H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Naked City #11

 

 

「KGPLから5K11。5キング11、どうぞ(カム・イン)

 

 サンセットとゴードンの角に駐めっぱなしにしてた捜査用車に戻ると、無線機がガーガー言いながら呼び出していた。あたしは助手席に滑り込んで、送話器を取る。

 

「5キング11です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「5K11、ビコウスキー刑事、殺人課(ホミサイド)がハリウッド警察署への帰署を要請しています。ランドール事件に進展ありとのことです」

「5K11了解。サンセットとゴードンの角から向かいます」

「KGPL了解。以上KGPL」

「だってさ、ミオしゃ。署に戻ろっか」

「うん」

 

 送話器を置きながら運転席のミオしゃに声をかけると、ミオしゃは言葉少なに応じてクライスラーを出した。

 

「ミオしゃ、大丈夫か? まだ辛いなら運転代わるけど......」

「大丈夫、大丈夫だよ、ポルカ」

 

 ミオしゃはさっと手を振って、あたしの申し出を打ち消した。ってことはつまり、

 

「......人質に取られたこと、引きずってる?」

「......」

 

 図星っぽいな。

 

「なあ、ミオしゃ。今回はさ、たまたまミオしゃが先陣切って飛び込んで行ったからああなっちゃったけど、あれはひょっとしたらウォリスだったかもしれんし、ポルカが運転してたらポルカだったかもしれないんだよ?」

 

 そもそもあたしたちが介入しなかったら、ウォリス巡査は――自分でも言ってたけど――袋叩きにされてたところだったし。

 

「だからその、要するにあんまり気に病むことないって。誰だって誰かしらに迷惑かけながら仕事してるんだし、警官は仲間思いだから、こういう時にはなんとか仲間を助けようとするやん? 今度ミオしゃがそっち側に立った時に、全力で同僚を助けようとすればいい。それだけの話じゃん?」

「そう、そう......だね」

 

 ミオしゃはちらっとこっちに目をやると、ふっと吹っ切るように息を吐いて言った。

 

「ありがと、ポルカ」

 

 

 

 

 

「マルから話は聴いたぞ」

 

 ハリウッド警察署に戻って通用口から署内に入ると、警務主任のデスクの前にいたビコウスキー刑事がミオしゃに話しかけてきた。

 

「ルブランクのモルヒネのこともな」

「そのルブランクなんですけど、ウィリーって名前の大男と組んで侵入盗(ノビ)をはたらいてたらしいんです。もう一人の下手人は、たぶんそいつです」

 

 ミオしゃが、ウォリス巡査から聴いた話のあらましを説明した。

 

「ボクサーかレスラー、か」

「です。なんで、ビコウスキー刑事の方で心当たりを回ってくれませんか? ジムとかYMCAとか、興行師とか」

「ああ、いいぞ」

「いいや、よくねえな」

 

 角を曲がってラスティ・ギャロウェイ刑事が現れて、口を挟んだ。承服しかねるというか、不機嫌そうな声音だ。

 

「いつから俺たちに命令できるような立場になったんだ、お嬢さん? それに、ノビなんて話はどこから出たんだ」

「それが、アーネットとの繋がりなんですよ」

 

 ミオしゃは失礼にならない程度に――ここの線引きが本当に上手だ。殺人課にいる間にラスティの扱いに慣れたんだろうか――ピシャリとそう言って、デスクの奥のレイシー巡査部長に声をかけた。

 

「レイシー巡査部長、今年の頭からの盗難手配書を見せてもらえる?」

「ああ、ちょっと待て」

「そのアーネットだがね、」

 

 ビコウスキー刑事が話を続けた。

 

「例の名刺の事務所はもぬけの殻だった。家賃と電話代の支払督促状が束になって郵便受け(ポスト)に突っ込まれてたよ。管理人によると、その事務所を訪ねてきたのは電話会社と俺たちだけだそうだ」

「しかもアーネットは逃げようとしてます。少なくとも、明後日の夜には」

「じゃあそいつをとっ捕まえて、吐くまでボコボコにすりゃあいいだろ」

 

 あたしとミオしゃは、揃ってラスティに胡乱な視線を投げた。

 

「人殺しを野放しにしとくってことですか、ギャロウェイ刑事?」

 

 今度こそミオしゃの声はトゲまみれだった。ミオしゃ、こんな声出せたんや......

