「どうなんです、見つかってないんですか?」
「いやあ、あの、先ほども言ったようにウチたちは盗犯課じゃないんで......」
ホーム・バーのところにいるメイドさんにブランデー・グラスを返しに行きながら、あたしはイブストローム夫人とミオしゃのやりとりを背中で聞いていた。夫人は声を、ギリギリヒステリックとは言えないレベルに抑えていたけど、それでもこうしつこく訊かれるのは億劫だ。
へどもどしつつも何とか対応しようとするミオしゃを眺めながら、あたしは先に酒を入れておいてよかったと思った。とてもじゃないけど、素面で取りなせるとは思えない。
グラスを返して、ミオしゃと夫人の間に入ろうとしたとき、
「ただいま、お母様!」
その声に、あたしもミオしゃもぱっと玄関ホールの方に振り向いた。あまりの急さに、イブストローム夫人がぎょっとした程だ。
というのも、その声にあたしもミオしゃも聞き覚えがあったからで、
「......こんにちは、刑事さん」
被害者の元同僚のヘザー・スワンセンさんが、居間に入って来てあたしたちを見るなり声のトーンを落として続けた。
「どうしてこちらに?」
「ウチからもちょうど、同じ質問をしようかと思ってたんですけど」
「娘とはもう、お知り合いなの?」
イブストローム夫人がスワンセンさんの横に立つと、スワンセンさんはまず夫人に、次いであたしたちに言葉少なに説明した。
「今朝、職場で会ったの......ええ、母と父が離婚して、私は父の苗字を」
「こちらの刑事さん達は、我が家から盗まれた品々をいくつか見つけて下さったのよ」
ミオしゃが謝ろうとしたのを遮ってイブストローム夫人が娘に言うと、スワンセンさんはぱっと顔を輝かせてあたしたちに訊いた。
「どれを見つけたんですか?」
「ハリー・ウィンストンのブラック・サファイアの指輪です。どこで見つけたか、お知りになりたいですか?」
「ええ勿論」
あたしがミオしゃの横に歩み寄りながらそう答えると、イブストローム夫人の方が興味津々と言った感じで返してきた。あたしは、スワンセンさんの方に身体を向けて答える。
「今朝、ジュリア・ランドールの死体に指に嵌まってるのを見つけました」
「どういうことなんですか?」
「その婚約指輪もです、スワンセンさん」
狼狽えたスワンセンさんの薬指を指しながら、畳みかけるようにして詰め寄る。
「それも盗難手配が掛かっている品なんですよ。ご存知でした?」
「とんでもない言いがかりよ! 何を根拠にそんな......」
「セント・ヴィンセントの真珠の指輪、同じものが先月盗難に遭ってます。そしてセント・ヴィンセントによればここ一年、あんたの
「ウチとしては、」
スワンセンさんがさらに言い返そうとしたのを、ミオしゃが静かに遮って続けた。
「一緒にアーネットのところまで来てもらって、ウチたち全員の疑問に洗いざらい答えてもらおうと思ってるんですけど、どうですか?」
「なんか見落としてる気がする......」
サンタ・モニカ
「アーネットが泥棒稼業で稼いでたのは間違いない。それに、ランドールさんがその片棒を担いでたのも間違っては無いはず」
混雑の中をノロノロ進む間に、ミオしゃは自分の考えを整理しようとしてるみたいだった。ただ、
「お忘れの様だけど、それは私の
暗に無礼だぞって意味を持った発言は、クライスラーの後部座席に乗ったスワンセンから発せられたものだ。ミオしゃはスワンセンのことを忘れてたのか、それとも聞かせるつもりで言ったんだろうか?
ミオしゃはスワンセンになにか返事をする様子はなかったから、あたしもその発言を無視してミオしゃに返した。
「ポルカもその線で間違ってないと思うな。じゃないと説明のつかないことが多すぎる」
「でしょ? でも、するとヘンダーソンさんってのが誰なのか......」
「二人とも、自分のアパートメントに連れ合いと、堂々と入って行くようなタイプじゃねえしな」
「ひどすぎるわ!」
鋭い、ほとんど悲鳴のような声が後部座席から飛んできた。
「よくもそんな妄想を......きっと、きっと全部説明がつくはず。理由があるはずよ!」
刺すような言葉の中に、あたしは怯えのような色を聞き取った気がした。自分が騙されていたのかもしれないって気が付きつつも、そうじゃなければいいって自分に言い聞かせているような、そんな調子だった。
いや、八割方はあたしたちに対する非難だろうけど。
「でもミオしゃ、あたしはちょっと、目をつけてる人はいるぞ?」
五十代後半で、威厳のある男性。心当たりのある人物は、今のところ一人だけだ。
ミオしゃがちらっとこっちに視線を送ってきた。ああ、同じ事考えてる目をしてるな。
「まあね。でもそれはアーネットか、あるいは本人の口から直接確認するまで保留にしとこう?」
「そうだな。それにしても、今日はえらく混んでんな......」
あたしはちょっと憂鬱な気分で、交差点の中央に立つ交通巡査を見るとはなしに見つめた。捜査用車はようやくバイン通りとの角に差し掛かったところで、ユッカ通りまでこの調子でずるずる行くようなら、今日はお昼だけじゃなくて晩飯すら食いっぱぐれちゃいそうな感じだった。