「ありゃ善いヤツだ」
捜査用車に乗り込むなり、あたしはフブちゃんにそう言った。
「キレやすくて自己中なところもあるけど、根は善人だよ、あれは」
「そうだね。加えて言えば、単純すぎて連続放火なんてできそうにないし」
「んじゃ、次に行こっか。アカと逃亡者、どっちから行く?」
エンジンをかける間、フブちゃんはちょっと考えてから言った。
「......ヴァーレイにしようと思うんだけど」
「確かビバリーとマリポーザの角だったな」
「うん。どっかで聞いたような住所だよね」
昼過ぎに訪れた、宅地開発現場の住所だ。なんなら区画を考えると、ライアンのいるノルマンディー通りと一番街の角も同じ住宅地のはず。
ハドソンを三番街に出しながらそれをフブちゃんに言うと、フブちゃんも頷き返してきて続けた。
「同じ開発現場だからどっちが先でも大差ないだろうけど、ヴァーレイはソイヤーさんち担当の点検員だった上に
「機会と手法、か。でもフブちゃん、動機は? せっかく州境どころか大陸までまたいで逃げてきたってのに、わざわざ警察の目につくような真似するかあ?」
実際、こうやってあたしたちが照会をかけなければ、レジナルド・ヴァーレイはもうしばらく自由の身だったはずだ。
デトロイト市警もミシガン州警もカリフォルニアでは何の権限もないし、隣接するオハイオ州とかインディアナ州とかならともかくカリフォルニア州の当局は普通、ミシガン州警からの通達に興味を抱いたりはしないもんだ。
「そこはちょっと、白上もビミョーだと思ってるよ......でも捕まえてみればわかるんじゃないかな?」
「んじゃ、そうしよか」
ビバリー
そのトラックのちょうど真横の壁に見覚えのある
フブちゃんに手振りで家の裏に回るように合図すると、ちょっと間をおいてからあたしは作業中の男の方に向かって行った。
「レジナルド・ヴァーレイさん?」
男は返事をせずにこっちを向いた。あらかじめ
「
言い切る前に、ヴァーレイはぱっと走り出した。
「ぐへえ!」
「さあて、警官から逃げようとした理由を伺いましょうか、ヴァーレイさん?」
フブちゃんがヴァーレイの両腕を無理矢理後ろに回しながら訊いた。ヴァーレイが何も言わないので、あたしが横から口を挟む。
「ポルカが当ててやろうか。デトロイト市警察が手配してるレジナルド・ヴァーレイって男と同一人物だから。違うんか?」
「弁護士が来るまで何も話さねえ」
ヴァーレイがあたしの方を睨みつけながらそう言った。
「あっそ。レジナルド・ヴァーレイ、連続放火の疑いで逮捕します」
放火、と聞いたとたんにヴァーレイが顔を上げた。一見戸惑っているらしいその顔に、にやにや笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「デトロイト市警が殺人容疑で移送を請求してくるだろうけど、正式に請求があるまでは、あんたはうちのお客さんだよ」
「放火だと? そんなんで俺をしょっ引くつもりなら......」
「黙んな。弁護士が来るまで黙っとくか、いま全部話すか。選択肢はその二つだよ」
ヴァーレイは何か言おうとしたのを飲み込んで、口を噤んだ。
「ようし。フブちゃん、こいつ見ててくれ。ポルカは
「マシュー・ライアンさん?」
護送車がヴァーレイを連れて行ってすぐ、あたしたちは同じ区画の別の家に乗り付けた。同じような造りの家の、同じような
今度は二人そろって車庫に向かうと、フブちゃんが男に呼びかけた。
「そっちは誰だ」
「
「警察? スピード違反の罰金なら、先週払ったぞ」
「交通切符の話じゃないんです、ライアンさん。白上たちは
「......
妙な間をおいて、ライアンが訊き返してきた。それから屈みこんで工具箱を持ち上げると、トラックの後部ドアに歩み寄りはじめた。
「ライアンさん?」
「これをしまったら、あんたらの話を聴くから......」
「その場から動くな、ライアン」
イヤな予感がして、あたしは口を挟んだ。目は離さずに
「動くなったら!」
あたしが金切り声を上げるのとほぼ同時に、ライアンは後部ドアをパッと閉めてトラックの
「ポルちゃん、捜査用車に!」
ライアンにタックルをかけるのは間に合わないって判断を、あたしよりもフブちゃんの方が一瞬早く出してそう叫んだ。
「くそっ、わかってたのに!」
あたしは捨て台詞を吐くと、フブちゃんにちょっと遅れて捜査用車の運転席に戻った。
あたしがアクセルを踏み込んでまだ真新しい直列八気筒エンジンに雄叫びを上げさせると、一瞬の間を置いてハドソンは急加速した。フブちゃんが思いっきり助手席の背もたれに叩き付けられるのがちらっと目に入る。
ライアンのトラックはGI達の裏庭――になる予定の一帯――を荒らし回りながら北に驀進していた。その後に猛然と追いすがる。
「3キング11からKGPL」
助手席では体勢を立て直したフブちゃんが、送話器を取って無線と話していた。
「3キング11、
「3K11、応援を要請します。451被疑者による148事案。被疑車両はインターナショナルD型、色は赤。インスタヒート社の作業用トラック。登録番号が、3-
「KGPL了解、KGPLから各局、3K11号車が応援を要請しています......」
ライアンは裏庭を抜けると、そのまま資材置き場に飛び込んだ。撥ねられそうになった作業員たちが逃げたり飛びのいたりする中、彼らを轢いてしまわないように材木の山の間を突っ切る。そのままライアンのトラックがぶち破った金網フェンスからビバリーとマリポーザの角に出ると、なおも北に逃げるライアンを追ってマリポーザ通りを北に向かった。
「ポルちゃん、あっちの後ろに着けて」
「りょーかい」
フブちゃんは獅白と思考回路が似てると見えて、
こっちはもう、獅白のアレで慣れたもんだ。馬鹿正直にマリポーザ通りを真っすぐに逃げるトラックの左後ろに着けると、フブちゃんがレギュレーター・ハンドルを廻して窓を開けて、銃を構えて身を乗り出した。
――バァン!
45口径
「させるかあ!」
思いっきりハンドルを切って捜査用車の鼻先をトラックの後部フェンダーに突っ込ませると、トラックはスピンを続けて横向きになり、そのまま横転した。金属のボディが舗道を擦る嫌な音が、ギーギーガリガリと響く。
屋根が丸っこい上に勢いがついてたからか、トラックはぐるっと一回転して止まった。タイヤは折れたりどっかにすっ飛んで行ってしまって、ボンネットの無くなったエンジンからはエア・フィルターが燃えているらしい火が上がっている。
あたしが急ブレーキを踏んでハドソンを停めると、フブちゃんはぱっと飛び降りて運転台に駆け寄って行った。
応援のパトカーが通りの北の方から走ってくるのを見たあたしは、あとはフブちゃんと巡査に任せようと思い、自分はKGPLにカー・チェイスの終了を知らせるために送話器を手に取った。
「3キング11からKGPL」