いに説明が付いた。

 

「最後にお名前とご住所を伺います」

「リチャード・パーネル。彼女はエミリー。住所はサンタモニカ大通り(ブールバード)の......」

「ありがとうございます。ところで今日はなぜこちらに? 何か御用があったんですか」

「いやあ、その......」

 

 パーネルさんはだいぶ言い淀んでから、物見遊山のつもりだった、と言った。

 

「これからはお控えください。この界隈は昼間でも危険ですから」

 

 溜め息を吐きながらおまるんが言う。

 

「ああ、そうするよ」

「では、明日中に中央署の司法係に出頭して、被害届を出してください。手が空き次第、盗犯課が対応します」

 

 

 

 

 

「1アダム18からKGPL」

「1アダム18、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「1A18、サンジュリアン公園の211事案は対処識別符号4(コード・フォー)。なお、明朝被害者が中央署に来庁する旨、警務係に通報ねがいます。以上1A18」

「KGPL了解。KGPLから各局。サンジュリアン公園の211事案は、1アダム18が対処識別符号4(コード・フォー)を通報。以上KGPL」

 

 

 

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