「わあ......これはすごいな」
――運送船クールリッジ積載
需品物資
合衆国第10陸軍経理部――
ずらされている蓋の奥から白い箱が見えている。手に取って取り出してみると、バラー・タバコのカートンだった。
「このクレートの大きさなら100カートン分くらいかな......それにこっちは」
木箱の奥には、ナイト・クラブにはまるで似合わない銃掛が置かれていた。しかも大きな小銃が三丁、架台に並んでいる。
内の一丁を手に取って、刻印を読んだ。
「M1918......
仮にオーナーのマクゴードリックに狩猟の趣味があったとしても、これは高火力過ぎる。
ダストカバーを外して、薬室と銃腔をのぞき込む。綺麗だ。
「煤はないし、ガンオイルでピカピカ......機関部もしっかりグリス塗りしてある」
お手入れが行き届いているというよりは、一度も撃ったことがないって感じだ。
「署に戻って、クールリッジから何が盗られたのか確認しといた方がいいな......」
「マクゴードリックはこのクラブを、盗品を捌く隠れ蓑にしてたのかな」
ただ、ここにモルヒネはなかった。別の場所で扱ってたのか、それとも襲撃犯たちが持ち去ったのか。
倉庫から出ると、舞台の上にミオがいた。舞台の上ではもう一人のバンドマンが死んでいて、ミオはその傍らにあった楽器ケースを調べているところだった。
「んお、ミオ」
「お、フブキ。このケース見た?」
「んにゃ、まだ」
歩み寄っていくと、ミオはちょっと得意げな顔をしてケースの方に手振りした。
「見てて......」
そう言って屈みこむと、
――カチッ
掛け金が外れる音がして、ケースの横から隠し抽斗がさっと飛び出した。
「うわっ。凝った仕掛けだね」
「だねえ。このケースだけで中のトランペットの倍はしそうだけど。問題はそれよりも中身」
そう言ってミオが取り出したのは未使用のモルヒネシレットだった。のぞき込むと、銀色の皮下注射器も一緒に入っている。
「これならいつでもどこでも、好きな時に一発キメられるわけだね......
「うん......話を要約すると、エディはここを何か、裏取引の隠れ蓑に使ってたみたい」
「へえ?」
先を促すと、ミオはメモをちらっと確認してから続けた。
「エディは半年前に、前のオーナーに一生遊んで暮らせるような大金を渡してこのクラブを購入。その直後から
「その裏の倉庫だけど、お宝の山だったよ」
「お宝?」
「バラー・タバコが数百カートン、まっさらのBARが三丁」
「それって......」
目を細めたミオに頷き返して続ける。
「煙草はクールリッジのクレートに入ってた」
「なるほど。退役海兵隊員なら、クールリッジ強盗に犯人と面識があってもおかしくないねえ......モルヒネは?」
「無かったよ。持ち去られたのか、ここでは扱ってなかったのか」
「あっちの支配人室でエディが死んでて、そこに金庫があったんだよ」
ミオが急に話題を変えた。
「襲撃があった時にエディが手紙か何かを焼いたみたいなんだけど、金庫が開けっ放しだったんだ。三万ドルくらい残されてたよ」
「煙草のクレートはかさばるからともかく、現金はそのまま?......じゃあモルヒネはここには無かったのか」
物盗りなら現金くらい一緒に持っていくはずだ。他の物が目的だった。あるいは、他の事が。
「とはいえ、モルヒネ取引に関与しててもおかしくはなさそうだね。だからハチの巣にされたのか......そんなことしそうな人、白上は一人くらいしか思いつかないなあ」
「奇遇だねえ、ウチもだよ」
こんなアル・カポネ*1みたいな荒っぽいことをするのは、一人くらいしかいない。ミッキー・コーエンだ。
「どうする、フブキ? ミッキー・Cの所在を調べられそうなアテとかある?」
「一応あるよ......それも含めて、一旦署に戻ろっか。何が盗まれたのか、もう一度確認しときたいしね」
お昼前のハリウッド警察署に戻ると、通用口周りの記者さんたちが倍近く増えていた。きっとパサデナの判事さんの死因が公表されたんだろう。通用口をくぐる私たちにまとわりついて、口々に質問を飛ばしてくる記者さんたちをゴンザレス巡査が引きはがしてくれた。
心なしかいつもよりも騒々しい感じの署内を抜けて二階に上がると、盗犯課の事務室に入る。
「コールドウェル刑事、久しぶりです」
「ああ、シラカミ刑事。それにオオカミ刑事も。今は風紀課だったか?」
ハリー・コールドウェル刑事は盗犯課にいた時、私たちの指導役を務めてくれた刑事だ。
「ええ、そうです。ちょっと伺いたいんですけど、クールリッジの事件は今、誰が担当ですか?」
「俺とマクナマスだよ。マクナマスはいま出てるが......どうした?」
「111クラブで
「冗談じゃないんだな?」
火を点けたばかりの煙草を灰皿に突っ込んで、コールドウェル刑事は続けた。
「俺も行ったほうがよさそうだ」
「先に入港表を見せてもらえますか?」
「ああ、これだ。好きに見といてくれ」
デスクの抽斗から簿冊を取り出して机上に放ると、コールドウェル刑事は慌ただしく事務室を出て行った。