H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #8

 

 

ロス市警(LAPD)の白上刑事と尾丸刑事です」

 

 戸口のところでフブちゃんを待って、二人で並んでガリヴァーズ旅行代理店に入ると、玄関口すぐのデスクに座っていた男にフブちゃんが声をかけた。

 

「ジョン・カニンガムです。どのようなご用件で?」

「ローズウッド通り4414番地のソイヤー一家が、こちらの懸賞に当たったと......」

 

 カニンガムの手振りに応じて、フブちゃんは彼のデスクの客用椅子に掛けながら続けた。あたしはその斜め後ろに陣取る。

 

「......信じるに足る根拠があるんですけど、いかがですか?」

「ええ、その一家のことなら覚えていますよ」

 

 カニンガムは特に驚くような様子は見せずに、抽斗から帳簿を一冊取り出しながら続けた。

 

「当日になってキャンセルの電話をしてきたんです、お子さんが風邪をひかれたとかで。不運なことです」

「その名簿、見せてもらっても構いませんか?」

「ええ、どうぞ」

 

 カニンガムは名簿をこちらに向けて、デスクに置いた。フブちゃんがその上に屈みこみ、あたしも肩越しに覗き込む。

 名簿はカタリナ島旅行の当選者一覧らしかった。現地への輸送方法と、切符の発行状況が羅列されている。

 

「ソイヤー、いるね」

「ステファンズさんもいるな」

 

 フブちゃんが指で叩いた箇所には、"ソイヤー"の名前で始まる記述があった。赤線で抹消されて、取消(CANCELED)と書き込まれている。そのいくつか上の方には"ステファンズ"から始まる記述もあった。

 

「......この切符は籤引きの当籤商品だったと聞いてますけど」

「はい、そうです」

 

 フブちゃんが名簿の中身をメモに書き取りながら、質問を始めた。

 

「こういう大当たりは、どの程度出るものなんですか?」

「......その、お嬢さん、この手の籤はいつだってどこでだって、数百単位で行われてるんですよ?」

 

 カニンガムがへどもどしながら言った。眉根を寄せて不自然な笑みを浮かべ、言葉はどもりつつ目はあちこちに泳ぐ。嘘を吐くのがあまりにヘタクソだ。

 あたしでも、もうちょっとましな誤魔化し方ができる気がする。

 

「運が良ければ、帽子の中から名前入りの籤が引かれるわけです。おわかりでしょ?」

「ソイヤー一家がカタリナ島にいたであろう時に、彼らの家は彼らごと焼け落ちたんだけど」

 

 あたしは高いところから、カニンガムを睨みつけながら続けた。

 

「それでも幸運だったって思うの?」

「なんてことだ......いえ、とてもお気の毒だと思います」

 

 彼の目に浮かんだショックと動揺は本物っぽかった。もうちょっと押してみよう。

 

「んで、誰がソイヤー一家を勝たせたの?」

「その......小声でいいですか?」

 

 カニンガムは、たぶん周りのお客たちに聞こえないようにするためだろうけど、声を低く抑えて言った。あたしたち獣人なら十分聞き取れるから、あたしもフブちゃんも頷くと、カニンガムは明らかに後ろめたそうな表情で続けた。

 

「大抵の切符は皆さんが思い描いている通り、別途抽選された方の監督下で籤引きを行います。しかし郊外再開発基金の場合は別で、当選者が誰かを隔週で電話してくるんです」

 

 ということは、ステファンズ家やソイヤー家が当選したのは郊再基金の思惑だったってことになる。でも一体何のために? 何か他に、土地を瑕疵物件にしてでも彼らの利益になることがあるんだろうか。

 あたしが考え込むと、フブちゃんが質問を続けた。

 

「郊外再開発基金について、なにかご存知のことはありますか」

「大しては。それこそ、その籤の主催者だってことくらいしか知りませんね。うちの郵送先名簿(メーリング・リスト)だけで、市内の大半のご家庭にビラを送れますから」

「じゃあ、彼らは政府機関ではないんですね?」

「そうは思いませんね」

 

 カニンガムは半笑いで答えた。もっとも、政府機関なら民間企業の郵送先名簿(メーリング・リスト)に頼る必要はないはずだし、当然か。

 

「政府機関は普通、こういった籤をやることはありませんから」

「なるほど......ご協力ありがとうございました、カニンガムさん」

「いえいえ......その、ステファンズさんも火災に遭われたんですか?」

 

 フブちゃんが客用椅子から立ち上がってお暇を告げると、カニンガムがそう訊いてきた。

 

「ええ」

「でも彼らはキャンセルされませんでしたから、亡くなってはないんですよね?」

「はい」

「その、彼らの為になにか、できることがあればと思うのですが......」

 

 カニンガムの顔に浮かんでいる痛ましい表情は本物らしかった。どうやら根は善良な人みたいだ。

 

帽子を持って回る(寄付を募る)のはどうでしょう? 数ドルくらいでも助けになると思いますよ」

「そうだとは思いますが......」

「じゃあ50ドルだな」

 

 あたしはにんまり笑ってカニンガムに言い放った。

 

「あんたは善きサマリア人だって、さっき戸口を潜った瞬間にわかりましたよ」

「五十!? そんな......」

「徳を積みましたねえ、カニンガムさん。善い人ですね、全く」

 

 フブちゃんもあたしに乗っかって、明らかに笑いを含んだ声でそう言った。二人でドアを潜って外に出るとき、背後からカニンガムが諦めたように言うのが聞こえた。

 

「ああ、俺は善い人だよ、全く。懐は寒いけど善人だとも」

 

 

 

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