H.L. Noire   作:Marshal. K

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Manifest Destiny #10

 

 

「KGPLからハリウッド管内各局、並びに5キング11宛」

 

 サイレンの威光と交通巡査の手信号で、サンセット大通り(ブールバード)からウィルコックス大通り(ブールバード)に捜査用車が曲がったところで、無線がガーガー言いながらそう呼び出した。

 

「先着の6A88号車から、現場概要の報告があります。被疑者は複数、いずれも男性、正確な人数は不明。いずれも武装しており、銃撃による抵抗を受けているとのこと。本指令傍受各局、並びに5K11は現場到着次第、被疑者の速やかな逮捕、制圧にあたられたい。以上KGPL」

「フブキ、パトカーの前に!」

 

 すでに前方、セルマ通りとの交差点の北に、パトカーが三台停まっているのが目に入った。その内のどれかから降りたらしい制服巡査の一人が撃ち倒されるのを見て、ウチは反射的にそう叫んだ。

 フブキは特に返事はしなかったけど、ウチの意図を汲んだらしく斃れた巡査の楯にするように捜査用車を停めた。キーッという急ブレーキの音に続いて、急遽的になったクライスラーのボディに弾が当たる、ガンガン言う音が車内に響き始める。

 ウチは郵便局とは反対側の助手席ドアを開けて捜査用車から降りた。その後からフブキが、頭を下げながら這い出て来る。

 アール・デコ建築の巨匠、クラウド・ビールマンが手掛けた郵便局の庁舎からは、けたたましい非常ベルの音が鳴り響いている。そしてウチがざっと見たところ三人の男が、正面玄関の三つのドアに一人ずつ張り付いてこっちに銃を撃って来ていた。いずれも拳銃で、M1軽機関銃(トミーガン)とかブローニング自動小銃(BAR)を持ってるやつはいないみたいだ。

 様子を見ている間にフブキが、身を隠していたエンジン部から身を乗り出して一人撃ち倒した。

 

「おっと、ウチも負けてらんねえ」

 

 手許の45口径陸軍制式自動拳銃(コルト・アーミー)のトリガー・セーフティを外して、まず耳を、次いで目を後部フェンダーの陰から出して相手方を伺う。向こうのヘイトは目下、再度クライスラーのエンジン部に隠れたフブキに向いてるみたいだ。重畳重畳。

 ぱっと捜査用車の陰から飛び出して、狙いを付けていた一人に三発撃った。あがああああ!!と汚めな悲鳴が上がって――こういう状況で綺麗な悲鳴を聞くようなことって滅多にないけど――二人目が斃れる。さらに後ろから、勇敢にも遮蔽なしで走ってきた巡査が見事に三人目を撃ち倒した。

 

「よし、局内を確認するよ、ミオ!」

「りょーかい!」

 

 ウチとフブキ、そしてさっきとは別の巡査が、銃を構えたまま三つそれぞれの玄関に向かっていく。正面の階段を上りきったところで、ロビーのカウンターの奥で人影が動いた。

 ウチとフブキがまず動いて、遅れて巡査がドア脇の柱の陰に隠れる。さっきよりも鈍い、バアンって銃声と窓ガラスが粉々に割れる音が響いて、フブキの周りにガラス片が舞い散った。

 

「フブキ!」

「だいじょぶ!」

 

 フブキが左手で、こっちに親指を上げて見せる。ちょっと安心したけど、状況は安心できない。カウンタ―の向こうから撃ってきてるのは、どうやら散弾銃(ショットガン)らしい。さっきから散弾(ペレット)がヒュンヒュン音を立てて、ウチやフブキの真横を通り抜けていた。でも散弾銃にも欠点はある。具体的には、再装弾に時間がかかることとか。

 装弾のために銃撃が止んだ隙をついて、ウチとフブキは柱の陰から出てカウンターの方に銃を向けた。向こうもバカじゃないらしく、装填の間はカウンターに身を隠していたけど、反射勝負じゃ獣人には敵わないって点には気が回らなかったらしい。

 次の銃撃のためにそいつがカウンターの陰から身体を出した瞬間、ウチとフブキが発砲して、六発中四発の弾丸を食らった男はデスクをいくつかなぎ倒して事切れた。

 

