H.L. Noire   作:Marshal. K

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The Gas Man #15

 

 

「さあて、これで被疑者は三人だ」

 

 ウィルシェア警察署に向かうフォードのパトカーの後部座席で、ポルカちゃんが私にそう言った。

 ハドソンの捜査用車は前照灯(ヘッドライト)が両方潰れた上、ポルカちゃんがトラックにぶつけた時に右の前部フェンダーが歪んでタイヤに干渉していた。

 日もとっぷり暮れた今、無灯火で運転するのはさすがにダメだから、私たちのハドソンはレッカー車が、ライアンのトラックと一緒に市の車庫までレッカーして行って、私とポルカちゃんは応援にやってきたパトカーに便乗させてもらって、ガタガタ揺られながら署まで送ってもらってるところだ。

 

「チャップマンが犯人だったらポルカは嬉しいとこだけど、たぶんインスタヒートの二人のどっちかだな。そんな気がする」

「白上もそう思うよ」

「刑事、着きましたよ」

 

 パトカーはバーモント通りと三番街の角にある、ウィルシェア警察署の前に停まった。ポルカちゃんに続いてパトカーを降りると、ドアを閉めるなりパトカーは発車してパトロールに戻って行った。

 署に入ると、私は真っ先に警務主任のデスクに向かった。

 

「ホプキンズ警部補、被疑者二人はどうしてますか」

「シラカミ、お前の被疑者なんぞおらんよ。オマル、お前の被疑者は取調室にいる。ライアンが1、ヴァーレイが2だ」

 

 主任は警察コーヒー入りのマグカップ片手に、嫌悪感をまるで隠さない視線でこっちを睨みながら言った。

 またか。この視線は今朝出勤してから、ずっといろんな人たちから浴びせられてきた視線だ。たった一日だけど我慢の限界が近かった私は、相手の襟章のことは考えずに口を開こうとした。

 でも、私の喉が音を発するよりも先にポルカちゃんの横槍が入った。

 

「主任、逮捕手続書はフブちゃんの名前になってたでしょ? だからこれはフブちゃんの被疑者です」

 

 そう言うと、鼻白んだ様子の警務主任はそのままに、私の腕を取って署の奥に引きずるように歩き始めた。

 

「ほら、収監した順番にヴァーレイから始めよっか」

「うん......ありがと、ポルちゃん」

「ポルカは上官の勘違いを訂正しただけだから、フブちゃんに感謝される筋はねえけど。まあ受け取っとこうか」

 

 ポルカちゃんは妙に早口にそう言うと、取調室2のドアを開けて先に入るように促した。取調室に入りながらちらっとポルカちゃんの方を盗み見ると、金色の髪の毛の隙間から覗く人間の耳がピンク色になってるのが一瞬だけど、確かに見えた。

 

 

 

 

 

「さてと、ヴァーレイさん。巷の噂だと、あなたは不動産屋の子飼い(ポケット)らしいですね」

「まさか。俺にだって倫理ってもんはあるんだぜ」

 

 取調室2の椅子に、ヴァーレイに向かい合って座るなりそう切り出すと、ヴァーレイは一種小馬鹿にしたような笑みを浮かべて返してきた。東部出身なのを裏付ける超早口だ。

 私も微笑み返して言った。

 

「倫理ね。郊外再開発基金はどうやって、あなたのその倫理を崩したんですかね。手配書の通達でも見つけられました?」

「俺と郊再基金を結びつけることは、あんたにはできんよ。時間の無駄だ」

「そうですか。じゃああなたを法廷に引っ張り出して、ウォルター・クレメンスに証言してもらいましょうか。手抜き施工をして見返りを貰ってたんですよね?」

 

 ヴァーレイが黙り込んだ。

 

「しかもそれを広めようとしていた。クレメンスさん以外にも、同じ証言をしてくれる同僚さんはたくさんいるんじゃないですか?」

「オーケイ、わかったよ。基金の連中は、大規模で宣伝済みの宅地を完成させようと必死なんだ。これ以上は延ばせねえって納期があるらしくてな。ああ、だから俺は金を受け取ったぜ。でもそれは俺だけじゃねえんだ」

 

 わかってくれよ、って感じでヴァーレイは身を乗り出してきた。

 

「大工とか電気工とか、鉛管工までいたぜ。人数は多いけど、大した共謀ってわけじゃない。横の繋がりなんかねえからな」

「大した共謀じゃないかどうかは、ポルカたちが決めるんだよ」

 

 ポルカちゃんは背中を付けてたドアから離れると、そう言いながらヴァーレイを椅子に押し戻した。椅子に戻ったヴァーレイが、不服そうな顔でポルカちゃんをにらむ。

 私は咳払いをして注意をこっちに戻すと、質問を続けた。

 

