H.L. Noire   作:Marshal. K

173 / 250
Manifest Destiny #3

 

 

「えーっと、この赤丸が付いてるのが盗品だね......」

 

 ロサンゼルス港務局の入港表(マニフェスト)の写しをめくって、フブキが呟いた。

 

M1短機関銃(トミーガン)が400丁......ブローニング自動小銃(BAR)が300丁......バラー・タバコが880カートン......モルヒネが簡易注射器(シレット)五十万本分、か」

「改めて見ると、すごい数だねえ......」

「エディが捌いてたのも、氷山のほんの一角みたいだね......あれっ」

 

 フブキが入港表を繰る手を止めて、素っ頓狂な声を上げた。

 

「どしたの、フブキ?」

「......マクゴードリックの名前がある」

「えっ!?」

 

 ウチはフブキの肩越しに入港表を覗き込んだ。

 開かれていたのは乗船名簿のページだった。確かに、マクゴードリック、軍曹エドワードって軍隊式の記載がある。

 

「となると、話が変わってくるね。マクゴードリックは窃盗犯と知り合いだったってよりかは......」

「窃盗犯の一味だった、ってこと?」

 

 フブキが小さく頷いて続けた。

 

「その可能性が出てきたね。エディの聴取内容を聞いてみたかったけど......」

 

 フブキはちらっと事務室のドアに目をやった。担当のコールドウェル刑事は、ついさっき111(ワン・イレブン)クラブの盗品を見に駆けだして行ってしまった後だった。

 

「ま、しかたないか。次の心当たりに行ってみよう」

「次って?」

 

 ウチの質問に、フブキは椅子から立ち上がりながら返した。

 

「風紀課の事務室」

 

 

 

 

 

「あ、いたいた。ぼたんちゃん」

 

 風紀課の事務室に入ったフブキがそう声をかけると、デスクの一つで用箋を前に難しい顔をしていたぼたんちゃんが顔を上げた。

 用箋の様式に、ウチは見覚えがあった。捜査経費の請求書だ。

 

「なんですか」

「ちょーっと、折り入ってお願いがあるんだけどね」

「はあ」

「ミッキー・コーエンにちょっと話を聴きたいんだけど、どこで会えるかな」

「ミッキーですか。またどうして」

 

 理由を聞こうとしたぼたんちゃんは、すぐに手を上げて続けた。

 

「いや、やっぱいいです。えーとね......この時間帯ならモカンボってクラブでお昼食べてると思いますよ」

「モカンボね......それと、よければ付いて来てもらえたりしないかな......?」

 

 流石にそこまで、とウチは思ったけど、ぼたんちゃんは気にする風もなくすっと立ち上がった。

 

「まあ、お二人が行っても会わせてはもらえないでしょうしね、いいっすよ。おまるん、ちょっと席外すね」

「ごめんねポルカ、相勤借りるよ」

 

 ウチが書類の山の向こうに声をかけても特に返事はなくて、代わりに手が一本にゅっと突き出されて、ゆらゆらと振られた。

 

「......とまあ、御覧の通りおまるんが書類に埋もれてたんで、あたしは今日一日暇だったんですよ。連れ出してくれてあざっす」

 

 廊下に出るなり、ぼたんちゃんは茶化すようにそう言って続けた。

 

「どっちの捜査用車で行きます? あたしのか、フブキ先輩のか?」

「白上が自動車を出すよ。そこまでさせちゃ悪いし」

 

 

 

 

 

「あ、そこで路肩に寄せてください」

 

 クラブ・モカンボはハリウッド大通り(ブールバード)沿いに店を構えていた。ぼたんちゃんの指示に従ってフブキがクライスラーの捜査用車を路肩に寄せると、緑のお仕着せに身を包んだドアマンがすばやく助手席のドアを開けた。

 そしてその顔をぱっと顰めて言った。

 

「失礼ですがお嬢様、こちらのクラブは――」

白人専用(WHITE ONLY)。知ってるよ」

 

 ぼたんちゃんがするりと捜査用車から降りた。警察官(バッジ)を出して続ける。

 

ロス市警(LAPD)。警察の公務で来たから、通してもらうよ」

「ちょ、ちょっと、困ります」

 

 すたすたと玄関に向かうぼたんちゃんに、ドアマンが追いすがって行った。それをいいことにフブキはそのまま駐車(パーキング)ブレーキをかけると、運転席から降りた。ウチも同時に後部座席から降りて、モカンボの玄関ホール(ホワイエ)に入って行く。

 

「申し訳ありません、給仕長。止めたのですが......」

 

 ホールに入ると、ぼたんちゃんは案内台に立っていた給仕長のところに行っていた。ドアマンが上司に、闖入を許した言い訳をしている。

 

ロス市警(LAPD)の獅白刑事です。"3番テーブルのお客さん"に用があるんですけど、今ここにいらっしゃいますよね?」

「失礼ですが、お嬢様」

 

 緑のタキシードを着こんだ給仕長が、厳しい声で言った。広い額に青筋が浮き掛かっていて、あきらかに機嫌は良くない。

 

「本クラブは白人の紳士の方の......」

「専用施設、知ってますよ。だからあたしたちを、どこか静かにお話できるところに案内してもらえますよね?」

 

 そう言って、ぼたんちゃんは給仕長の手を両手で握った。給仕長の目が手の方に向かって、眉毛が一瞬ピクリと動くのが、ちょっと離れたウチにもよく見えた。

 

「......リチャード、持ち場に戻りなさい。デイブ」

 

 給仕長はドアマンを下がらせると、ちょうど通りかかったボーイの一人を呼び止めて続けた。

 

「こちらの......お嬢様方を応接室へ」

「はい。どうぞ、こちらへ」

 

 ウチはボーイさんについて二階に上がる途中で、ふと振り返った。給仕長さんがぼたんちゃんに握られた手を、握りしめたままするりとポケットに突っ込むのを、ウチは確かに見た。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。