H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #9

 

 

「受令台です。名前と識別番号(バッジ・ナンバー)を」

「白上、識別番号(バッジ・ナンバー)1005V(ヴィクター)

「......用件をどうぞ」

 

 私はガリヴァーズ旅行代理店から少し西に行った先にある警察用非常電話函(ゲームウェル)を使っていた。そばに停まっている48年式ハドソン・コモドールエイトの捜査用車の中では、ポルカちゃんが暇そうな表情で電話が終わるのを待っている。

 

記録課(R&I)に繋いでください」

「少々お待ちください......どうぞ」

「R&Iです」

「郊外再開発基金の情報を願います」

「少々お待ちください......」

 

 照合用カードをパンチしたり簿冊をめくったりする音がしばらく続いて、少々どころではなく待たされたけど、ようやくR&Iが受話器を取り上げる音がして喋りはじめた。

 

「......郊外再開発基金は退役軍人(GI)住宅を建設するために設立された、半官半民出資の投資信託(ファンド)です。資本金の約四割が政府出資、残りは民間投資から構成されています」

「事業所はわかりますか?」

「市警に登録されているのは一件だけ、ビバリーとマリポーザの角です」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「郊外再開発基金のこと、調べてみようと思うんだけど」

 

 路肩に駐めた捜査用車に戻るなりポルカちゃんにそう訊くと、運転席に入ったポルカはしばらく考え込んでから返してきた。

 

「......まあ、ええやろ。何かしら関与がありそうな感じじゃあるしな」

「ポルカちゃんはやっぱり、郊再基金は絡んでないって思ってるの?」

 

 始動(スターター)モーターの甲高い音を挟んで、ポルカちゃんが答える。

 

「断定はできねえけど、相変わらず動機が謎だからな。今ある材料だけで判断しろって言われたら、ポルカは事故説に一票入れる」

「そっか......」

 

 ちょっとガッカリしてそう言うと、ポルカちゃんはちょっとこっちに視線を向けて小さく溜め息を漏らしてから言った。

 

「んまあ、調べてみるだけなら損しねえだろ」

 

 

 

 

 

「ここって......資材置き場かな?」

 

 ビバリー大通り(ブールバード)とマリポーザ通りの角にあったのは、金網フェンスで囲まれた建築資材置き場だった。ビバリー大通り(ブールバード)側には出入口らしきものはない。

 

「みてえだな。こっちに入口あるかな?」

 

 ポルカちゃんがそう答えて、捜査用車をマリポーザ通りに曲がらせた。

 その辺り一帯は再開発中の住宅地だった。あちこちで新しい家が建てられてて、資材置き場の中でも作業服姿の人たちが忙しく行き来しているのがフェンス越しに目に入る。

 ポルカちゃんはマリポーザ通りから一本東に入ったところに資材置き場の門があるのを見つけて、そっちに捜査用車を乗り入れた。この辺は再開発中だから、この小さな通りにもまだ名前はついていない。

 門を入ってすぐのところに飯場を兼ねた事務所らしいのがあるのを目にとめて、ポルカちゃんは捜査用車を事務所の前に駐めた。ちょうど事務所の前に現場監督らしい人がいたので、そっちに歩み寄っていく。

 向こうのほうがこっちに気が付くなり、先に声をかけてきた。

 

「おい嬢ちゃん方、ここは危ないから立ち入り禁止だ」

 

 先に立っていたポルカちゃんがちらっとこっちに視線を寄越した。私が話せってことらしい。

 

ロス市警(LAPD)の白上刑事と尾丸刑事です」

 

 警察官(バッジ)を掲げて続ける。

 

「ここが郊外再開発基金の事業所だと登録されてるんですけど」

「ここはエリシアン・フィールズ不動産開発(デベロップメント)の現場事務所だぜ、お嬢ちゃん」

 

 そう言って、現場監督は事務所に掲げられている看板を指し示した。いま彼が言った通りのことが書かれていて、どこにも郊外再開発基金の文字はない。

 

「んじゃ、エリシアン・フィールズは郊再基金の出資者ってことですね?」

「ああ、たぶんそういうことなんだろうよ。俺は知らねえけどよ」

 

 ポルカちゃんが確認するように訊くと、現場監督は適当にはぐらかした。それを受けてポルカちゃんは大げさに肩をすくめると、私に向かって言った。

 

「帰るよフブちゃん。どうもありがとうございました」

「えっ、ちょっと!?」

 

 ポルカちゃんはすたすたとハドソンに歩み寄ると、するっと運転席に乗り込んでしまった。早々にエンジンをかける音がして、私も慌てて後を追う。あの勢いだと、本当に置いて行かれるかもしれなかった。

 助手席に乗り込んでドアを閉めるなり、ポルカちゃんは猛スピードでハドソンをバックさせて資材置き場から出した。

 

「うわっ......ちょっと、どしたのポルちゃん」

「いや、エリシアン・フィールズ絡みなら、ここは一旦引いた方がいい気がしてさ」

「どうして?」

「フブちゃん、エリシアンの社長知ってる?」

「リーランド・モンローでしょ? ラジオにも、そこら中の広告にも出てる」

「そう。で、その様子だと知らないみたいだから付け加えとくと、モンロー社長はボーロン市長とウォーレル警察局長の個人的な友人だ。めっちゃ親しいらしい」

 

 ポルカちゃんはまだしゃべり続けてたけど、"ウォーレル局長の個人的な友達"というワードは、私に不快な記憶を思い出させた。

 あの夜の取調室で、コートニー・シェルドンが取引を申し出てまさに自白しようとしていたあの時を。局長が突然取調室に入ってきて、シェルドンが付き添いだと言って連れてきていたフォンテーン医師と親しげに握手を交わしたあの時を。

 そして私は――私とミオは――停職になった。

 

「......フブちゃん? フブちゃん、どした?」

「え?」

 

 気が付くと捜査用車は停まっていた。ケンモア通りとの角で信号待ちをしているところらしい。ポルカちゃんが心配そうな顔でこっちをのぞき込んでいた。

 

「いや、いや、なんでもないよ。白上、何か言った?」

「んにゃ、何も。ただ何ていうか......親の仇を見たって感じの顔で、息も荒かったから」

 

 交通信号機がチンと鳴って青に変わったので、ポルカちゃんは再び捜査用車を出した。

 

「なんでもないよ、ホントに......ところで、どこ向かってるの?」

「消防だよ。第32消防分署」

「リンチ調査官だね?」

「そ。とりあえず郊再基金関係以外に行く当てがないなら、アルの意見を聞いてみようかと思ってさ」

 

 私は正直、まだ郊外再開発基金に心残りがあったけど、私が過去に囚われてる間にポルカちゃんが言ってたことは大体想像がついた――たぶん、しっかりした証拠も無しにモンロー社長のところに凸するのは危険だとか、そんなところだろう――から、その意見に異論はなかった。

 

「いいんじゃないかな。白上も、リンチ司令補がどんな感じの人なのか掴んでおきたいし」

「じゃ、目的地決定ってことで」

 

 

 

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