H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #13

 

 

「さあて、誰から回って行く?」

 

 捜査用車のハドソンに戻ると、エンジンをかけてからポルカちゃんが訊いてきた。

 

「順当に、放火の前科者から行こうと思うんだけど」

「とすると、カタリナ通りと三番街の角だな。署の二街区(ブロック)西か」

 

 最後の方は呟くように言って、ポルカちゃんはハドソンをハーバード大通り(ブールバード)の交通に乗せた。

 

 

 

 

 

 カタリナ通りと三番街の角にあるアパートメント・ビルの敷地に捜査用車を乗り入れる頃には、カリフォルニアの空はすっかり夕焼け色だった。もう六時を回ったころだけど、ウォルター・クレメンスらしいインスタヒートの作業服を着た男はアパートメントの裏手で、ずらりと並んだ給湯器(ボイラー)を弄っているところだった。

 彼が工具を持ち替えるために屈みこんだところで、ポルカちゃんが両腕を掴んで立たせると、アパートメントの壁に押し付けた。

 

「うわっ、ちょっとなんだよ!」

ロス市警(LAPD)だ。いくつか質問に答えろ、そしたらすぐに解放してやる」

「わかったわかった」

 

 この手の手荒い扱いには慣れてるのか、クレメンスは降参するように両手を上げて続けた。

 

「早く済ませてくれ。点検先がまだあるんだ」

「じゃあまず、あんたがインスタヒートで働くのに必要な資格を持ってるかどうか訊こうか?」

「見ての通り、連中に雇われてる。それで答えになるだろ?」

「なりませんね」

 

 私は冷たい声で切り捨てて続けた。

 

「放火の前科がある人が、ガス工事の資格を取れるわけないでしょ」

「資格は前から持ってたんだよ。俺はずっと、ガス管工として働いてきたんだ。あの家は、そうやって蓄えた全部を注ぎ込んで建てた家だった。ところが俺のアバズレ家内が――もうそう呼びたくもないが――黒んぼとくっついた上に、離婚調停で家まで持って行きやがったんだ!」

 

 憤怒が爆発して、クレメンスは工具を持った手をぶんぶん振り回した。そのまま地面に叩き付けそうな勢いだった。

 

「俺が働いてる間に二人もスペイン系(スピック)どもを連れ込んでしゃぶった挙句、それを追求したらこの仕打ちだぞ! ああ、だから火を着けたんだ。くそったれな家に放火して、焼け落ちるのを眺めてたさ。お勤めは終えたが後悔も反省もしてねえし、する必要も感じてねえよ」

「一応ポルカたちは警察官だから、あんたのその意見には賛成できねえし、次やったら郡労役場(カウンティ・キャンプ)がルーズヴェルト・ホテルに思えるような州立刑務所(サン・クエンティン)の檻行きだってことは警告しとくぞ」

 

 表面上の言葉はさておき、ポルカちゃんの声音は同情の色を含んでいた。話半分に聞くにしても、なかなかあんまりな目に遭っているって言えるだろう。

 それでも放火していいって法はない。延焼したら無関係な人が損害を被るし、消防隊は余計な危険に曝されるし、不動産屋さんは損をする。なので私は頭の中のウォルター・クレメンスのプロフィールに、"怒りやすい"、"自己中心的"、"危険"と大書きして、同情を消し潰すことにした。

 

「じゃあ次です。マシュー・ライアンって人は知ってますか?」

「さあ......知らない名前だ」

「なるほど、共産主義者(コミー)の相方を庇うわけですね?」

 

 共産主義者に恨みがあるわけじゃないけど、切り口の一つとして責めてみる。ついでに同情を押しやって、冷酷そうに見せることもできるかもだし。

 

共産主義者(コミー)? 俺が? 証拠はあんのかい、お嬢さん? 集会まで尾けてきたとか?」

 

 面白がるような声音からして、彼が共産主義者じゃないことはすぐにわかった。以前のグローブナー・マカフリーみたいに面白がるフリをしてごまかすには彼は......単純すぎる。

 とはいえ必要なのはライアンの話だから、ここではもうちょっと押してみよう。

 

「ロッカーにパンフレットがありましたよね、"法と権力"って題のが。あれだけでも(H)(U)アメリカ的(A)(C)員会の名簿にあなたを加えることができますよ。公聴会に呼ばれたら、めでたくあなたも全国ネット・デビューですね」

「んで、アメリカ中のどこを探しても勤め口は見つからなくなるわけだ」

 

 ポルカちゃんが、さっきのクレメンスみたいな面白がるような口調で乗ってきた。

 

「せっかくのガス管工の資格も、これで実質パアだな」

「"法と権力"? ああ、あの紙クズはライアンが配って回ってんだよ。新しいのを仕入れるたびに同僚に押し付けて回るんだ、うざったいやつだよ」

 

 イラついた口調でクレメンスは続けた。演技じゃなさそうだ。

 

「あれで会社から譴責されてんのに、まだ続けてやがるんだ」

「問題児ってわけですね。じゃあもう一人の問題児について訊きましょうか。レジナルド・ヴァーレイは知ってますか?」

「いや、知らない」

「そうですか。ところでデトロイト市警が彼を殺人容疑で追ってるんですけど、逃亡幇助と司法妨害で彼と一緒にミシガン州の刑務所まで行きたいんですか、クレメンスさん?」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 クレメンスは工具を取り落として、両方の掌をこっちに向けて振りながら後ずさりした。これもたぶん、天然だ。お芝居をしようと思うなら普通、こんなに大げさな反応はしないだろう。そしてクレメンスは、こんな大げさなお芝居ができるほど役者じゃないみたいだし。

 

「俺がヴァーレイについて知ってんのは、宅建業者からワイロ貰ってるってことだけだ。施工を手早くやって、しかも手当たり次第に同僚を巻き込もうとしてるんだ」

「手早くね。そしてずさんに?」

「ああ、そうらしい。俺は噛んでないけどな」

「まあ、こんなところでしょう。ポルカちゃん、何か質問ある?」

「んにゃ、無い」

「じゃあとりあえずはこれで終わりです、クレメンスさん」

「仕事に戻ってもいいのか?」

「ええどうぞ。ただ、」

 

 工具を拾おうとしたクレメンスに、人差し指を突き付けて続けた。

 

「次の放火はしないように」

「努力するよ」

 

 

 

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