 

 

 

 

「ミオ、この人まだ生きてる!」

 

 局内の安全確認をして回る中、フブキが郵便物仕分室の方からそう叫んだ。私書箱の前で死んでいたドリスコールの懐を改めていたウチは、カウンターを乗り越えて局の奥に急いだ。背後からフブキの声を聞きつけて、警察医か衛生巡査が走ってくる音も聞こえる。

 仕分室に着くと、市松模様のタイル床に作業服姿の男が一人、大の字に倒れ込んでいて、フブキがその横に跪いていた。男のシャツはその下の床と同じくらい血で真っ赤に染まっていて、出血が多すぎて手遅れなのは素人目にも明らかだった。

 ウチとフブキがその顔をのぞき込むと、男はウチたちを誰かと見間違えたらしく――あるいは幻覚を見てるのかもだけど――咳こみながら言った。

 

「コートニー......ついてなかった、な......でも、やって......やってみるだけの価値は、あった......ぞ......」

 

 警察医がやって来て、ウチたちを追い払った。もっとも、それ以上喋ることもなくウォルター・ベケットの人生はそこで終わった。

 

 

 

 

 

「フブキ、これ」

 

 仕分室を追い出されたウチは、手に持ったままだったドリスコールの手帳をフブキに手渡した。フブキがぱらぱらめくって、一番新しいメモに目を止める。

 

「......"コートニーとミッキー・コーエンの会合、今夜九時、以前の場所"。シェルドンは仲間を引き連れて行くつもりだったのかな......」

「失礼します、シラカミ刑事」

 

 制服の上から白衣を羽織った衛生巡査が仕分室からやって来て、フブキに声をかけた。

 

ガイシャ(ヴィック)が握りしめてました。警察医の先生が、これをシラカミ刑事が見たがるだろうと」

「どれどれ」

 

 フブキが受け取ったのは、しわくちゃの名刺だった。後ろから覗き込む。

 

 

――ポーラー・ベア製氷会社

 

  レニー・フィンケルシュタイン

  総支配人――

 

 

「これでしっかり繋がったね」

 

 フブキが名刺を衛生巡査に返しながら言った。

 

「クールリッジ強盗は第六海兵連隊。少なくとも、その一部。彼らはレニー・Fに麻薬を売って、銃器や煙草は自分たちで売り捌いてた。でも、なんでだろう?」

「何が?」

 

 フブキの疑問がつかめずに、ウチは訊いた。

 

「動機だよ。動機がわかんないんだ」

「お金、じゃない?」

 

 ウチは頭を巡らせながら言った。

 

「モルヒネだけで10万ドル以上になるし、銃や煙草の売り上げを入れればもっとでしょ」

「たぶん、そうだね。たぶん。でも、だから余計にわかんないんだよ」

 

 フブキはロビーの床に、靴の先で何か模様を描きながら続けた。

 

「この状況、どう考えてもおかしいんだよ。フィンケルシュタインが死んで、コーエンがモルヒネを引き取ろうとしてるみたいなんだけど、こうやって威迫してまわるってことは引き渡しを渋られてるってことだよね?」

「たぶん」

「お金が欲しいなら、売り渡しておしまい。でしょ? コーエンだって、そこまで買い叩いたりはしないはずだよ」

「じゃあ、海兵隊が調子に乗っちゃったんじゃない?」

 

 ウチは頭の中で、可能性に線を引きながらそう言った。

 

「逆にコーエンに、法外な値段を吹っ掛けた。で、交渉が決裂して......」

「なるほどね。そうかも」

 

 あんまり納得してなさそうな口調で、フブキは返した。ウチはロビーにいた巡査に手招きして、ドリスコールの手帳を署に持ち帰るように命じてからフブキに言った。

 

「なんにしても、例の会合の場所に行ってみよう。ちょうどそろそろ九時だし」

 

 ロビーに掲げられた大時計は八時半を回ったところを指していた。それを見上げながら続ける。

 

「一緒にいるところを押さえたら、コーエンもシェルドンも何かしら話そうって気になるんじゃないかなあ?」

「そうだね。そうしよっか」

 

 

 

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