 

「そのアーネットって奴も悪党なんだろう? ならそいつが逃げる前にひっ捕らえちまえばいい。どこの誰ともわからん大男も札付きなんだろう? その内別件でブチ込まれるさ。ほら、行くぞステファン」

「ああ、フィンバール」

 

 

 安葉巻を振ってラスティがそう言うと、ビコウスキー刑事が厭そうな顔で応じて、後について去って行った。後には二人を――というかラスティを――刺すような視線で睨むミオしゃとあたしだけが残った。

 

「......お二人さん? 手配書が準備できたが」

「おっと。ありがとう、巡査部長」

 

 レイシーの声に応じてミオしゃが振り向き、デスクの上に置かれた簿冊を開いて中の手配書をめくりはじめた。あたしも横からそれをのぞき込む。

 

「どう? ファベルジェの煙草入れ(シガレット・ケース)はありそうか?」

「......あった」

 

 三枚目くらいの手配書で、ミオしゃが手を止めた。

 

「ファベルジェの金製シガレット・ケース、今年四月にビバリー・イブストローム夫人方から盗難」

「イブストロームか。蓋の裏の刻印と一致するな」

「......それと、ブラック・サファイアの指輪が同じところから盗まれてる」

 

 ミオしゃが一枚下の手配書をめくって言った。

 

「メーカーは......ハリー・ウィンストン」

「ランドールの婚約指輪か」

 

 なら、あの指輪の送り主はアーネットか。あるいは、ヘンダーソンさんなる人物も一枚噛んでるのかもしれない。

 一方ミオしゃは手配書の束を繰って、他を確認している。

 

「......これもかな、セント・ヴィンセントの真珠の指輪。先週、S・コーエン夫妻方から盗難」

「自分の婚約指輪まで盗品かよ......」

 

 あたしは驚きを通り越して呆れかえってしまった。度胸があるのかアホなのか。

 

「こんなところかな......」

「ポルカにも見せて」

 

 ミオしゃからファイルを譲り受けて、ぱらぱらめくる。

 

「んー......これもかな。日本風の銀製薬箱、五月にクローフォード夫人方から盗難。ランドールの寝室にあったんだよ、睡眠薬と覚醒剤をしまい込んでたやつ」

「なるほどねえ。ウチはそれは見てなかったから」

「これくらいかな......いや、これもか」

 

 あたしは手配書を繰る手を止めた。

 

「なあミオしゃ、さっきアーネットが署に来た時に着けてた腕時計、覚えてる?」

「いや、あんまりよくは」

「そっか。ポルカは覚えてる、高価いやつだったからな。縁に綺麗な金細工が施された、ヴァシュロン・コンスタンティン*1の腕時計だった」

 

 とんとんと手配書を叩く。

 

「ヴァシュロン・コンスタンティンの腕時計。六月にジョンソン嬢方から盗難」

「盗品を身に着けて警察に出頭してきたって言うの!?」

 

 ミオしゃはほとんど素っ頓狂ともいえる声で叫んだ。

 

「そうなるな。よっぽどバカなのか......」

 

 バカなんだろう。ファベルジェの煙草入れ(シガレット・ケース)を、足元見られて600ドルで質入れしちゃうようなヤツだ。手配が掛かってるんだから質屋から通報されてもおかしくないのに、裏取引に回さずに表店を構えてるところに堂々と持ち込むようなヤツだ。

 

「とにかく、被害者から話を聴いて回るか。何か出てくるかもだし」

「そうだね。どこから行く?」

 

 あたしは手配書をめくって、上から三枚目を出した。

 

「......このイブストローム夫人ってとこからにしよう。まず、確定で辿れそうだからな」

 

 

 

*1
スイスの時計メーカー。日本での正式な商標は"コンスタンタン"だが、英語の発音に沿ってコンスタンティンとした

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