「ではヴァーレイさん、ローズウッド通りで仕事をしたことはありますか? ソイヤーって名前の一家の家で?」

「さあ......ほら、俺はこの街の出身じゃねえからさ、どこに行ったかまで一々覚えてねえんだよ。点検よりも新設の方が多くてな」

「点検の仕事とまでは言ってませんけど?」

 

 一瞬固まったヴァーレイにダメ押しをかける。

 

「どっちみち、給湯器(ボイラー)に記録が残ってるんですよ。ご自身で、蓋の裏の点検記録に署名されたでしょ?」

「ああ......そうだよ、行ったよ」

 

 きまり悪そうに座りなおして、ヴァーレイは続けた。

 

「郊再基金の連中は、あそこの一家に出て行って欲しがってたんだ。ソイヤーが、給湯器(ボイラー)が壊れたって苦情を出してたから、連中はご機嫌取りにタダで修理をしてやったんだ。でもソイヤーはたぶん、連中をいいように使ってただけだな。出て行ったって話は聞かなかったし」

「基金はソイヤー一家を追い出したがってたんですね?」

 

 横からポルカちゃんが小さく咳払いするのが聞こえた。たぶん、私に向けてだろう。

 

「ああ、そう言ってるじゃねえか」

「なるほど。ところで話は変わりますけど、インスタヒート70型の圧力レギュレータの振動板(ダイアフラム)をひっくり返したとします」

 

 突然の話題転換に、ヴァーレイが戸惑った顔を向けてくる。

 

「そしたら何が起こるんですか?」

「あ?......ああ、その間違いなら前にやったことがあるぜ。種火(パイロット・ライト)がバカでかくなって、ドカンとくるんだ」

「それを知ってたから、ソイヤー家の給湯器(ボイラー)でわざと失敗して爆発させた。違いますか?」

「あんた正気か? そんなことしてねえよ」

「本当に? 家主を追い出したがってたあなたの飼い主(パトロン)に命じられるままに、彼らが焼け出されるように仕組んだんじゃないですか?」

「もう一回言うぜ、あんた正気か?」

 

 身を乗り出した私に負けじと、ヴァーレイも木のテーブルの上に身を乗り出してきた。

 

「俺が放火犯だって言うなら、その証拠を出してもらおうじゃねえか、え?」

「証拠ならあるぞ」

 

 定位置のドア前に戻ったポルちゃんが口を挟んだ。

 

「あんた、蚊取り線香(モスキート・コイル)って知ってるだろ? 会社のあんたのロッカーに一箱入ってたからな。あんたが日系だって言うんならともかく、あんな知名度の低い虫除け用品を持ってるんじゃ、あんたが放火魔だって治安判事に納得してもらうのは簡単なんだよ。あれは放火魔御用達の遅延信管だからな!」

「おい、ちょっと待てよ!」

 

 ポルカちゃんが声を荒げてヴァーレイに迫ると、ヴァーレイは身を引きながらも大声で反駁した。

 

「それはライアンの、同僚のマシュー・ライアンの私物なんだよ! あの左寄り(ピンク)野郎、てめえのロッカーがパンフレットかなんかでパンパンだからって、自分の私物を周りの人間のロッカーに入れてやがるんだ。財産共有だとかなんとか抜かしてやがるけど、ガラクタばっかりで盗る気にもならねえ」

「んじゃなにか、お前のロッカーにはお前の私物は入ってねえんか?」

「そういうわけじゃねえよ。ただ、そのモスキートなんとかってやつは知らねえ。俺が知らねえんなら、ライアンが勝手に入れたガラクタの内の一つだろうよ」

「言っときますけど」

 

 私は手帳の縁を鉛筆で叩きながら、薄情そうな声で言った。

 

「ライアンはこの署で勾留してます。あなたが嘘を吐いてるかどうか、すぐ確かめられますからね。撤回するなら今の内ですよ?」

「勾留してんのなら、とっとと話を聴いて来いよ。そのモスキートなんちゃらは俺の私物じゃねえ」

 

 そう言い返すヴァーレイは、椅子の背もたれに戻って自信満々の様子だった。表情はまだ怒ってるけど、嘘を吐いてる可能性は低い気がした。

 私はヴァーレイの目をしばらく見返してから、席を立った。

 

「では、これで終わりです」

「......んで? 俺はどうなるんだよ?」

「ポルカたちが告訴する気になったら、あんたは一連の放火で起訴されることになるな」

 

 ポルカちゃんがドアを開けながら続けた。

 

「そうはならなくてもおっつけ州警察(CSP)が迎えに来て、デトロイトの連中が殺人の件であんたを取り調べるだろうよ。まあ、そっちまではポルカたちの知ったこっちゃねえけどな」

 

 

 

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