H.L. Noire   作:Marshal. K

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Fly High #2 ~Interval~

 

 

「KGPLから各局。救急隊より不審死体の通報が入電中。ドヤ街(スキッド・ロウ)近い局、どうぞ(アイデンティファイ)

「クソ、またか」

 

 念のためにくだんのカップルをアパートまで送り届けた後、あたしたちのパトカーがちょうど7番街とサンペドロ通りの交差点で信号待ちをしていると、無線が呼び出しを始めた。

 悪態をついてから送話器を手に取る。

 

「1アダム18は7番とサンペドロの角から」

「KGPL了解。KGPLから1アダム18、救急隊が不審死体を確認。場所、サンペドロ通り635番地、サンペドロ635。現場にて初動措置を執ってください。対処識別符号は2(コード・ツー)

「1A18了解。KGPL、検屍官には通報していますか」

「1A18、検屍官には救急隊から通報済みです。以上KGPL」

 

「すぐそこじゃん」

 

 送話器を置くのと獅白が話しかけてくるのは同時だった。

 

「確かにね。運がいいやら悪いやら」

「ほら、もう見えた」

 

 パトカーが7番街からサンペドロ通りへ左折すると、反対側の少し北に行った路肩にフォードの救急車が駐まっているのが見えた。

 獅白は大胆にも、対向車の隙を見計らって反対車線を逆走して、二台のフォードが鼻先をくっつけるようにして停めた。

 

「おまっ、こんな停め方して、出るときどうすんだよ」

「大丈夫大丈夫、次はおまるんに運転してもらうから」

「全然大丈夫じゃねえ!」

 

 言い合いつつパトカーから降りると、野次馬を遠ざけようとしている衛生巡査に獅白が話しかけた。

 

「シシロとオマル。中央署(セントラル・ディビジョン)。不審死だって?」

「ああそうだ。でもとりあえず、あんたらのパトカーからバリケードを持ってきてくれ。こいつらを遠ざけないことには、説明もできない」

「おまるん」

「わかってる」

 

 パトカーに戻ってトランクを開けると、組み立て式のバリケードを2組取り出した。

 獅白は一人で、あたしは衛生巡査と一緒に野次馬を押して歩道にバリケードを設置する。

 

「よし、こんなもんだろ。どっちかついてきてくれ、案内するから」

「ポルカが行く」

「じゃあ保存は任せて」

 

 制服の上から白衣を羽織った衛生巡査に続いて裏路地に入る。

 路地の真ん中に人間が倒れていた。すでに黒く変色して固まりつつある血だまりの中で、大の字でうつぶせになっている。

 その向こうにはバリケードが一つ置かれていて、これは救急車搭載のものみたいだ。

 死体を調べていた警察医の許可を取って仰向けにする。若い黒人だ。思った通り、顔は悲惨なことになっている。

 

「あの、この顔から人相がわかったりします?」

 

 警察医に聞いてみる。

 

「永遠に無理なんじゃないか」

「ですよね」

 

上着の懐を探ると財布が出てきた。紙幣は無いけど免許証が入っている。

 

「ウソだろ......」

 

 免許証はリチャード・パーネル名義だった。住所もさっき行ったばかりの、サンタモニカ大通り(ブールバード)のもので間違いない。

 

「こいつがどこから落ちたかわかります?」

「たぶんあそこの、開いてる窓じゃないかな」

 

 警察医の指を目で追うと、安宿の4階の窓の一つが開いていた。

 衛生巡査に言う。

 

「悪いんだけど、ポルカの相勤と代わってくれない? 上を見てきたいんだけど」

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、部屋がご入用で......なんだお巡りか」

「なんだとはなんだよ」

 

 低俗そうな見出しのロサンゼルス・デイリーニューズから顔を上げるまでは、こちらをお客だと思っていたらしい夜間受付係(ナイト・フロント)に不機嫌に返す。

 

「オマルとシシロ。中央署。そこの裏路地から見て、4階の左から三番目の窓は何号室?」

「4階の左から三番目? ......36号室かな」

「誰が泊まってる?」

「さあ、宿帳を確認しないと」

「やめときなおまるん」

「なんでさ」

 

 獅白を睨みつけると、涼しい顔で返された。

 

「こういう安宿は、宿帳にまともな名前や住所を書くようなヤツは泊まってないよ」

「こっちの姐さんはよくわかってるね」

 

 にやつく受付係に巡査ね、と返して獅白が続ける。

 

「じゃあ、あたしたちが合鍵を借りても問題ないよね?」

「それは......」

「それとも、保安係の誰かに借りに来てほしい?」

 

 一転して渋面になった受付係が、鍵箱から鍵を取り出してこちらに放った。獅白が左手で受け取ってそのまま階段に向かう。

 面倒ごとは御免だぞ、という受付係の声を背に、あたしも獅白の後に続いた。

 

 階段はひどい臭いだった。こういうところではどこでもする茹ですぎたキャベツの臭いが、強い下水の臭いに負けている。壁の中の下水管が破れてるんじゃないかとあたしは疑った。

 やっぱり保安係を呼んだほうがいいのかもしれない。

 壁は全体的に薄っぺらで、2階からは飲兵衛たちが気勢を上げる声が響き渡り、3階では盛りの付いた男女(男女とは限らないかもしれないけど)の嬌声が響いていた。

 4階に着くころにはあたしの顔は阿修羅のまがいものみたいになってたと思う。

 ふと、獅白が立ち止まってあたしはその背中にぶつかるところだった。

 

 36号室のドアは開いていた。

 獅白の無言の合図で前後を代わり、拳銃を抜いてドア脇の壁に背をつける。

 左手の指で三からカウントして、ゼロで背の低いあたしが身を屈めながら入室する。同時に背の高い獅白がカバーに入って叫んだ。

 

ロス市警(LAPD)だ! 部屋に入るぞ!」

 

 隣室で誰かがベッドから落ちたらしい音がしたけど、それは無視して室内の安全確認をして回る。といっても、入った時点から人気がないのが丸わかりではあったけど。

 

「......誰もいないな」

「こっちも無人」

 

 戸口からは死角になっているベッドコーナーを覗き込んで言うと、反対側の洋服箪笥(ワードローブ)の中を確認した獅白が返した。

 

「しっかしこれは、ずいぶんキナ臭くなってきたね」

 

 荒らし回られて、さながらハリケーンが通った後のようになっている部屋を見回して、獅白が言った。

 床の上で粉々になっている卓上灯の残骸を見ながらあたしは返した。

 

「合鍵はいらなかったけど、あの受付係には面倒ごとが増えたな。これ、誰が弁償するんだろ」

 

 

 

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