「5キング44からKGPL宛」
あたしは捜査用車の助手席から、送話器を引っ張りだして無線にそう言った。
「ブロンソン通り南半分の民間人の避難誘導は、おおむね完了。道路封鎖に6アダム19及びターナー巡査を残し、コワルスキー巡査と6アダム116号車の援護に入る。以上5K44」
返事を待たずに送話器を車内に投げ戻したところで、借り物のキャデラックの後ろにもう一台の捜査用車が急ブレーキをかけて停まった。
助手席からミオしゃがぱっと降りてきて、あたしに声をかけた。
「ポルカ、状況は」
「あっちのロビンソンの屋上に、狙撃手がいる」
あたしはそう言って、ブロンソン通りの北の方を指した。通りのあちこちに、市民たちが銃声に驚いて乗り捨てて行った自動車が点在している。その向こう、ロビンソン・ビルの向かい辺りにバスが一台停まっていて、それをかばうようにパトカー116号車が停車していた。
「ロビンソン・ビルは逆コの字型になってて、狙撃手はその一番奥まったところにいるっぽい」
「わかった。非常階段は?」
「......ちょうど真裏にあった」
あたしはさっき、ロビンソン・ビルの真裏でも道路封鎖に当たったから、その時に見たビルの裏手を思い出しながらそう答えた。
「よし。じゃああたしとおまるんが前に出ますよ」
サラトガの後部座席から降りてきた獅白がそう言った。
「先輩は裏から回って、後頭部をぶん殴って来てください」
「あはは。これで殴ったらぐしゃぐしゃだろうね」
フブちゃんが、獅白の背後から
「それじゃ、お願いします......んでおまるん、あのバスの中は?」
フブちゃんとミオしゃが走り去ると、獅白はさっと表情を変えて訊いた。
「やっぱ気づいたか。危なすぎるから、バスの車内に留めてる」
そう、狙撃手はさっきから執拗にバスを撃っていた。もちろん警官に対して応射もしていて、ついさっきカーバー巡査がぶっ倒れたところだけど、そんな状況だから乗客と運転手には車内に留まってもらってたんだ。
「つってもあのバスは戦車じゃねえし、トーチカでもねえ。もう怪我人が出ててもおかしくは......」
「よし。じゃあ二人で暴れようか」
獅白はにんまり笑ってそう言った。
「的を分散させてやろうじゃん」
「よし、たぶんこれだ!」
J.W. ロビンソン・ビルディングの裏手にたどり着くと、私は後続のミオにそう叫んだ。非常階段は建物に何か所かあったけど、真裏に位置しているのは一つだけ。これがポルカが言ってた非常階段だろう。表からはダッダッダッと
私はイサカを負い紐で肩にかけて、ぱっと非常階段に飛びついた。梯子をよじ登って二階の踊り場に上がると、船のラッタル並みに急傾斜の階段を上へ上へと上がっていく。
屋上に着くと、私はまず耳の先を、次いで顔をそっと屋上に出した。
屋上の真向かい、正面広場に面した縁のところに男が一人、寝撃ちの姿勢で伏せていた。広場と道路の方にBARの弾丸をまき散らすのに忙しいらしくて、こっちに気付いた様子はない。
私は手早く非常階段を上りきると、ひざをついてイサカを構えて、男の方に叫んだ。
「
相手は首をひねってこちらを確認するなり、BAR毎こっちを向こうとした。そんなことされたら私が取る行動は一つに決まってる。私は引き鉄にかけて、ギリギリまで引き絞っていた人差し指にもう少しだけ力を加えた。
「がああああああ!!!!」
男は悲鳴を上げつつも、なおこっちに銃を向けようとする。私が槓桿を引いている間にミオが躍り出て、
「これ、盗品のBARだ」
十数分後、私は男の手から得物をもぎ放してそう言った。ミオの方にそれを見せる。
「ほらここ、製造番号の刻印があるでしょ。入港表に書いてあったのと同じだよ」
「そっか......うん、やっぱりこいつはコーエンの手下みたいだね」
ミオの方はというと、死んだ男の懐から抜き取った手帳を見ていたけど、それを開いたままこっちに渡してきた。銃を地面において、手帳の中身を見る。
――クラブ・モカンボ 3番テーブルに電話
フェリックス・アルヴァロ オール・アメリカン217号車
午後一時、ハリウッドとサンセットの角――
「オール・アメリカン217......じゃあ狙いはあのバスだったんだ」
「みたいだね。それとこれも」
ミオが折りたたまれた紙を渡してきた。その紙は、もともとこの手帳に挟んであったものらしい。広げて目を通す。
「......これって」
「入港表のコピーだよ」
昼前にコールドウェル刑事に見せてもらった入港表の、乗船名簿のコピーだった。本来赤いインクで押される市警の複写証印が黒くなっているから、正規のコピーを更にコピーしたものみたいだ。
「証印の位置からして、コールドウェル刑事のじゃないみたいだね。でもこいつがこれを持ってるってことは」
「内通者がいるってこと、だね」
ミオが憂鬱そうな声で言った。
「うげえ......誰かに報告すべきなんだろうけど、とりあえずこの名簿の意味を探ってみようか」
間違って内通者本人に報告してしまったら、元も子もないからだ。
名簿には赤ペンで、いろいろな書き込みがされていた。全員の横に会社名とか住所がズラズラと書き連ねてある。勤務先らしい。
何人かの名前は線を引いて抹消されていた。
「でも丸で囲われてる名前も多いな。ドリスコール、軍曹マイケル。アルヴァロ、上等兵フェリックス――この人がターゲットかな――。ベケット、軍曹ウォルター。ケルソー、曹長ジャック。シェルドン、上等兵コートニー。マジョウスキー、上等兵クリストファー。ヒギンズ、伍長ジョン。コノリー、伍長パトリック」
そしてマクゴードリック、軍曹エドワードは、丸が付いたうえで線も引かれていた。たぶん、もう殺したから。ミオも同じ結論に達したらしく、おもむろに口を開いた。
「ウチが思うに、この名簿を手に入れた誰かさん――十中八九コーエンだと思うけど――は、この丸が付いてる人たちをモルヒネ強盗と睨んでる、ってとこじゃないかな」
「たぶんね。んで、一人ずつ殺して回って、怖気づいた誰かが口を割るのを待ってるんだ」
私は目をあげると、はるか眼下のバスに視線を投げて続けた。
「これによると、アルヴァロ上等兵の勤め先はロサンゼルス電鉄バスってなってる」
「てことは、あのバスの運転手さん? そっか、それならどの便に乗務してるのか調べれば、待ち伏せは簡単になるわけか」
ミオが手帳を見つめて苦々しくそう言った。
「とにかく、アルヴァロに話を訊いてみよう。何か知ってるかもしれないし」
「そうだね。コーエンも流石に何の根拠もなしに、白昼堂々こんな襲撃をするよう命じるわけもないしね」
ミオは入港表のコピー――名前と勤め先はしっかりメモした――と手帳を男の懐に戻すと、ゆっくり立ち上がった。
「早く止めなきゃだ」