H.L. Noire   作:Marshal. K

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Manifest Destiny #7

 

 

「失礼します、フェリックス・アルヴァロさん?」

 

 路上のバスはハチの巣状態だった。ロビンソン・ビル側の窓は全部割れて、タイヤはぺしゃんこになっている。黄褐色(カーキ)と赤の制服制帽姿の運転手が、煙を上げるエンジンの様子をのぞき込んでいて、フブキが丁重にそう訊いた。

 

「ああ、そうだけど」

ロス市警(LAPD)の白上刑事と大神刑事です」

 

 警察官(バッジ)を掲げて、フブキが続ける。

 

「いくつか伺いたいことがあるんですけど」

「またかよ」

 

 アルヴァロはうんざりした表情で続けた。その喋り方はいかにもヒスパニック系なスペイン訛りだった。

 

「いいかい、俺の一家はもう、三百年も前からカリフォルニアに住んでるんだよ。だってのにこんな、バスをハチの巣にされて、それだけでも災難なのに今度はあんたらお巡りときたら、俺をメキシカン・ギャング(パチューコ・パンク)みたいに扱いやがって。いいか、俺は......」

「従軍されてたんですよね? 先の戦争に」

 

 タイミングを見計らって、ウチは口を挟んだ。まさにそれを言い出そうとしてたらしいアルヴァロの目が輝いた。

 

「知ってんのかい」

「ええまあ。海兵隊ですよね?」

「ああ、第六海兵連隊だ。上等兵だった」

「すると、オキナワにいらしたわけですよね。どの船で引き揚げましたか?」

「えっと......どの船だっけな」

「......ウチたちが持ってる資料によると、運送船クールリッジに乗ってたんですよね?」

 

 ウチがジトっとした目でそう訊くと、アルヴァロはふうっと息を吐いて言った。

 

「ああそうだよ」

「では、モルヒネ強盗のことについてなにか、知ってることはありませんか」

 

 フブキが変わらず、冷静な口調で訊いた。一方アルヴァロは、急に制帽の庇の縁が気になりだしたらしい。

 

「あー、いや。話には聞いたが。あんたらお巡りが大勢乗って来て、俺もおっかないクマの刑事に話を訊かれたけど。でも、俺は何も知らんぜ」

「なるほど」

 

 全然なるほど、とは思ってない声でフブキは続けた。

 

「それじゃあ、誰に撃たれたかも心当たりはない?」

「なんだって、心当たりがねえといけねえんだ?」

「へえ。ところで、なんでウチたちがあんたの名前を知ってたと思う、アルヴァロ?」

 

 敬語を抜いたウチの口調に顔を顰めつつ、アルヴァロは現場保存バリケードのところに立っているレイシー巡査部長の方に目をやった。

 

「それは、あそこの軍曹(サージェント)、じゃない巡査部長(サージェント)さんに聞いたんじゃないのか?」

「上のヒットマンはミッキー・コーエンの手下だったんよ、アルヴァロ。手帳にあんたの名前が書いてあった。何をどうしたら正義の海兵隊員が、ギャングスターに命を狙われるようになるんよ?」

「......コーエンは、俺が例の船に乗ってたから、モルヒネ強盗に関りがあるって睨んでるんだろうよ」

 

 声のトーンが数段低くなって、アルヴァロはそうボソボソと喋った。

 

「聞いた話じゃ、他にも脅しを受けたってやつがいたみたいだった。それでコートニーが、コーエンに会って話をつけたって噂なんだ」

「コートニー......コートニー・シェルドン上等兵?」

 

 手帳を繰って、フブキが確認した。

 

「ああ」

 

 ウチは答えるアルヴァロの表情をじっと観察していた。

 話の筋は一応通ってはいる。コーエンの勘違いで、アルヴァロは本当に強盗とは無関係かも知れなかった。

 一方でウチのカンは、アルヴァロが隠し事をしていると喚き立てていた。ただ、証拠は何もない。

 ちらっとこっちに視線を飛ばしてきたフブキに頷き返すと、フブキは手帳をしまいながら言った。

 

「ご協力ありがとうございました、アルヴァロさん」

 

 

 

 

 

「どう思う、フブキ?」

 

 アルヴァロとバスから十分に離れるやフブキにそう訊くと、フブキはふるふると頭を振って答えた。

 

「たぶん、まだ隠し事してるね。それもモルヒネ関係に一票」

「ウチも一票」

「なら、白上はシェルドンに話を訊いてみたいな」

 

 フブキが再び手帳を取り出して、ページを繰りながら続けた。

 

「強盗事件の時の聴取内容から判断する限り、そういう役割はどっちかっていうとケルソーの方が適任だと思うんだ。なのにコーエンとの話し合いに臨んだのはシェルドンだった」

「加えて言えば、さっきの名簿のケルソー曹長のところに丸がついてたの。ウチはあれも気になるんだけど」

「モルヒネ強盗にケルソーが関与してるとコーエンが睨んだ、ってことなんだろうけど......そうだね、白上的にも話を聴く限りじゃ、曹長はそういうのに関わるタイプじゃなさそうだよね......うげ」

 

 シェルドンの勤め先を確認してたらしいフブキが、自動車に撥ねられたカエルみたいな声を上げた。

 

「どした?」

「シェルドンの勤め先だけど、南カリフォルニア大学(USC)になってる」

「うっわ、遠いね」

 

 学生さんなら、講義の関係で今日は家にいるかもしれない。職員さんなら、間違いなく大学にいるだろうけど。

 

「うーん......仕方ないから、シェルドンのことはウェスト・ロサンゼルス(ディビジョン)に任せようか」

「そうだね、こっちの署まで連れてきてもらおっか。じゃあ、次はケルソーのところに行ってみるかい?」

「そうしよう。ケルソー曹長の勤め先は?」

 

 フブキは再びメモに目を落として答えた。

 

「カリフォルニア火災生命保険株式会社。ウィルシェア、南バーモント通り505番地」

 

 

 

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