H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #5

 

 

 ポルカちゃんと並んで現場に入ると、お庭の一画に青いビニール・シートが敷いてあった。そのそばには、ステファンズ家の現場には無かった車両が駐まっている。検屍局の黒い寝台自動車だ。

 ビニール・シートの上には、白いリネンの覆いがされた人型が三つ並んでいる。リネンで覆われていない、焼けただれた死体を調べている緑色のツイードの背広を着た人は、私がよく見知った人だった。

 

「どうも、マル」

 

 ちょっと遠慮がちに声をかけるとマルコム・カラザース検屍官は目をあげて、しばらく私を見つめてから言った。

 

「じゃあ、早期退職するつもりはないんだな」

「今のところはね。状況は?」

 

 マルはそれ以上私のことを追求せずに、仕事の話に戻った。

 

「ソイヤー一家だ。その大きいのが母親、そっちの台車の上のが父親、そして子供二人。全員ベッドにいた。解剖するまで断定できんが、見た限り死因は一酸化炭素中毒のようだな。熱傷は死後のものだ」

「死亡時刻は?」

「真夜中頃だろう。これも、断定するには時間がかかるだろうが。リンチからは給湯器(ボイラー)の故障だと聞いたが?」

「らしいね」

 

 私はちょっと振り返った。ポルカちゃんはリンチ司令補と一緒に、赤いヘルメットに黄褐色(カーキ)の制服姿の消防機関士から話を聴いている。リンチの部下だろうか。制服巡査は群衆整理に、防火服に黄色いヘルメットの消防士たちはめいめいの仕事に忙しそうだ。警察医と衛生巡査は救急車のところで煙草を喫っている。

 誰も聞いて無さそうなのを確認して、私は続けた。

 

「なんか、特定のブランドで故障が相次いでるんだって......白上はちょっと、考えが違うんだけど」

 

 マルは私の顔をじっと見つめると、話し込んでいるポルカちゃんの方を指して言った。

 

「その顔を見るに、あっちの連中にはまだ話してないんだろ?」

「うん、まあ」

「何故だ? 事件を解決したいんなら――ましてこれが本当に謀殺なら――、情報を共有して損はないと思うぞ」

「確証がいるんだよ、マル。本部のお偉いさんに勘付かれるよりも前にね。白上はほら......ワケアリだから」

「......君の性癖についてはとやかく言うまい。とにかく、君は優れた捜査員だ。三十年以上検屍官をやっているが、見てきた中でも一、二を争うと思う」

「どうも......」

 

 前半部分はともかく、こう面と向かって褒められるとちょっと気恥ずかしくなってきちゃう。いつもならミオの後ろにでも隠れるところなんだけど、今日はミオが隣にいない。帽子の庇を引っ張って下げると、マルは薄っすらと笑って続けた。

 

「できる限り協力するよ」

「ありがと、マル」

 

 お庭の捜索に入る前に、私はマルが調べている子供の焼死体を目に焼き付けた。誰のために仕事をしているのか忘れないために。もちろん自分の為でもあるけれど、それだけじゃないってことを。

 

 

 

 

 

「ん、なんだこれ......?」

 

 お庭の捜索は絶望的だった。放水でどろどろにぬかるんでいるうえ、消防士たちの耐火ブーツでこれ以上ないほど踏み荒らされていて、足跡とかも期待できなさそうだ。それでも文句は言えない。彼らに仕事をさせなかったら、ロサンゼルスはあっという間に焼け野原だ。

 それでもあちこちに散らばっている家屋の破片や残骸を見ているうちに、私は歩道際で何かの部品らしいものを見つけた。

 

「ロゴマークが刻印してある......インスタヒートだ」

 

 庭には給湯器(ボイラー)一式は見当たらなかった。たぶん、リンチ司令補かその部下が回収したんだろう。これはずいぶん遠くまで飛んできていたから、彼らが見落としたらしかった。

 

「ポールカちゃーん!!!」

 

 庭の奥で半壊した犬小屋を調べていたポルカちゃんが、泥を蹴立てながらこっちに駆け寄ってきた。

 

「どしたどした」

「これ、何だと思う?」

 

 部品を差し出すと、ポルカちゃんは矯めつ眇めつしながら呟いた。

 

「なんかの弁っぽいな。でも、ハンドルの類は見当たらないし......」

自動調圧弁(レギュレーター・バルブ)だな」

 

 リンチ司令補がやってきて、ポルカちゃんの手の中の部品を見るなりそう言った。

 

「いい発見だ。それだけ見つからなくてな、ちょうど探していたんだ......」

 

 そこでふと口を噤むと、声を落として続けた。

 

「オマル、道の向こうにチャップマンのやつがいる」

「フブちゃんこれ持ってて!」

 

 チャップマンの名前を聞くなりポルカちゃんはそう言って、調圧弁を投げてよこしてから猛然と走り出した。

 道の向かいにいた男が素早く裏路地に姿を消すのが、私には辛うじて見えただけだった。現場保存バリケードを飛び越えたポルカちゃんが、スカートをものともせずにその後を追って行く。

 私はリンチに調圧弁を手渡しながら訊いた。

 

「チャップマンって誰なんですか?」

放火魔(パイロマニアック)だよ」

 

 リンチは苦々しい顔で答えて続けた。

 

消防局(うち)火災犯課(おたく)も、やつを檻か病室の中にぶち込もうと散々頑張ってるんだが、やつは滅多に証拠を残さんのでな」

「ポルちゃんも、放火の証拠は滅多に残らないって言ってました」

「ああ、忌々しいことにな」

 

 リンチ司令補が吐き捨てるようにそう言った。それからそう時間をおかずに、裏路地からポルカちゃんが戻ってきた。

 チャップマンは後ろ手に手錠をかけられて、ポルカちゃんに引っ張られるように歩いている。自分よりも頭一つ以上大きなチャップマンを憤然とした顔で引っ張ってくるポルカちゃんは、その身長よりも一回り以上大きく見えて、私はちょっとした畏敬の念のようなものを抱いた。

 いいなあ、白上もあんな感じの存在感が欲しい。その場にミオが居合わせたら、「"シラカミ軍曹"で充分怖えーよ、お前はよ」とか言われたかもしれないけど。

 私はリンチと並んで、ポルカちゃんが道を渡ってくるのを待った。

 

 

 

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