H.L. Noire   作:Marshal. K

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A Day in the Cops' Life #2 ~Interval~

 

 

「KGPLから各局、セントラル管内にて487被疑事案入電中。ドヤ街(スキッド・ロウ)近い局、どうぞ(アイデンティファイ)

 

 中央署でアルマンの勾留手続き(ブッキング)を済ませてパトロールに戻ると、無線がそう呼び出した。

 公用車がちょうど大通り(ブロードウェイ)と3番街の角に来ていたので、私は送話器を取って応答することにした。

 

「7ウィリアム11です、どうぞ(ゴー・アヘッド)

「7ウィリアム11、ドヤ街(スキッド・ロウ)で進行中の487被疑事案。通報者の警備員と合流してください。現場、南中央通り(セントラル・アベニュー)400番地、南セントラル400、ロサンゼルス冷凍倉庫です。対処識別符号は3(コード・スリー)

「7W11了解。大通り(ブロードウェイ)と3番の角から向かいます」

「KGPL了解。以上KGPL」

「さあ、飛ばすぞお」

 

 トグル・スイッチを跳ね上げてサイレンと赤色投光器(スポットライト)を作動させると、ハンドルを握るポルカちゃんが獰猛そうな目をしてそう言った。

 

「いいけど、気を付けてよ。こんな時間だからガラガラだけど、同じ考えの人がいるかもだから......」

 

 ビュイックが一気に急加速して、私はシートの背もたれに思いっきり叩き付けられて、それ以上言葉を発することができなかった。

 

 

 

 

 

「やっとか、やっと来たかね!」

 

 現場につくと、巨大な冷凍倉庫の搬出口のかげから中を覗いていた初老の男がそう言って、こっちに歩み寄ってきた。エンジェルス警備保障(セキュリティ)の制服姿で、無帽の頭はだいぶ禿げ上がっている。

 

「オズワルド・ジェイコブスさん?」

 

 後からやってきたポルカちゃんが、胡散臭そうな調子で警備員さんに声をかけた。

 

「ポルちゃん、知ってるの?」

「前に捜査でちょっと......エンジェルスにお勤めだったんですか」

「ああそうだ。もう10年も前から、こういうことが起きるのをずっと待ってたんだ! それが悪いか?」

「いえ」

 

 ポルカちゃんの短い返答には、あきれ返った雰囲気がありありと出ていた。私も同じ気持ちだ。なんか、やっかいな目撃者さんに当たっちゃった気がする。

 

「被疑者のところに案内してください、ジェイコブスさん」

「え......こ、この先だ」

 

 ポルカちゃんにそう言われると、ジェイコブスさんは急に腰が砕けたようになって搬出口の中を指した。

 

「君たちが先に行ってはどうかな?......わ、私は援護するから」

 

 ポルカちゃんは盛大に溜め息を吐いてから、職務鞄から38口径警察標準輪胴拳銃(ポリス・スペシャル)を抜いて搬出口に入って行った。私もその後に続く。

 搬出口の奥には、この会社の物らしいインターナショナルK型のトラックが駐まっていて、作業服姿の男がその横でウロウロしていた。そいつにポルカちゃんが声をかける。

 

「こんばんは、ロス市警(LAPD)です。従業員の方ですか?」

「あ?......ああ、そうだ」

 

 あれ、なんかこの声、聞き覚えがある気がする。

 目を凝らしたけど、薄暗くって顔がよく見えない。

 

「夜間の保守点検でね」

「保守点検ね。具体的には、何を?」

「えーっと、その......」

「お巡りだ、お巡りが来やがった!」

 

 倉庫の奥から叫び声が響いた。目の前の男が奥に何か言い返そうとしたけど、それよりも早く銃声が響きわたった。

 

「うわっ!」

 

 ポルカちゃんが手近の柱の陰に、私はトラックの陰に慌てて走り込む。

 作業服の男はどっかに隠れちゃったけど、冷凍倉庫の奥からは二人の男がこっちに銃を撃ってきていた。

 

「どっちも拳銃か......火力は大したこと無いな」

 

 風紀課で重火器を使ったギャング同士の撃ち合いに慣れてしまうと、32口径スミス・アンド・ウェッソンらしい散発的な発砲があんまり怖くなくなってきちゃう。それでも、銃弾は一発でも当たれば致命的なのは相変わらずだ。この慣れが、一番恐ろしいんだ。

 自戒の念をこめつつ、慎重に聴覚照準を付けて、

 

「......そこっ!」

 

