「あれだ、ミオしゃ。ウォリスだ!」
バン・ネス通りからサンセット
反対側の歩道を二人の若い男がゴードン通りの方に折れて走り去り、その後に制服巡査が続いて行く。ウチはまだ、ハリウッド署の巡査全員を覚えきってはいなかったけど、ポルカが言うなら間違いない。
「ポルカ、サイレン!」
「よっし」
ポルカがダッシュボード下の操作盤のスイッチを跳ね上げる。夕焼けの色が濃くなってきた交差点に雄叫びのようなサイレンが響いて、帰宅ラッシュの自動車たちが一斉に抗議の警笛を上げた。
「5キング11からKGPL」
「5キング11、
ウチが自動車たちの間を縫って、捜査用車をゴードン通りに向かわせてる間に、ポルカは早くも送話器を取って応援を要請し始めていた。
「5K11、フレッド・ウォリス巡査が被疑者を徒歩追跡中、応援を要請します。現場はサンセット
クライスラーを半分歩道に乗り上げさせると、ウチは通信中のポルカを置いてウォリス巡査の後ろについた。
「ウォリス巡査! ウチは大神刑事、そのまま追跡を続けて!」
ちらっとこっちを振り返ったウォリス巡査にそう告げて、男たちの後を追う。男たちは途中の路地に曲がって、建築資材置き場らしいところに逃げ込んだ。
資材の間を縫って姿を消した二人を見逃すまいと、資材置き場にぱっと飛び込んだ瞬間だった。
「ぐぅっ!」
板張りの塀の陰からぱっと腕が振り出されて、ウチの喉にクリーンヒットした。世界がぐるっと回って、喉を潰されたウチは後頭部を思いっきり壁に――いや、地面か?――打ち付けたところで、意識を失った。
「おらっ、こいつの命が惜しいんならとっとと銃を捨てろ、ポリ公!」
後から遅れてきたあたしが資材置き場に着くと、38口径
三人目の男はぐったりしたミオしゃの首に左腕を巻き付け、こめかみにコルト・ガバメントを突き付けている。あたしも素早く銃を抜いて構えるけど、男はミオしゃを上手く盾にしていて、引き金を引くことはできない。
「なあ、ウォリス巡査。銃の腕に自信ってある?」
「いま撃てるほどですか? 無いです」
「あたしも無い」
ボソボソそう言葉を交わすけど、もちろん銃を下ろすって選択肢はない。ミオしゃが前後不覚な以上、次に撃たれるのはあたしかウォリスだ。
「とっとと銃を下ろせ! メス畜生の一人や二人、増えたところで変わらんぞ!」
「くそ、こんな時に獅白がいればな......」
ん? 一人や"二人"?
「誰がいればいいって?」
あたしが驚く暇もなく、背後から銃声が一発響いた。ミオしゃの頭の陰から覗いてた、男の左目に弾丸が飛び込んで、背後の木材の山にぱっと血の花が咲いた。
「ミオ!」
これまた聞き覚えのある別の声がして、白い影がぱっと飛び出して倒れ込んだミオしゃの方に突進した。
「あ、ちょっとフブちゃん!」
フブちゃんにちょっと遅れつつも、あたしと獅白はほぼ同時に資材置き場に踏み込んだ。脇目も振らずにミオしゃの介抱にかかったフブちゃんを囲うように、あたしが左側に、獅白が右側にさっと銃口を走らせ耳を澄ます。気配無し。
「獅白、右から頼む」
「おっけ」
「ウォリス巡査!」
急な展開に呆けたようになってる巡査に呼びかけると、相手はビクッとなってから答えた。
「はい」
「ここでフブちゃん達をお願い。あたしたちのどっちかがやられたら、こっちに逃げ戻ってくるかもだから」
「了解しました」
「よし、行くぞ」
三人と別れると、あたしは積み上げられた木材や鉄骨を遮蔽に使いつつ、資材置き場を奥に奥に進んで行った。道中は拍子抜けするほど静かで、みんな奥の方に固まってるらしかった。
「あるいは、奥の塀を乗り越えてとっくの昔に逃げたかだな......おっ」
そう独り言ちたとたんに、バンバン、パンパンと銃声が何発も鳴り渡った。獅白が先についてドンパチ始めたらしい。
「やべえやべえ」
あたしは慌てて奥に向かった。銃声の数からして、三人はいる。いかに獅白でも、1vs3はあんまり優勢とは言えない。
一番奥にたどり着いてベニヤ板の山の角から窺うと、こっちに背を向けた三人の男たちが、各々ドラム缶やら鉄骨やらを遮蔽にしつつ奥の角に発砲しているのが目に入った。その角の向こうに獅白がいるんだろう。
こっちに全然注意を払ってないらしいのをいいことに、あたしは悠々と照準を付けて、一番こっち側にいた男のドタマをぶち抜いた。さらにもう一人に三発発砲して、ベニヤ板の山にさっと身を隠す。
悲鳴が上がって二人目が倒れ込む音がして、間髪入れずに銃声と、ベニヤ板に銃弾が飛び込むバスッ、ボスッって音がした。それでも、銃口をこっちに向けたのが命取りだった。獅白が最後の一人を仕留めたのはその直後、一発で頭を吹っ飛ばしてのことだった。
「いやあ、助かりましたよ」
ウチは救急車のテールゲートに腰かけて、ウォリス巡査からのお礼を聞いていた。といっても今回、ウチは主に足を引っ張っただけだ。ならず者たちを始末したのはポルカとぼたんちゃんだし、応援を要請したり、諸々の後に救急車や検屍官の手配をしたのもポルカだった、らしい。
ウチはさっき、目を覚ましたばっかりだ。
「手配中の逃亡犯でしてね、武装強盗の。そこの
一人で飛び込んでたら今頃警部補でしたよ、って洒落にならない冗談を飛ばすウォリス巡査に、ポルカが小さく笑いながら言った。
「こいつらは全部あんたの手柄だよ、ウォリス巡査。ポルカたちはジミー・ルブランクって泥棒の話を訊きに来ただけなんだ」
「ジミーですか? ああ、何年か前に
「相棒がいたの?」
ウチが割り込むと、ウォリス巡査はこっちに目をやって、思い出すようにしながら答えた。
「ええ、大男でしてね。追い詰めたんですが、バカでかい
「サーカスねえ......」
ポルカが露骨に厭そうな顔と声で、小さくそう言った。サーカスになにか、特別な思い入れとかがあるんだろうか。
ウォリス巡査には聞こえなかったらしく、ポルカの反応を気にするでもなく話を続けてる。
「その時ルブランクの奴が、"逃げろ、ウィリー!"って叫ばなきゃ、大人しくお縄に付いてたと思うんですがね」
「じゃ、そのウィリーってのは軽業師とか曲芸師とか、そう言うヤツだと思うってこと?」
この質問を厭がってたっぽいポルカに代わって、ウチがそう訊いた。巡査はちょっと考え込んでから答えた。
「いや......いや、もっと力を使うような商売だと思いますね。レスラーとか、ボクサーとか? そんなところかと」
「なるほど......参考になったよ。ありがとう、巡査」
「お礼を言うのはこっちですって」