「なあミオしゃ、あれはどういうことだ?」
廊下に出るなり、ポルカがウチに詰め寄ってきた。
「まさかとは思うけど、従軍したやつらがみんな聖人だとでも思ってるんなら......」
「そんなわけないでしょ」
ぐいとポルカの肩を押しやると、警務主任のデスクの方に向かいながらウチは返した。
「ウチのこと――それとフブキのこと――は散々新聞屋さんが書き立てたから、たぶんアーネットはウチに従軍経験があるのを知ってると思う。だからウチがあんな風に、仲間意識を見せて聴取を打ち切れば......」
「ははあ、なるほどな」
ポルカは後ろから付いてきながら、合点がいった声で言った。
「警察に目を着けられてないと思って、何かしらポカするかも知れねえ。ってことだな?」
「そういうこと。レイシー巡査部長?」
ウチは当直事務室を覗き込んで言った。警務副主任のレイシー巡査部長が、奥の席の一つから立ち上がってデスクの方にやってきた。
「ああ、オオカミ刑事。ご用はなにかな?」
「この名刺なんだけど、」
デスクの上に、さっき受け取ったアーネットの名刺を滑らせる。
「
「ああ、いいぞ」
「それから窃盗常習犯のジミー・ルブランクについて調べて、最後に逮捕した警官が誰かわかったら、KGPL経由で伝達して。5K11だから」
「それも了解だ」
「ポルカからもいい?」
ポルカが横から口を挟んだ。レイシーの無言の振りを受けて、続ける。
「ダウンタウンのセント・ヴィンセント宝石店に電話して、ここ一年以内にヘンリー・アーネットって人――その名刺の人だけど――が真珠の指輪を買ったかどうか、問い合わせてくれる?」
「わかった。ああ、オマル刑事」
デスクを離れようとすると、今度はレイシーがポルカを呼び止めた。
「忘れるところだった。これ、カラザースからの預かり物だ」
「ありがと、副主任」
ポルカが受け取ったのは、黒い宝石が付いた指輪入りの証拠品保管袋だった。ジュリア・ランドールの婚約指輪だ。
「ポルカ、自動車の中で」
「わかった」
当直事務室の反対側の受付デスクの前を通って、アーネットが玄関をくぐるのが見えた。ポルカをせかして、駐車場の方に向かう。
通用口をくぐって陰から窺っていると、アーネットは表通りから回って来て、来客用駐車スペースに駐めてある白いリンカーンに乗り込んだ。
「よし、行くよポルカ」
「うす」
リンカーンが駐車場から出て行くのを確認して、ウチたちも自分たちの捜査用車に乗り込む。手早くエンジンをかけて、リンカーンの後を追ってウィルコックス
「うわあ、これも高価いぞ」
リンカーンの後についてデ・ロングパー通りに曲がったところで、ポルカが素っ頓狂な声を上げた。例の指輪をのぞき込んでいる。
「ハリー・ウィンストンだ。ロズリン・アンド・アレキサンドリア・ホテルの有名な宝石商だよ」
ウチも名前は聞いたことがある。ダウンタウンには宝石商が集まってる地区があって、ハリー・ウィンストンはそこにかなり最初期からあるお店なんだとか。流石に行ったことはないけど。
「あ、そうだミオしゃ。さっきの聴取のことだけど、ジャック・ケルソー曹長って知り合いなんか?」
ポルカが指輪を、
「ウチとフブキは
「有名人だったんか?」
「うん。よその中隊の人たちも"あの人は良い人だ"って言うくらいだから、連隊内では有名だったみたいだね」
「それを知らなかったってことは......」
「従軍してないんだろうね」
それにね、とクライスラーをバイン通りに右折させながら付け加えた。
「大尉ってことは中隊長だったってことだよ。第六海兵連隊はだいぶ負傷者を出したらしいから、所属中隊がころころ変わってもまあおかしくは無いけど、最後に指揮を執った中隊くらいは覚えてるもんだよ」
「路肩に寄ったぞ」
サンタ・モニカ
ウチも同じようにして、十分距離を置いてクライスラーを路肩に寄せる。前方ではアーネットが運転席から降りて、通りを――
「金が入用、と」
「しかも即金で、かあ」
ポルカのつぶやきに短く補足する。実際に即金払いだったらしく、アーネットはものの数分でお店から出てきた。そのまま通りを東の方へ歩いて行く。
「ポルカ、後尾けてって」
「りょーかい」
ギッと音を立てて助手席のドアが開いて、ポルカが滑るように捜査用車から降りた。そのまま墓地の高い塀ぞいに、アーネットとの対角に立って尾行していく。
ウチはアーネットが遠ざかったのを確認してから捜査用車から降りた。人目を引かないようにブロンソン通りとの交差点まで戻って横断歩道を渡ると、アーネットの質草を確認するべく質屋さんに歩を向けた。