 二発撃った。ゴロゴロと喉を鳴らすような声と、誰かが倒れ込む音が聞こえる。

 

「ようし、あと一人......」

「どりゃあああ!!!」

 

 突然の喊声に、ポルカちゃんと目を見合わせた。銃声が何発も響き渡る。

 トラックのかげから恐る恐るのぞき込むと、もう一人の男も倒れていて、横手から奇襲をかけたらしい警備員さんが荒い息を吐きながら、38口径コルト・ポジティフを何度も空撃ちさせていた。

 

「見たか、見たか、見たかね!」

「弾、もう切れてますよ、ジェイコブスさん」

 

 ポルカちゃんが足早に歩み寄って、拳銃を握るジェイコブスさんの手を押さえた。

 

「ありがとうございます、助かりました」

「そうか、そうかね。それはその、よかった、うん」

 

 まだ興奮気味の警備員さんをなだめていると、背後でバタンとドアが閉まる音がした。

 パッと振り返ると、さっき盾代わりにしていたインターナショナルにエンジンがかかって、尾灯(テール・ランプ)がぱっと点くところだった。どうやらさっきまで隠れていた最初の男が、こっちの目を盗んでトラックを盗み出そうとしているらしい。

 

「ポっちゃん、ここ任せた!」

 

 返事は聞かずに走り出す。搬出口から出た時には、トラックはもう金網ゲートを弾き飛ばして4番街に出たところだった。

 

「くそっ、公用車はちょっと遠いし......お」

 

 そのゲートの近くに、37年式プリマス・デラックスが駐まっていた。前照灯(ヘッドライト)が点きっぱなしだけど、誰かが乗ってる気配はない。

 駆け寄ってみると、無施錠な上にエンジンはかけっぱなしだった。どうやら賊はこの自動車で倉庫まで来てたらしい。

 

「ラッキー、これを借りよう」

 

 こうして、行きは泥棒達の足になったプリマスは、今度は追手の足になった。無線機が無いから応援も呼べないし、サイレンもないからあんまり下手な運転はできないけど。

 盗まれたインターナショナルは4番街橋を渡って、イースト・ロサンゼルスの方へと走って行く。

 

「まずいなあ、無線機がないから市外に出られたら......」

 

 無線があればKGPLに頼んで、イースト・ロサンゼルス市警に応援を出してもらうこともできたんだけど。

 それでもトラックはそのまま東には逃げずに、クラランス通りに折れて北上し始めた。

 

「オーケイ、それならまだなんとかなる」

 

 3番街との交差点を過ぎたあたりでサイレンが聞こえだして、1番街との交差点でビュイックの公用車がタイヤを擦らせながら追跡に合流してきた。もしかしなくてもポルカちゃんだ。

 インターナショナルK型トラックは、二台の警察車両を従えて通りを突き進んだものの、クラランス通りは1番街を過ぎて少し行ったところで大きく西にカーブした。その突き当りは行き止まりだ。

 トラックは行き止まりのフェンスを突き破ると、真っ暗なロサンゼルス川にダイビングした。

 

 

 

 

 

 河川敷に駐めたプリマスから降りて、くっさい水に足をざぶざぶ漬けながら、横転してしまったトラックに歩み寄る。

 

「いい加減出てきて、両手を頭の後ろに回しなさい!」

 

 運転台(キャブ)のドアを蹴り開けて、ようやく男が一人降りてきた。さっき、最初に話をした男と同じ作業服だ。月明かりに照らされて、ようやく男の顔が見えた。

 

「......フランク・モーガン?」

「ああ、ああ、そうだ」

 

 懐かしい、交通課での最初の事件で、エイドリアン・ブラックの茶番劇を助けた男だ。一応逮捕はしたけど、執行猶予が付いて収監はされなかったんだ。

 

「なあ聞いてくれ、魚缶を積んだトラックを盗もうってのはハリーの考えなんだ、俺のじゃない。酒場(バー)でそう言う話になって、それで俺は......」

「黙れ」

 

 後からやってきたポルカちゃんが、刺すような声でそう言ってモーガンを黙らせた。どうもジェイコブスさんの対応で疲れ切ってて、モーガンの言い訳を聞く余裕はないみたいだ。

 

「フランク・モーガン、重罪窃盗並びに重罪自動車窃盗で逮捕します。エイドリアンに、白上からよろしくって伝えといてください」

「ああ、くそ......」

 

 手錠をかける間、モーガンはなんともやるせない、小悪党じみた悪態を吐いていた。

 

 

 

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