H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #7

 

 

「なあ、フブちゃん」

 

 グリーンの48年式ハドソン・コモドールエイトの捜査用車に乗り込むなり、ポルカちゃんが声をかけてきた。

 

「なあに?」

 

 ポルカちゃんは始動キーを捻って、始動(スターター)モーターがやかましい音を立てて回る間だけ待ってから、エンジンがかかるなり口火を切った。

 

「ポルカはこれ、単なるガス事故の失火だと思ってるんだけど、フブちゃんは違うんでしょ?」

「うん、まあね」

「んでたぶんだけど、例の郊外再開発基金か宅建会社が絡んでるとみてる。違う?」

「疑ってはいる」

 

 ボカして答えたけど、まさにそう考えていたところを的中されて、私は内心でドキッとした。そんなにわかりやすかったかなあ?

 ポルカちゃんは捜査用車をキングスリー通りに右折させる間、ちょっと黙ってから続けた。

 

「だと思った。ポルカもその線はちょっと検討したからな」

「怪しいと思わない? 二件とも郊再基金との交渉を引き延ばしたら、火事になって焼け出される羽目になったんだよ?」

「まあ、偶然で片付けるには怪しいわな。偶然っぽい出来事をそのまま偶然で片付けるのは、警官としちゃ失格だと思うし」

「でしょ?」

「でもなフブちゃん、動機がないんだよ」

「なんで? 立ち退きを迫るのは立派な動機でしょ?」

「それが、動機にならねえんよ。少なくとも、放火の動機には」

 

 交通信号機がチンと鳴って青に変わると、ポルカちゃんは捜査用車をメルローズ通りに左折させる間、再度黙った。

 

「......なんでかって言うと、郊再基金と宅建会社に利益が無いから。火災が起きた以上、あそこは所謂瑕疵物件ってやつになるんだ。フブちゃん、瑕疵物件ってわかる?」

「人が死んだりした家土地のことでしょ? でもソイヤー家は上手くいってれば、ステファンズさんちみたいに無人だったはずだから......」

「ところが、無人でも火災が起きれば瑕疵物件になるんよ」

 

 捜査用車はホウバート大通り(ブールバード)に曲がって、サンタ・モニカ大通り(ブールバード)を目指して北へと走り続ける。

 

「建物は全焼したから――それに、再開発の時には全部取り壊すだろうし――この際関係無いにしても、土地の方は炎の高熱にさらされた上、消火用水をたっぷりぶっかけられたわけだ。土壌がどうなってるのかは神のみぞ知る。そんなわけで、火災のあった土地でトラブルがあったら、それは裁判じゃ主に不動産業者が不利になる。それを避けるためには、直近で火災があったことを契約前に買主に告知しなきゃいけなくて、そしたら当然......」

「当然、値切られる」

 

 私はポルカちゃんの後を継いで言った。ポルカちゃんは一つ頷いてから話を進めた。

 

退役軍人(GI)住宅ってことは半分は公共事業だろうから、そこは万全を期すると思う。つまり、宅地造成の時にあわせて土地改良もやるわけだ。普通の再開発よりもかなり金がかかる。でも公共事業ってことは、勝手に売値を上げるわけにもいかない」

「基金と宅建会社は損をする。それは納得かも」

 

 実際納得した。この理論で行けば、確かに郊外再開発基金とエリシアン・フィールズ不動産開発(デベロップメント)が放火をするメリットは全然ない。

 ポルカちゃんが話を続けた。

 

「で、ステファンズさんは保険がなく、ソイヤーさんは自分たち全員を焼いちまった。そっちは無理心中の線も一応あるけど、アルが給湯器(ボイラー)を見て何て言うか次第かな。どっちにしても普通、保険金目当てなら自分たちを蒸し焼きにはしない」

「つまり、偶然?」

「時には、偶然が真相のこともある。ガス事故が多発してることも考えると、なおさらな」

 

 そうかもしれない。もう一つ気になっていることがあって、それもポルカちゃんに訊いてみることにした。

 

「あのアルバート・リンチって人はどういう人なの?」

「リンチ? ロス消防(LAFD)の消防司令補、だから市警だと警部くらいだな。火災調査課。調査一筋三十余年、その道のプロ。フブちゃん、カラザース検屍官が死体の死因とかについて話してる時に、それを遮ろうと思う?」

「思わない。口を噤んで、耳を傾ける」

 

 そうするだけの経歴と見識がマルにあるからだ。彼を軽んじる刑事はいい刑事とは言えない。例えば......ラスティとか。

 

「だろ? アルは、火災調査におけるカラザースなんよ。彼が出火原因について話してる時には、火災犯刑事は口を噤んで耳を傾ける。ビッグス刑事とかはこの課にもう何十年もいるけど、彼さえそうなんだって」

「なるほど。じゃあ、白上もその時には静かにしとくよ」

「賢明な判断だと思う」

 

 

 

 

 

「派手な店構えだね」

 

 ポルカちゃんが捜査用車を路肩に寄せた。助手席の窓越しにガリヴァーズ旅行代理店の店構えを見た私の、素直な感想がそれだった。

 

「......まあ、工夫を凝らしちゃいるな」

 

 ポルカちゃんはだいぶ考えてから、そう当たり障りのなさそうな返しをしてきた。

 ガリヴァーズ旅行代理店の正面には飛行機の主翼を模した庇があって、ご丁寧にエンジンカウルとプロペラまでついている。四翅のプロペラは内臓のモーターかなにかでぐるぐる回っていた。

 庇の下の飾り窓の中は飛行機の機内をイメージした造りになっていて、一列に並んだシートと、それに座ってくつろぐ乗客たちの書割が配置されている。一番端には、お客に飲み物を渡す添乗員(スチュワーデス)の書割もあった。

 四角い舷窓の向こうに店内の様子が辛うじて見えている。

 

「ねえ、ポルちゃん」

「なに?」

「前から思ってたんだけど、ポルちゃんの前髪ってプロペラみたいだよね?」

「おう、これ回るぞ?」

「うぇえっ!?」

 

 流石に冗談のつもりだったんだけど、間をおかずに返されて私は狼狽えてしまった。ポルカちゃんはチェシャ猫みたいな笑みを浮かべると、実演はせずにすたすたとお店に入って行ってしまった。

 私は慌ててその後を追いかけて、ちょっと薄暗い店内に入った。

 

 

 

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