「失礼します、フェリックス・アルヴァロさん?」
路上のバスはハチの巣状態だった。ロビンソン・ビル側の窓は全部割れて、タイヤはぺしゃんこになっている。
「ああ、そうだけど」
「
警察官
「いくつか伺いたいことがあるんですけど」
「またかよ」
アルヴァロはうんざりした表情で続けた。その喋り方はいかにもヒスパニック系なスペイン訛りだった。
「いいかい、俺の一家はもう、三百年も前からカリフォルニアに住んでるんだよ。だってのにこんな、バスをハチの巣にされて、それだけでも災難なのに今度はあんたらお巡りときたら、俺を
「従軍されてたんですよね? 先の戦争に」
タイミングを見計らって、ウチは口を挟んだ。まさにそれを言い出そうとしてたらしいアルヴァロの目が輝いた。
「知ってんのかい」
「ええまあ。海兵隊ですよね?」
「ああ、第六海兵連隊だ。上等兵だった」
「すると、オキナワにいらしたわけですよね。どの船で引き揚げましたか?」
「えっと......どの船だっけな」
「......ウチたちが持ってる資料によると、運送船クールリッジに乗ってたんですよね?」
ウチがジトっとした目でそう訊くと、アルヴァロはふうっと息を吐いて言った。
「ああそうだよ」
「では、モルヒネ強盗のことについてなにか、知ってることはありませんか」
フブキが変わらず、冷静な口調で訊いた。一方アルヴァロは、急に制帽の庇の縁が気になりだしたらしい。
「あー、いや。話には聞いたが。あんたらお巡りが大勢乗って来て、俺もおっかないクマの刑事に話を訊かれたけど。でも、俺は何も知らんぜ」
「なるほど」
全然なるほど、とは思ってない声でフブキは続けた。
「それじゃあ、誰に撃たれたかも心当たりはない?」
「なんだって、心当たりがねえといけねえんだ?」
「へえ。ところで、なんでウチたちがあんたの名前を知ってたと思う、アルヴァロ?」
敬語を抜いたウチの口調に顔を顰めつつ、アルヴァロは現場保存バリケードのところに立っているレイシー巡査部長の方に目をやった。
「それは、あそこの
「上のヒットマンはミッキー・コーエンの手下だったんよ、アルヴァロ。手帳にあんたの名前が書いてあった。何をどうしたら正義の海兵隊員が、ギャングスターに命を狙われるようになるんよ?」
「......コーエンは、俺が例の船に乗ってたから、モルヒネ強盗に関りがあるって睨んでるんだろうよ」
声のトーンが数段低くなって、アルヴァロはそうボソボソと喋った。
「聞いた話じゃ、他にも脅しを受けたってやつがいたみたいだった。それでコートニーが、コーエンに会って話をつけたって噂なんだ」
「コートニー......コートニー・シェルドン上等兵?」
手帳を繰って、フブキが確認した。
「ああ」
ウチは答えるアルヴァロの表情をじっと観察していた。
話の筋は一応通ってはいる。コーエンの勘違いで、アルヴァロは本当に強盗とは無関係かも知れなかった。
一方でウチのカンは、アルヴァロが隠し事をしていると喚き立てていた。ただ、証拠は何もない。
ちらっとこっちに視線を飛ばしてきたフブキに頷き返すと、フブキは手帳をしまいながら言った。
「ご協力ありがとうございました、アルヴァロさん」
「どう思う、フブキ?」
アルヴァロとバスから十分に離れるやフブキにそう訊くと、フブキはふるふると頭を振って答えた。
「たぶん、まだ隠し事してるね。それもモルヒネ関係に一票」
「ウチも一票」
「なら、白上はシェルドンに話を訊いてみたいな」
フブキが再び手帳を取り出して、ページを繰りながら続けた。
「強盗事件の時の聴取内容から判断する限り、そういう役割はどっちかっていうとケルソーの方が適任だと思うんだ。なのにコーエンとの話し合いに臨んだのはシェルドンだった」
「加えて言えば、さっきの名簿のケルソー曹長のところに丸がついてたの。ウチはあれも気になるんだけど」
「モルヒネ強盗にケルソーが関与してるとコーエンが睨んだ、ってことなんだろうけど......そうだね、白上的にも話を聴く限りじゃ、曹長はそういうのに関わるタイプじゃなさそうだよね......うげ」
シェルドンの勤め先を確認してたらしいフブキが、自動車に撥ねられたカエルみたいな声を上げた。
「どした?」
「シェルドンの勤め先だけど、
「うっわ、遠いね」
学生さんなら、講義の関係で今日は家にいるかもしれない。職員さんなら、間違いなく大学にいるだろうけど。
「うーん......仕方ないから、シェルドンのことはウェスト・ロサンゼルス
「そうだね、こっちの署まで連れてきてもらおっか。じゃあ、次はケルソーのところに行ってみるかい?」
「そうしよう。ケルソー曹長の勤め先は?」
フブキは再びメモに目を落として答えた。
「カリフォルニア火災生命保険株式会社。ウィルシェア、南バーモント通り505番地」